フランス女子W杯を検証(3)フィジカルは確実に向上。誤算を生んだケガ人続出の背景とは

強豪国の選手相手に対等に球際で競る場面も少なくなかった(左は清水梨沙)(写真:ロイター/アフロ)

 今年6月から7月にかけて行われた2019女子W杯フランス大会で、ベスト16に終わったなでしこジャパン。大会から1ヵ月強が経った8月15日、JFAで今井純子女子委員長から、データによる試合内容の検証や大会の総括が報告された。

 報告の中で話題が前後していた部分は、一部、報告内容を元に構成し直し、3年間チームを取材してきたなかでの筆者の見解も加えながら、全4回に分けて、その内容をまとめた。罫線内のデータは今井女子委員長(JFA)による検証結果および報告である。

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 この記事では、フィジカル面とコンディショニングについての検証結果と今後の展望の報告について取り上げる。

【フィジカル】

※JFA報告(一部抜粋)

方針(3年前から意識的に取り組んできた要素)

(1)筋力(パワー)(2)持久力(スピード)(3)スピード・アジリティ

+スピード持久力(※1)(高強度)の維持・向上/スプリント能力(初速)の向上/継続的なパワートレーニング

●パワートレーニング

・2017年より毎年1月の国内キャンプで取り組み、個々にトレーニングを処方

・所属クラブのフィジカル担当者とのミーティングで共有

→結果、10m(※2)のスピード1.5%アップ、40m(※2)のスピード1.2%アップ

●アジリティの向上

・若い選手の減速、加速力向上

・フットワーク拡大(股関節の可動性)

・力の出し方、ボールの受け方を洗練させる(股関節・体幹)

●最高速度の変化

継続的にトレーニングをしている選手で向上が見られる(低下、非向上のケース:怪我、トレーニング不足)

スタッツ(フランスW杯における4試合)

・総走行距離:1位(24カ国中)

・50/50のボール勝率(43.8%) 21位

・タックルでのボール奪取率(50%以下)17位

・高強度運動量(Z5=時速23km以上、Z4=時速19km以上のスピードでの走行距離)(※3)

Z5:21位

Z4:15位

結果・改善点

・トレーニング中の高強度スプリント回数を上げていく

・アジリティ、運動量、高強度(運動)の反復

・守備の強度向上=ボールを奪われない能力は向上

・50/50のボール勝率は50%を最低ラインにする

・タックルでのボール奪取は55%が目標

・4試合を通じて、ボール保持時にZ4の数値は相手に優っていたが、得点を取るためにはZ4、Z5の強度を発揮することが必要

・最高速度の変化=素走りでZ5発揮する能力はあるため、引き続き取り組み、ケガをしないように鍛えていく

・パワー、球際の強度は2015年を上回るレベルを発揮できているが、大会全体のレベル向上の中ではまだ不十分であるため、さらに強化した取り組みが必要

(※1)スピード持久力=間欠的運動能力。サッカーの動きで必要な、10~30mの短距離を全力で走る強度の運動を繰り返す能力

(※2)10m/40mのスプリント走

(※3)以前はZ4=時速18 kmだったが、大会自体のレベルアップを受けて、設定が時速19kmに上方修正された

 広瀬統一コーチは、2008年からなでしこジャパンにフィジカルコーチとして帯同しており、佐々木則夫監督が率いた11年や15年大会も経験している。高倉監督の下で17年から年始にフィジカルキャンプと銘打った合宿を継続的に行っている目的や効果について、広瀬コーチはW杯前の国内合宿で以下のように話していた。

「課題とされてきたスピードとパワーを1%でも高めることと、継続してフィットネスを高めていくために、あえてフィジカルキャンプと銘打って意識づけをしました。実際にフィジカルしかやっていないわけではないですが、各クラブ、あるいは選手に対してもフィジカルに向き合うことが大事だと伝えています。それを機に、いくつかのクラブでもフィジカルコーチを専任で置いたり、パートタイムで置く例も出てきました。(ーー効果は?)体力測定を元に、パワーがある選手、スピードがある選手、持久力がある選手という風にカテゴライズしました。選手一人ひとりが持っているものが一番じゃないとチームは世界一になれないと思いますから、まずは無い物ねだりではなく、持っているものをもっと伸ばしていきましょうという働きかけをしました。その結果、全体的に個々の特徴が伸びています。また、アジリティとスピードの持久力は日本のストロングポイントですから、その2つで負けないこと。フィジカル面ではそれが大きな目標です」(広瀬コーチ/5月)

 数字上は、スプリント能力が3年前から向上したことが成果として表れている。また、各クラブでの代表選手たちの継続的なフィジカルトレーニングの成果については、特に直近の親善試合などで、複数の選手が試合の中で実感できるようになったと口にしていた。だが、大会中はその成果を攻守において結果に結びつけることができなかった。

 1試合あたりの走行距離が参加国でトップだったように、持久力は日本の特長である。ただし、相手にボールを持たれることで「走らされている」場合でも走行距離は伸びるし、相手選手とのパワーやスピードのハンデを埋めるために走っている場合でも伸びる。

 相手に疲れが見えてきた後半に日本がペースを握る、という試合展開は4試合に共通しており、持久力の優位性が試合内容に反映されていた。しかし、実際には後半の得点は一つもなかった。

 強豪国との対戦では序盤の試合運びに課題があることが明らかだ。敗れたグループステージ第3戦のイングランド戦(●0-2)とラウンド16のオランダ戦(●1-2)では、いずれも前半20分までに失点しており、この時間帯の失点の多さは以前からの課題だ。そして、高倉ジャパンは先制された試合で逆転勝ちをしたことがなく(※)、後半のスタミナの優位性を生かせていないことになる。

(※)2016年から国際親善試合を含めて全48試合を戦い、23勝9分16敗。先制された試合は2分15敗。

 30度以上の過酷なコンディションが予想される東京五輪で、日本のスタミナは有利に働くだろう。だからこそ、立ち上がりの失点は絶対に避けつつ、リードされても後半、確実に得点できるメンタリティと決定力がほしいところだ。

【コンディショニング】

 W杯期間中、日本は常にケガ人を複数人抱えていた。5月10日のメンバー発表時点では2人(大会中の回復が見込まれていた)だったが、メンバー発表後のリーグ戦と大会期間中にも負傷者が続出し、別メニュー調整だった選手を含めると、その数は10名近くに上ったのではないだろうか。その結果、紅白戦や強度の高いトレーニングができなかった。

 その報告と、今後の改善点について、以下のように報告された。

※JFA報告

大会期間前(1-6月)

チーム強化の期間(特に2、3月)から、怪我・コンディション不良によって、W杯で軸となると予想された選手を揃えチームづくりを深めることができなかった

2016年の立ち上げ時より留意してきたが、この時期のコンディションを整えることは引き続き課題

大会期間中

事前と期間中の怪我があり、トレーニングが計画通り進まず、負傷者に対するスタッフによる対応の必要が生じた。フランスに出発する段階で、1カ月半で7試合(決勝までを戦う)の見込みを持って臨んだが、コンディションが上がりきらないケースもあった

改善点

→選手の休養、クラブとの一層の連携(により予防に努める)

→五輪に向けては、特に18人登録と短期決戦であることを考慮し、(選手選考を)慎重に検討していく

・東京五輪までの代表活動継続と日常での取り組み

・クラブとの共有・連携を深める

・個々へのフィードバック

・フィジカルトレーニングの継続、オンザピッチでの発揮の強度(を上げる)

 ケガの具体的な箇所や直接的な要因はわからない選手もいるが、故障者が多く出てしまった原因として一つ考えられるのは、主力選手の過密日程だ。

 今大会でレギュラーだった主力の多くは、この2年間、海外遠征や国内強化合宿などでまとまったオフを取れなかったのではないだろうか。

 特に昨年は、4月のアジアカップ、6月と7月の海外遠征、8月のアジア競技大会と、シーズン中に海外遠征が続いた。加えて、代表に多くの選手を送り出している日テレ・ベレーザとINAC神戸レオネッサは、昨夏のカップ戦に加えて年末の皇后杯でも決勝まで勝ち残ったため、クラブと代表で主軸として戦ってきた選手たちは、今年の元旦に行われた決勝までをフルで戦っている。それによって代表の始動も1月末になったが、その後は2月の海外遠征、3月のリーグ開幕、4月の海外遠征、5月の事前合宿から大会まで、ほぼ毎週末に試合がある状態だった。

 大会3カ月前に行われたアメリカ遠征では、主軸となる選手たちのケガやコンディション不良等が重なったこともあり、本大会に臨んだメンバー23名の6割強しか参加していない。現地ではインフルエンザにより、レギュラー3名が出場できない状況にも陥った。それは、大会前にセットプレーなど細部を詰める作業が遅れるという形で影響を与えたのではないだろうか。

 真剣勝負の中でケガを防ぐのは難しい。今大会では、メンバー発表後に国内直前合宿前のリーグ戦で2名が負傷してしまった。4年後は、大会前のリーグ戦の日程を再考するのも一つの方法ではないだろうか。

 大会中のケガは、芝や環境の違い、国内リーグとのプレー強度の差なども影響した可能性は否めない。今大会のチームには、年代別代表も含め、国際大会の経験が豊富な選手が多かった。だが、フル代表で味わう強豪国のプレーにおける強度の高さは、多くの若手選手が初めて体験するものだったと口にしていた。直前の強化試合でアメリカ、ブラジル、オーストラリア、フランス、ドイツといった世界ランク上位の強豪国と対戦する機会があり、その強度にもある程度は慣れることができていた。それでも、今大会がこれまでよりもさらに強度の高い大会であったことや、疲労の蓄積がケガにつながった可能性はある。

 そういう意味では、フィジカルトレーニングと並行して、ケガ予防の対策も加速させていくべきではないだろうか。そのチームに代表選手がいる、いないに限らず、女子選手のケガや疲労の蓄積に対する専門的な知識を持ったトレーナー、フィジカルコーチが、何らかの形で関われるようにできれば理想的だ(女子選手は男子選手よりも膝のケガが多い)。欧州のリーグでは、小さなクラブでもフィジカルコーチやトレーナーを置いているチームが多いという。

(4)に続く