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強豪カナダに4-0の快勝!東京五輪に向け、高倉ジャパンが示した揺るぎない幹

松原渓スポーツジャーナリスト
なでしこジャパンはカナダに快勝した(筆者撮影)

【カナダを封じた守備と攻撃力】

 なでしこジャパンは10月6日(日)、静岡市のIAIスタジアム日本平で行われた国際親善試合で、FIFAランキング7位のカナダに4-0で完勝した。

 6月のフランス女子W杯で得た様々な課題とベスト16で敗退した悔しさを糧に、東京五輪に向けて理想的な再スタートを切った。

 カナダは女子サッカー界では強豪国の一つだ。FIFAランキングでは10位の日本に対して7位と格上で、五輪では直近の2大会で銅メダルを獲得している。フランスW杯は日本同様ベスト16で敗退したが、現在は来年2月に五輪予選を控えており、この試合は同じくリスタートの意味を持つ重要な一戦だった。

 前日の公式会見でケネス・ハイナーメラー監督は、

「カナダには現代サッカーにおいて必要なスキルを持った選手が揃っています。明日の試合では結果も出して内容のクオリティも上げたい」

と、力強く語っていた。それだけに、試合後は落胆を隠しきれない様子だった。

「私たちは出だしが良くなく、結果に非常に落胆しています。日本はアグレッシブで守備のスキルも素晴らしかった。そのパフォーマンスを讃えたいですね。そして、このタイミングで(カナダチームが)目を覚ますことができたのはありがたかったです」

 日本は招集メンバー25名のうちW杯出場メンバーが17名を占めており、この試合は先発11名全員がその中から選ばれた。GK山下杏也加、4バックは左からDF宮川麻都、DF熊谷紗希、DF南萌華、DF清水梨紗。MF杉田妃和とMF三浦成美がダブルボランチを組み、両翼は左がMF長谷川唯、右がMF中島依美。2トップはFW菅澤優衣香とFW岩渕真奈が並ぶ4-4-2。

 試合が始まると、W杯期間中の1カ月間でコミュニケーションを重ね、戦術理解やプレースタイルの相互理解を深めた成果が随所に感じられた。キャプテンの熊谷はこう語っている。

「W杯の悔しさを知っているメンバーが多い中、世界で戦うためには同じ準備をやっていてもダメだとわかっていたので、チームとしても狙いを明確にしてこの試合に臨みました」

 その成果は特に守備面で見られた。カナダは3−5−2のフォーメーションで臨んできたが、日本は浮いたポジションのマークの受け渡しをスムーズに行い、全体をコンパクトに保って相手のパスコースを意図的に絞り込んで奪った。そして、カナダの最多キャップ数(286)と最多ゴール数(182)を持つFWクリスティン・シンクレアへのパスコースを分断。フル出場で攻守を支えたセンターバックの南は、

「試合の前に、ボールを失った後に5秒間は思いっきり守備をして早く奪い返そうという話が(監督から)あって、それを全員で集中してできたことと、前の選手がしっかり(相手の動きを)限定してくれたことで(奪うポイントを)狙いやすかったです」と振り返る。

 そして、その連係の良さは攻撃にも及んだ。

 4ゴールはすべて流れの中で崩した形から生まれている。厚みのある攻撃で的を絞らせず、結果的に17本ものシュートを浴びせ、静岡IAIスタジアムに訪れた8,123名の観客を何度も沸かせた。

先制点を含む1ゴール1アシストで勝利を牽引した岩渕真奈(右/筆者撮影)
先制点を含む1ゴール1アシストで勝利を牽引した岩渕真奈(右/筆者撮影)

 前半7分、右サイドバックの清水が高い位置でボールを奪うと、中島が菅澤とのワンツーからグラウンダーのクロスを送り、「合わせるだけの素晴らしいボールだった」と振り返った岩渕がダイレクトでフィニッシュ。エースの先制弾で会場のボルテージが一気に上がる。

 カナダも20分過ぎからようやく落ち着きを取り戻し、日本はカウンターからピンチになりかけた場面もあったが、集中した守備で守り抜く。前半終了間際にはボランチの三浦が負傷交代を強いられるアクシデントがあり、チームに緊張感が走った。だが、この場面は中島がボランチに入り、右サイドにFW籾木結花が投入されたことで試合は再び引き締まった。

 そして後半、日本の攻撃力はさらに爆発する。システム変更がそのきっかけとなった。高倉麻子監督は左サイドハーフに張っていた長谷川をトップ下に、岩渕を左サイドに変更。カナダも5バックから4バックに変更して前線の枚数を増やしたため、結果的に双方のフォーメーションが4-2-3-1で鏡のように向き合う形となった。そうなると、流動的に動きながらポジションを変えられる選手が多く、ポジショニングに長けた日本に一日の長があった。

 前線では菅澤が屈強なカナダDFと対等に渡り合う強さを見せ、前半はボールタッチ数が少なかった長谷川がゲームメーカーの本領を発揮し始める。岩渕は慣れないサイドのポジションでもゲームメイクからフィニッシュまでをこなし、エースの貫禄を見せた。

「ある程度前から奪いに行こうという話をしていたので、サイドのポジションでもまずは守備から入りました。どこのポジションもできるのが理想だと思うので、いい経験になったかなと思います。(後半は)相手の状況を見て各自が判断できていました。相手が点を取りにきてスペースが空いてきたし、それを11人全員が感じることができていたと思います」(岩渕)

 

 ラスト30分は、交代で投入された選手がチームを勢い付けた。

 65分の2点目の起点となったのは、その2分前に投入されたばかりのFW遠藤純だ。フランスW杯では日本で最年少の18歳でメンバー入りした新星は、左サイドで積極的に仕掛けて相手2人を引きつけた。そのパスを受けた宮川が中の岩渕にパスを入れると、岩渕はクロスするように走った長谷川に絶妙のヒールパス。長谷川のシュートはカナダのベテランGKステファニー・ラベーに弾かれたが、そこに詰めていた籾木が豪快に蹴り込んでリードを2点に広げた。

 72分の長谷川のゴールも、完璧な崩しから生まれている。相手の高いラインの裏を狙った籾木のフィードを受けた岩渕がGKを引きつけ、サポートに回った長谷川のシュートをお膳立て。これを長谷川がしっかりと流し込んだ。

 ラスト10分間は、W杯メンバーからは外れたFW田中美南と初招集のDF高橋はながピッチに立った。そして、後半アディショナルタイムには3点目と似たような形から、杉田の絶妙のフィードを受けた田中が自らシュートに持ち込む。GKに弾かれたボールに、同じく交代で入ったFW小林里歌子が素晴らしい反応で詰め、試合を決定づけた。

 日本は後半だけで11本のシュートを放っている。その数は、W杯での経験も含めて、このチームが積み上げてきた成果と言えるだろう。

 前半の三浦に加え、84分には長谷川も負傷交代を余儀なくされるなど、いくつかの不測の事態が起きたが、交代策やピッチに立った11名の対応でその穴をカバー。先発の11名が試合の流れを作り、交代選手がそれぞれの持ち味を生かして変化を加えた。

 理想的なゲーム運びができたのは、主軸メンバーを固定した中で戦術練習を重ねたことも大きい。しっかりとした太い幹ができたことで枝葉にも栄養がいきわたり、ピッチの中で個々の能力が有機的に結びついた。

 高倉監督は2016年の監督就任以来、海外勢との競争力をつけるために、代表強化と並行して国内リーグの活性化を掲げ、最初の2年間は選手を固定せず、幅広く招集した。その中で、国際大会で連戦を勝ち抜くために、変化への対応力や個人戦術のレベルアップを求めた。

 W杯アジア最終予選で優勝した昨年4月以降は絞り込みを進めてきたが、夏以降はU-20女子W杯優勝メンバーのA代表への引き上げや、リーグで活躍している選手を中心に「なでしこチャレンジ合宿」を行うなど、最後までメンバー入りへの門を開き続けた。その中で、一部の選手の入れ替えはあった。

 それによって選手間の競争力や個々の対応力は高まった反面、メンバーが固定しなかったために、主軸メンバーによる連係構築の時間は限られたといえるだろう。そして、W杯本大会では予想以上にケガ人を出してしまったことも、目指した理想からは遠い結果をもたらした。

 カナダ戦で日本が示した揺るぎないチームの幹は本来、W杯で示したかったものだったはずだ。

 16日間で決勝までの6試合を戦うことを目指す東京五輪に向けては、ここからの積み上げが重要になる。

「セットプレーや相手の優れたストライカーが一撃を持っている場合には、今日のようにはいかないと思いますし、本番は相手の強度も上がると思います。最後は相手の集中力も切れたところがあったので、チームの流れを自分たちの方に引き寄せながら勝ちに持っていくところはまだまだかなと思います」

 

 高倉監督は快勝を飾ったチームを讃えつつ、先に向けて表情を引き締めていた。

【選手層の厚みも収穫に】

 この試合で結果以外の収穫として、いくつかのポジションのバックアッパー不足解消があげられる。

 その一つがボランチだ。攻守においてチームの心臓部となるこのポジションは、杉田と三浦の22歳コンビがファーストチョイスになっているが、W杯ではケガ人もいたため、バックアッパーの薄さが否めなかった。だが、この試合では前半途中からボランチに入った中島が高いバランス感覚を発揮した。もともと複数のポジションでプレーできるが、代表では右サイドが定位置となっている。

「(杉田)妃和が前に行く場面が多かったので、バランスを取ることを意識していました。後半は相手が4バックになって間がすごく空いていたし、自分たちのリズムに持っていけましたね。今はどこの国も、日本とはズレが生じるフォーメーションが多い中で、対応できるかどうかは自分たち次第だと思っています。普段一緒のチームでやっていない分、コミュニケーションを取って、もっと全員が積極的に話し合えるようなチームになりたい。そういう雰囲気は自分たち次第で作れると思っています」(中島)

 中島がサイドハーフだけでなくボランチでも持ち味を発揮したことは、主軸が固定された中で、選手間のコミュニケーションがスムーズだったことも要因だろう。

 一方、ギリギリまでメンバーの見極めを行ってきたなかで、その本領を発揮し始めた若手選手もいる。それが、W杯直前で代表に定着したDF宮川麻都だ。

宮川麻都(筆者撮影)
宮川麻都(筆者撮影)

 サイドバックは左がDF鮫島彩、右はDF清水梨紗がレギュラーだが、今回は鮫島がケガで参加を辞退していた。そして宮川は今回、左サイドバックに抜擢され、チャンスをしっかりと生かした。

 宮川はこのカナダ戦に先発した11名の中では唯一、W杯で出場機会がなかった。だが、経験の浅さを感じさせず、相手のキープレーヤーであるベテランのMFソフィー・シュミットをしっかりと抑えながら、攻撃で見せ場を作っている。その出来を、指揮官も高く評価した。

「彼女のセンスの高さやプレーの質の高さを感じました。それに、ビルドアップにかかった時に淀みなくプレーできることはチームが目指す方向とマッチしていると思います」(高倉監督)

 宮川は所属する日テレ・ベレーザではサイドバックの他にインサイドハーフやボランチなど、複数のポジションでプレーしている。サイドバックでも左右両サイドでプレーできるため、鮫島や清水とポジションを争える選手が出てきたことは代表にとって大きなプラス要素だ。鮫島や清水のようにスピードがあるタイプではないが、高いテクニックと予測能力があり、攻撃でも変化をつけることができる。

「(W杯では)試合に出られない悔しさと、自分には足りないものがたくさんあると感じました」

 という宮川。8カ月後の五輪に向けてまた一人、頼もしい存在が頭角を現した。

試合後コメント(選手・監督)

 なでしこジャパンは7日にカナダ女子代表ともう1試合のトレーニングマッチ(一般非公開)を行った。結果は0-0だったが、6日の試合で出場機会がなかったメンバーや初招集組が中心となった中で、試合内容には見応えがあった。その様子は改めて記事にしたいと思う。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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