なでしこジャパン、世界女王に食い下がるも3連敗。目的のためには手段を変えることも必要だ

岩渕のゴールで一矢報いるも、アメリカに敗れた(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【女王に完敗】

 アメリカの3都市で行われたシービリーブスカップ。日本は初戦でスペインに1-3、第2戦でイングランドに0-1で敗れ、最終戦で世界女王アメリカと対戦。1-3で敗れ、3連敗で大会を終えることとなった。

 アメリカは、昨夏の2019年フランスW杯ではスペイン、フランス、イングランドが同居する“死の山”を勝ち抜き、連覇を果たした。監督がジル・エリス監督からヴラトコ・アンドノフスキ監督に代わってまだ4カ月と間もないが、今大会はW杯優勝メンバー23名のうち、20名が出場しており、昨夏のW杯も含めて国際試合で30連勝中だ。平日の夜7時キックオフとなったこの試合のチケットは早々に完売。スタジアムには2万人近い観客が詰めかけていた。

 

 日本はイングランド戦から先発4名を交代。GK山下杏也加、4バックは右からDF三宅史織、DF熊谷紗希、DF南萌華。DF土光真代、MF杉田妃和とMF三浦成美がダブルボランチを組み、左にMF中島依美、右にFW田中美南。FW菅澤優衣香とFW籾木結花が2トップを組む4-4-2のフォーメーションでスタートした。

 縦に速いアメリカの攻撃をコンパクトな守備で牽制した立ち上がりこそ良かったものの、日本のペースも長くは続かなかった。前半7分に中盤でボールを失い、勢いに乗ったMFリンジー・ホランを田中がファウルで止めると、このフリーキックをFWメーガン・ラピノーが鮮やかに沈める。26分にはアメリカの組織的な守備からGK山下のパスが乱れたところをラピノーに奪われ、最後はFWクリステン・プレスが見事なループシュートで差を広げた。自分たちのミスからゴールを献上する、これまでの2試合と同じ流れからの失点。

 この試合でアメリカは明らかに、自陣ゴール前でビルドアップに迷いがある日本の組織的な構造の弱点を見抜いた上で最終ラインにプレッシャーをかけていた。

 これで流れは完全にアメリカに傾くかと思われたが、日本も粘りを見せる。前線の菅澤をターゲットに、2列目で籾木がボールをうまく引き出しながら全体に流動性を生み出す。21分に三浦のインターセプトから菅澤がシュートを放つと、30分には三宅、その2分後には田中の仕掛けで相手ゴールに迫った。41分には三浦と籾木が連動して奪い、中島の決定機を演出したが、いずれも実を結ばない。

 しかし後半、前線にFW岩渕真奈が入るとにわかに流れが変わった。58分、中島の折り返しを受けた岩渕が独特の間合いから右足トーキックで右ゴールネットを揺らし、1点差に迫る。その後、75分には右サイドを抜け出した三浦がバーの内側を叩く惜しいシュートを放ち、同点まであと一歩と迫った。だが、結局追加点を奪えないまま、次々に交代選手を投入してきたアメリカは、83分に左コーナーキックをホランが綺麗にヘディングで合わせて3点目。日本も83分にFW植木理子を投入して追い上げを図るが、2点差を埋めることは難しく、そのまま試合は終了。

 アメリカが優勝し、2勝1敗のスペインが2位。3位は1勝2敗のイングランドで、日本は4位に沈んだ。

【ミスはなぜ起こったか】

 この試合で、高倉監督は両サイドバックにセンターバックが本職の三宅、土光を起用し、最終ラインにセンターバックを4人並べる大胆な采配をとった。その理由について、「(イングランド戦で)清水(梨紗)のケガもありましたし、土光、三宅に関しては、サイドというユーティリティ、ポリバレントという意味でも考えていたので、思い切って並べてみました」と、試合後に明かしている。

 また、右サイドで先発した田中の本職はセンターフォワード。代表では2017年から18年にかけてサイドハーフで起用されていた時期もあるが、久しく試されていなかった。五輪では登録メンバーがW杯より少ない18名になるため、1人が複数ポジションをこなせることが重要だと考える高倉監督は、選手を様々なポジションで起用してきた。

 その結果、この試合では本職ではないポジションでプレーした3人が、アメリカのキープレーヤーとマッチアップする形になった。土光が対面したのは、昨年のW杯得点王でMVPのラピノー。また、その背後には18年のNWSL(アメリカ女子プロリーグ)MVPになったホランと、ポジショニングと駆け引きに長けたDFクリスタル・ダンが並ぶ。土光とともにその選手たちのケアを任されたのが田中だ。また、左サイドの三宅がマッチアップしたのはアメリカ屈指のサイドアタッカーであるFWトビン・ヒース。左サイドバックとして、国内随一の国際経験と実力を持つDF鮫島彩が長年、攻略に苦戦してきたテクニシャンだ。

 そうしたことを考えれば、ミスが起こるリスクはあった。だが、守備面は機能していた。

 国際大会で慣れないポジションで起用されることに、選手たちはもう慣れている。アメリカ戦では、それが守備面の対応力として現れていた。

 しかし、攻撃面ではその脆さを露呈することとなった。“選手の判断や発想に委ねる自由な攻撃”は、アジアのレベルでは戦えても、現状は世界トップクラスの守備に対しては通用しないことが、この3試合で明らかになった。

 高倉監督はこの3試合のミスの原因について、「集中度や危機感が不足していた」ことを指摘し、今後の対策として「ゲーム勘や判断力は、(試合を)やり込んでいきながら、もう一回確認しなければいけないと思います」と語っている。

 もちろん、ミスや敗因がメンタル面や実戦不足だけではないことを、指揮官は分かっているはずだ。

 ビルドアップのイメージにズレが生じているのは、判断の拠りどころを共有できていないからではないだろうか。「ピッチの中で選手たち自身が考える力や判断力を身につけてほしい」(高倉監督)との思いから、攻撃に特定の「型」を作らず、「相手に読まれない」攻撃を目指してきたが、相手の守備のレベルが上がると判断が間に合わずに、危険なエリアでボールを失ってしまう。1対1になると、普段プレーしている国内リーグとの強度やスピードの差があからさまに出る。

 また、W杯前からの課題であるセットプレーの強化も急務だ。コーナーキックからカウンターを受けることは減ったが、得点を感じさせるパターンが少ない。

 アメリカ戦は交代策も後手に回っていた。この試合でアンドノフスキ監督は日本が1点を返して流れを引き寄せた58分から、アメリカが3点目を決める83分までに、5枚のカードを切って流れを引き戻した。逆に、日本は追い上げた流れを交代策で後押しできなかった。FW植木理子や、攻撃的なポジションでの起用を示唆していたDF遠藤純も含めて切り札となるカードはあったが、植木が投入されたのは失点直後の84分。それによって勢いは生まれたものの、2点差になってからでは遅かった。高倉監督は4つの交代枠を残した理由について、「後半にいい流れが作れていたので、しばらく引っ張ってこの面子で戦いたいという思いがあり、勝負にこだわって采配をしました」と答えた。3カ国とも、日本戦では6つの交代枠をすべて使い切った。だが、日本は3試合とも、交代枠を使いきることはなかった。

 そうした中で、収穫もあった。

 土光は持ち前のラインコントロールの巧さを見せつつ、51分には強烈なミドルシュートで会場を沸かせた。三宅は2018年夏のアメリカとの対戦(●2-4)時の経験から、「(8日の試合で対戦した)イングランドより何倍も速くて、強さもある」と警戒していたが、この試合では攻撃的なポジション取りを見せ、50分にはヒースとの駆け引きから、良い位置で日本にFKのチャンスをもたらした。

 高倉監督は「サイドとセンターができる選手が2人見えたのは大きいかなと思います」と、土光と三宅のパフォーマンスに手応えを感じていた。また、ディフェンスリーダーの熊谷は4バックの連係について、練習時間が少なかった難しさに触れつつも、「合わない感じはなかったです。ワイド(サイド)の選手たちが上手にボールを捌けるので、そういった意味では一つ、(オプションの)形としてあるのかなと思います」と語っている。

 田中は最初の失点に絡んだが、アメリカの守備が一枚上手だった。その後は慣れないサイドで果敢に仕掛けてチャンスも作ったが、前半で交代。アメリカの運動量が落ちて日本に流れが来ていた時間帯に、ディフェンダーの背後を取る動き出しに長けた田中の、相手最終ラインとの駆け引きを見てみたかった。

 攻撃陣では両サイドの中島や籾木も決定機につながるプレーがあったが、最も存在感を示したのは岩渕だ。この試合で決めたゴールは、アメリカにとっては今大会の初失点だった。後半からピッチに入ってのびのびと大胆に動く岩渕のプレーに触発されたように、全体の動きが滑らかになった。

「1戦目、2戦目を終えて自信がないというか。どこかで少しびびっている選手がいたり、チームの雰囲気的にも難しい部分がありました。楽しんでプレーすることを自分は大切にしているので、『楽しんで行こうね』と声をかけました」(岩渕)

 ダブルボランチは3試合とも、杉田と三浦がコンビを組んだ。スペイン戦とイングランド戦では動きが被ることも少なくなかったが、アメリカ戦ではバランスが改善されていた。司令塔としてチームを牽引する杉田の未来図が、朧(おぼろ)げながら見えた試合だった。

【解決すべき問題】

 高倉監督は16年4月の就任以降、強豪国とのマッチメイクのルートを再構築し、ランキング上位の国々に積極的に対戦を働きかけてきた。自信をつけさせるためにマッチメイクをする相手を調整してコントロールする手法を取る指導者もいるが、それはせずに、強豪に挑む中で自分たちに足りないものを探るスタンスを貫いてきた。例年、この時期はポルトガルで行われているアルガルベカップに出場していたが、昨年から欧米の強豪国が集うこのシービリーブスカップに参戦を決めた経緯も同様だ。W杯や五輪で対戦する可能性がある国に胸を借りることで、世界一への道を探ってきた。

 4年間、国内外の現場に足を運んできたが、恐れることなく強豪の胸を借りて戦ってきた選手たちには胆力も対応力もついてきたと感じる。W杯は負けてしまったが、それ以降は特に守備面が安定し、今大会でも一定の成果を示した。

 一方、攻撃面では、個々の発想に委ねられてきた中で、どうしても「個」に依存しがちなところがあった。W杯以降、日本は今大会も含めると8試合で21得点を挙げているが、そのうち8点を岩渕が決めている。E-1選手権では第3戦の韓国戦で岩渕がケガのために離脱し、守備の強度が高い韓国に対してはゴール前でのコンビネーションの質や決定力に課題を残した。

 そして、今大会は相手の守備の組織力や強度がさらに上がった結果、日本のビルドアップは諸刃の剣となった。アジアではごまかせていたミスも、世界トップクラスの選手たちは確実に決めてくる。

 個の力だけではない。緻密に計算されたポジショニングで日本のパスコースを限定してきたスペイン、交代策でゲームをコントロールしてきたイングランド、攻守において勝負どころを熟知していたアメリカーー3カ国とも、戦術・戦略面において目を見張る進化を遂げているように感じた。

 そう考えれば、今大会に向けた高倉監督の見通しが甘かったのは事実だろう。だが、強豪国に挑む方針を貫いてきたのは、こうした世界との「差」を知ることも含めてのことだった。この結果を受けて、どのような手を打つのかが問われている。

 高倉監督がピッチ上で攻撃を個々の発想に委ねてきたのは、与えられた規律を重んじるあまり、枠にはまってのびのびと個性を発揮しづらい時代に、「言われたことだけをやるのではなく、自分(たち)で考える力を大切にしてほしい」という考えからでもあった。だから、攻撃の「型」を作らずにきた。だが、世代や育ってきた背景、あるいはそれぞれのサッカー観も異なる中で、監督が提示する「自由」や「自主性」と、選手個々の受け止め方に差があるように感じることもあった。

 今後は、世界トップクラスの守備に対応するためにも、ビルドアップの際に咄嗟の判断を可能にする優先順位や「型」をもつことは有効な手立てだと思う。そのために、監督が再現性のある攻撃パターンをいくつか導入するか、「考える力」を大切にする指揮官の方針を考えれば、イングランド戦の記事でも書いたように、選手主導で「型」をつくっていくのも良いのではないかと思う。論理的で冷静に物事を考えられる選手が多いので、個人的には後者でもうまくいく気がする。

 また最後に、このチームの不安要素となっている故障者の多さについて触れたい。昨年の大会では体調不良やケガで主力の多くが招集されず、大会中はインフルエンザや体調不良などで複数の離脱者が出た。そして、今大会は大会前にFW小林里歌子がケガで不参加となり、イングランド戦でDF清水梨紗が負傷し、MF長谷川唯は1試合も出られないまま帰国を余儀なくされた。

 高倉監督は「誰が出ても力が落ちないチーム」を目指しているが、現状、その3人はこのチームに欠かせない存在であり、今大会も離脱の影響がなかったとは言えない。昨夏のW杯では主力に故障者を多く出してしまったことで、大会中に紅白戦ができないなどの“誤算”を生んだ。五輪はただでさえ18人しかいないため、それはなんとしても避けたい。

 長谷川は2月の国内合宿はケガで不参加となったが、今大会は初戦から出場できる状態だった。実際、渡米翌日の練習にはフルで参加しており、筆者は本人から2日後のスペイン戦に向けた戦い方や意気込みなどを聞いている。だが、前日の練習には参加せず、スペイン戦とイングランド戦もベンチ入りはしたものの出場はせず、そのまま帰国となった。国内リーグはシーズン前であり、「今は無理をさせる時期ではない」(高倉監督)と、直前で大事をとる判断だったという。

 このチームの主力で、現在はリハビリ中の鮫島も、長谷川も、もともとケガが少ない選手だ。それが大会時期と重なってしまったのは、不運としか言いようがない。ケガ人の状況については、各クラブのメディカルスタッフと代表チーム側が緊密に連携し、最終的な判断を下すことで、本大会へのリスクを最小限に減らしていくことが求められている。

 国際試合と国内リーグ戦との強度の違いも、代表選手にケガが多い要因に挙げられる。欧州勢を中心にスプリント能力や強度の向上が見られる中で、国内リーグとの「差」によって日本の選手は筋肉系のトラブルに見舞われやすいとも聞く。

 現在、日本はプロリーグではないが、今大会出場したアメリカもイングランドもスペインも選手たちはプロであり、各国代表クラスの選手が日々しのぎを削っている。そうした中で「個」が磨かれてきたのだと思うし、指導者も揉まれているのだろう。それに加えて、欧州の男子サッカーで導入されている最先端の分析テクノロジーなどを駆使し、代表チームには多様な戦術や、相手に対応するための落とし込みがなされている。

 強豪国と互角に戦えるようになるには、先に挙げたような攻撃面の対策と並行して、そうしたプレー環境の「差」を埋める方法も考えていかなければならないだろう。

 今大会を通じて明らかになった課題を前向きに解決し、この3連敗が飛躍の糧になることを強く願っている。

なでしこは今大会の敗戦を五輪につなげられるか(筆者撮影)
なでしこは今大会の敗戦を五輪につなげられるか(筆者撮影)