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U-17女子アジアカップが開幕。リトルなでしこは世界の舞台への扉を開けるか

松原渓スポーツジャーナリスト
U-17日本代表がアジアカップに挑む

【ワールドカップ出場をかけたアジアの舞台】

 なでしこジャパン、ヤングなでしこ(U-20女子代表)に続き、リトルなでしこ(U-17女子代表)がアジアの壁に臨む。

 5月6日(月)に、インドネシアのバリでAFC U17女子アジアカップが開幕する。今大会は、今年10月にドミニカ共和国で行われるU-17女子ワールドカップのアジア予選を兼ねており、上位3カ国が出場権を獲得できる。日本はアジア予選で過去に4回(2005年、2011年、2013年、2019年)優勝しており、ワールドカップでは2014年に世界一に輝いている。

 2019年の前回大会(AFC U-16女子選手権)で得点王(5得点)に輝いた浜野まいかをはじめ、同世代では石川璃音、藤野あおば、小山史乃観、その次の世代では谷川萌々子、古賀塔子らがなでしこジャパン入りを果たしている。育成年代の着実な強化が実り、10代でなでしこジャパン入りする選手も増えている。

 今大会のチームを率いるのは、白井貞義監督だ。現役時代はブラジルのクラブやモンテディオ山形などでプレーし、JFAのトレセンコーチなどを歴任してきた。指導者歴は20年以上に及ぶ。

白井貞義監督
白井貞義監督

 U−16日本女子代表としてチームが立ち上がったのは昨年3月。以来、2度の海外遠征を含む7回の合宿を行い、メンバー選考とチームの戦術的な積み上げを両輪で回してきた。ラージグループも含めると、立ち上げから55人が招集されており、候補者数としては過去の同世代と比べても最多となるようだ。

 その中から、今大会に向けて選び抜かれた23名は、WEリーグの下部組織でプレーする選手が14名を占め、すでにトップチームに登録されて試合に出ている選手もいる。複数のポジションをこなせることや、戦術的な柔軟性の高さは、日本の“お家芸”となっている。加えて、今大会は長身選手が多く、160cm後半〜170cm台が過半数の12名。"小柄で巧い”という日本のイメージが変化しつつあるのはたしかだ。

AFC U17女子アジアカップ インドネシア メンバー

 白井監督は、そうした技術や戦術理解に加えて、選手たちの発信力や主体性も重視する。

「選手たちは学ぶ姿勢が強くて、いろいろなことにトライしようとするので、毎回のキャンプで上手くなるし、毎回のトレーニングで上手くなるところが見られました。自分たち主導で守備を組み立て、ゲームが作れるような力をこの世代で身につけることができたら、次のU-20世代ではさらに違うことにもチャレンジしていけると思います」(白井監督)

 白井監督は、スタメンとサブが明確に分かれるようなチームづくりはしてこなかったようだ。日本はグループステージで、タイ、オーストラリア、中国と対戦する。中2日のハードな日程の中で、その選手層の厚さも見せたい。

【攻守の軸と注目選手は?】

 攻守の軸となるのは、ボランチの眞城美春だろう。インドで行われた前回のU-17ワールドカップには飛び級で出場している。筆者はその大会を取材していたが、眞城は谷川萌々子とダブルボランチを組み、世界王者になったスペインの選手たちにも負けないサッカーIQの高さを見せていたのが記憶に残る。東京NBの下部組織のメニーナ所属でテクニックや展開力が高く、長谷川唯、大山愛笑らの系譜に続くスキルフルなボランチだ。

左から本多桃華、古田麻子、眞城美春
左から本多桃華、古田麻子、眞城美春

「このチームは技術が高い選手やパワーがある選手など、いろんな個性があって、前回(のチームで)は自分が最年少でしたが、今回は最年長です。どんなサッカーをやりたいか、チームに伝えることを大事にしていますし、日本らしいサッカーができるチームだと思います。大声で鼓舞したり、叱咤激励するタイプではないですが、プレーで引っ張っていきたいですし、みんながコミュニケーションをしっかり取れるのもこのチームの強みだと思います」(眞城)

 攻撃面で注目したいアタッカーは、佐藤ももサロワンウエキ。チームでの愛称は「ももサロ」(本人も気に入っているそう)だ。

 プレーがダイナミックで、あらゆるところから決められるシュートスキルの高さがあり、常に得点の匂いを漂わせている。身長は159cmだが、小柄さを感じさせない理由は、普段からの意識の積み重ねにあった。

佐藤 もも サロワンウエキ
佐藤 もも サロワンウエキ

「世界と対戦した時には小さい分、手の使い方や体の使い方は考えてプレーしています。それから、オーラを出すために声を出すとか、強く見せるところも意識しています」(佐藤)

 DFの顔ぶれを見ると、メニーナから鈴木温子、朝生珠実、青木夕菜の3人が選ばれており、最終ラインからのビルドアップも有力な攻撃パターンになりそうだ。青木は「自分の良さはロングボールやビルドアップやゴール前で体を張れる部分なので、絶対に失点はしないし、取りに行けるところではゴールも取りに行きたいです」と、得点への意欲も見せる。

青木夕菜
青木夕菜

 今季、C大阪ヤンマーレディースでWEリーグ最年少スタメン記録を更新した牧口優花も、ブレイク候補の一人だ。飛距離の出るキックと正確なクロスが特徴で、セットプレーのキッカーを務めることも。

 日本にとって最大のライバルは、やはり朝鮮民主主義人民共和国だろう。今年2月に行われたU-20女子アジアカップでは、日本はグループステージと決勝で同国に敗れた。強度の高さと戦術的なレベルを兼ね備え、メンタルも強い。順調に勝ち上がれば準決勝か決勝で対戦することになる可能性が高い。日本は1試合ごとに成長しながらアジアの頂点を目指してほしい。

 今大会は、当初は4月にバレンバンで行われる予定だったが、直前で会場が変更になり、5月に延期されてバリが開催地となったという。バリは自然が豊かで「神々の島」とも呼ばれるインドネシアの観光地。気温は年間を通して28度と暑く、現在は乾季に当たる。時差は日本マイナス1時間。

 チームはタイで直前合宿を行った後にインドネシア入りして7日の初戦・タイ戦に臨む。今大会はDAZNで全試合がライブ配信される予定だ。初戦のタイ戦は日本時間20時キックオフとなる。

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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