アマチュアの早咲誠和さん(45)が大橋貴洸五段(26)を降して将棋新人王戦ベスト4進出
8月19日。関西将棋会館において、第50期新人王戦・準々決勝▲大橋貴洸五段(26歳)ー△早咲誠和アマ(45歳)戦がおこなわれました。
大橋五段は将来を期待される新鋭の一人。昨年度、YAMADAチャレンジ杯と加古川青流戦で優勝。将棋大賞の新人賞を受賞しています。
早咲さんは長年に渡って活躍を続けるトップアマです。昨年は赤旗名人戦で優勝し、今期新人王戦に参加する資格を得ました。早咲さんは1回戦から順に横山友紀三段、梶浦宏孝四段(現五段)、三枚堂達也六段を連破。準々決勝に進出しました。
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大橋五段と早咲アマの対戦は、相居飛車の戦いとなりました。先手番となった大橋五段。作戦家の早咲アマは、本局のような立ち上がりならば、3パターンぐらいの対策を用意していたそうです。
大橋五段は左美濃から棒銀に出ます。ここは大橋五段の指し回しが巧妙だったようで、中盤の早い段階で大橋五段が優位に立ちました。あとは早咲アマに苦しい時間が続いていきます。
そこで早咲さんは、あえて銀桂交換の駒損を甘受する順を選びました。これは銀が遊んだままでは勝負にならないという大局観に基づくものです。
「指すのは決断がいるので、昼休憩にして、その後で指しました。あの銀を使わないと勝ち目がないと思ってました。わるいながらもあの手が指せたので、自分らしい将棋になったという気がします」
このあたりが百戦錬磨のトップアマの判断といえそうです。
前回の三枚堂達也六段戦と同様に、早咲アマは「これ以上は自分からはわるくしないように」と辛抱を重ねます。中盤戦が進むにつれ、次第にその辛抱がみのり、勝負形へともつれこみました。
終盤戦。早咲アマは大きな選択を迫られます。
ひとつは相手玉の上部に歩を打って、攻め合い勝ちを目指す順。もうひとつは自玉の近くに歩を打って、相手の飛車の利きをさえぎる順です。
えいやと勝負にも行きたいところでもありました。しかし、それは一直線に負けるかもしれないと判断。早咲さんは辛抱の順を選びました。結果的には、本局も辛抱し続ける姿勢が功を奏したようです。
最終盤では早咲アマの玉が次第に手厚くなっていきます。そして、ついに有望と見られるまでに好転しました。
大橋五段は早咲玉の近くの歩を突き捨てます。取ってあいさつする順もあれば、攻め合いに行く順もありそう。なんとも悩ましいところですが、ここで早咲アマは10分ぐらい考えました。そして最後まで読み切ったそうです。
「△2四同歩で1歩もらったら、盤面全体を使って相手玉は詰み。どの変化もぴったり歩が足りる」
これが結論でした。1歩をもらったら、少し進んだ後、大橋五段の玉には即詰みが生じる、と。
おそろしく強くなったコンピュータ将棋に、詰みがあるかどうかを問い、もし詰みがあれば、どんな長手数でも、ほぼ詰ますことができます。一方で、詰みがあるかどうかがわからない場合には、コンピュータも詰みを読めない場合があります。早咲さんが読み切ったのは、そうしたコンピュータもなかなか読めない詰みでした。
直線では二十手近く。周辺の変化を含めれば多岐にも及ぶ、そう簡単ではない詰みの手順を早咲さんは披露しました。
終局時刻は17時5分。総手数は116手。早咲アマは堂々たる勝ちっぷりで、新鋭の代表格である大橋五段を降しました。
早咲アマは1回戦から並み居る強敵を4連破して、ベスト4に進出。準決勝では、これまでに新人王戦で2回優勝している増田康宏六段(21歳)と対戦します。
過去には2010年の第41期新人王戦で、加來博洋アマが決勝に進出。決勝三番勝負では1勝2敗で阿部健治郎四段(現七段)に敗れましたが、大健闘を見せました。
もしこの先、早咲さんが優勝することがあれば、新人王戦ではアマチュア初となります。また棋戦の性格上、最年長記録を一気に更新することにもなります。
現在、プロでは木村一基九段(46歳)がタイトル獲得を目指して王位戦七番勝負や竜王戦挑戦者決定戦三番勝負で奮闘中です。早咲さんも、実は木村九段と同じ昭和48年(1973年)生まれです。
「この前、福岡で王位戦第3局の観戦をしました。(大分から)福岡まで勉強に行った甲斐がありました。木村さんはすごい活躍ですね。将棋を見てても感動しました」
早咲さんはそう語っていました。