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早咲誠和アマ、プロ公式戦で3連勝

松本博文将棋ライター
(画像撮影:筆者)

 2019年5月10日。東京・将棋会館において、新人王戦3回戦・三枚堂達也六段(26)-早咲誠和アマ(45)戦がおこなわれた。結果は128手で早咲さんの逆転勝利となった。

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 長きにわたってトップアマとして活躍し続けている早咲さんは、2018年11月、しんぶん赤旗全国将棋大会(通称:赤旗名人戦)で優勝。以下はその際のインタビューである。

 アマチュア第一人者の早咲誠和さん、将棋上達法と将棋界を語る

 赤旗名人となった早咲さんはアマチュア代表として、新人王戦に出場している。1回戦で横山友紀三段、2回戦で梶浦宏孝四段に勝ち。3回戦では若手強豪の一人として知られる三枚堂六段と対戦した。

 三枚堂六段戦が終わった後、早咲さんに電話でインタビューをおこなった。

辛抱の勝利

――大逆転での勝利、おめでとうございます。途中、早咲さんの方が全然ダメに見えたんですが・・・。

早咲 全然ダメですよね(苦笑)。とにかく必死にやった結果でしょうね。

――早咲さんは対局に臨むにあたって、周到な準備をすることで知られていますが、本局の序盤の▲2六歩△3四歩▲7六歩の後、4手目△7四歩は作戦なんですか?

早咲 いろいろ考えてたんですけれど、その一つですね。

――相手が強いということもあるでしょうが、途中、あれだけ苦しくなったのはなぜでしょう?

早咲 普通に対応されて・・・。(中盤で)角交換から銀を上がった手(▲2二角成△同銀▲8八銀)がよかったんだろうと思います。あれでどうも、苦しい感じですね。こちらの作戦はうまくいきませんでした。

――途中、手損してへこまされて・・・。ソフトの評価値を見ると、駒がぶつかる前から、かなりの差がついていました。早咲さんの側から見たら、心が折れそうになる人が多いと思いますが。

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早咲 そうですね。持ち時間もどんどんなくなるし。もう、ダメなんだけれども、自分からは絶対に折れないというかね。(暴発して)行ったら負けなんでね。

――早咲さんといえば、トップアマの間では、恐ろしく辛抱強いことでも知られています。今でもアマ大会では、こんな感じで辛抱することはあるんですか?

早咲 いや、ないです(きっぱり)。

――ないんですか(笑)。

早咲 ないですね。だいたい今はもう「えいやっ」って行って負けるんです(笑)。ただ、せっかくなんでね。辛抱するのも一つの楽しみかな、と。

――アマプロ戦という大きな舞台で、その辛抱が実ったと。今日は深浦康市九段と佐々木大地五段の師弟の扇子を対局に持って、対局に臨まれていたんですよね。早咲さんは大分。深浦九段と佐々木五段は長崎出身で、同じ九州ですね。

早咲 そうですね。対局前に「みんながんばろう」という話はしていました。佐々木五段には去年の10月に大分に来てもらったし、3月の梶浦四段戦の時にも会いました。(佐々木五段は阿久津主税八段との対局があるので)今日もね、ちょっとお話したんですよ。

――今日はどのあたりで勝負になったと思いました?

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早咲 (▲2三飛成△同金▲同角成に)△5二玉と逃げて、▲3三馬△5四飛▲8三桂△8二金で寄りがなければ、ちょっと大変になってるんじゃないかな、と思いました。

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早咲 まあ、負けだと思ったんですよね。でも(▲3八金打△4八角成▲同金△2八飛▲4九銀に)△4二銀と打った局面は「あれ、おかしいな、意外とがんばれてるな」と思って。(三枚堂六段は)▲2三飛成がよくなかったと言われてましたね。その前に、わるい組み合わせをしてしまったと。

――その順でも勝ちがあったけれど、まぎれてしまった、ということなんでしょうね。▲2三同角成の代わりに▲4三角成もあったようですが。

早咲 △4二飛だと・・・。▲3三桂△5一玉に▲4二馬と(飛車を)取っちゃうということですか。なるほど。こっちはもうずっとわるいと思ってやってるんでね。こんなこともあるんですね。

――新人王戦は3連勝でベスト8に進出。次の対戦相手は佐々木勇気七段-大橋貴洸四段戦の勝者と、いずれにしても強敵ですね。

早咲 またがんばります。

――早咲さんはずっと、アマプロ戦でも多くの実績を残してきました。前にも聞いたんですけれども、今も勝てる秘訣というのは何でしょうか?

早咲 もういい歳(45歳)なんでね(苦笑)。今はあまり気負わなくなったというか。自然と指しているという、それだけですよね。最近は負けることも多いですけれども(笑)それは関係なく、淡々と指しているというか、あまり勝ち負けにはこだわっていません。それがいいんじゃないですかね。

――話は変わりますが、この前の名人戦第3局では、連続王手の千日手の筋が出て、挑戦者の豊島将之二冠の勝ち。昨日の藤井聡太七段の対局でも、連続王手の千日手の筋が出てきました。私は記事で「レアケース」と書いたのに、2日続けて出てきたので驚いたんですが、早咲さんの長い将棋人生の中で、その筋で勝敗が決まったこととかありました?

早咲 連続王手の千日手ですか。いやいや、たぶんほとんどないでしょうね。相当レアですから。すごいですね。

――ありがとうございました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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