Yahoo!ニュース

フランス女子W杯を検証(2)データに見るなでしこジャパンの4試合。攻守に足りなかったものとは?

松原渓スポーツジャーナリスト
なでしこジャパンは4試合で3ゴール5失点という結果だった(写真:ロイター/アフロ)

 今年6月から7月にかけて行われた2019女子W杯フランス大会で、ベスト16に終わったなでしこジャパン。大会から1ヵ月強が経った8月15日、JFAで今井純子女子委員長から、データによる試合内容の検証や大会の総括が報告された。

 報告の中で話題が前後していた部分は、一部、報告内容を元に構成し直し、筆者の見解も加えながら、全4回に分けてその内容をまとめた。罫線内のデータは今井女子委員長(JFA)による検証結果および報告である。

記事(1)(3)(4)

 今大会のなでしこジャパンはW杯経験者が6名で、17名が初出場。平均年齢は24.0歳で、出場24カ国中、ジャマイカに次いで2番目に若いチームだった。高倉ジャパンの戦い方のコンセプトとして、報告では「日本人の良さを生かすサッカー=Japan’s Wayの追求」というキーワードが使われている。

 「Japan’s Way」の特徴は、主に「技術力」、「持久力」、「組織力」の3つ。それらを生かし、複数の選手が関わってチャンスを創出するサッカーを目指したが、結果はどうだったのだろうか。

 以下は、FIFAのデータによる今大会のなでしこジャパンのスタッツ(JFA発表)である(順位は24カ国中)。

※JFA報告

スタッツ

・1試合平均シュート数 8位 

・1試合平均A1/3(※1)侵入数 8位

・1試合平均パス成功率 1位(84%)

・1試合平均パス数 570本

・1分間あたりパス数 1位

・1試合あたりパス数 1位

・1試合あたりパス距離 24位(※2)

・1試合あたりデュエル(50/50のボールをマイボールに)成功率47.4%

目標

・シュート本数と枠内精度を高める

・1試合平均パス成功率85パーセント(※3)

・デュエル成功率50%

・1試合平均パス数700本(※3)

(※1)A1/3=アタッキングサード:ピッチを3分割した場合の最も相手ゴールに近いエリアを指す

(※2)上位(パスの距離が長かった)チームは早期敗退チームが多かった

(※3)1試合の平均パス成功率目標と平均パス数目標は、過去の親善試合も含めて、日本が理想的な攻撃ができた時の数字

【攻撃】

※JFA報告を元に構成

方針

・ショートパス主体:複数の選手が関わり、チャンスを創出する

・効果的なポゼッションでペースをつかみ、チャンスメイク

結果・目標(崩しの質の向上と決定力向上)

・ビルドアップ:ポジショニング、フィードの精度向上が必要

・決定力は課題

・パススピードが不足していた

・セットプレーは改善が必要

・ショートパスを確実につないで組み立て、サイドチェンジ等の効果的なロングボールの活用・精度向上を目指す

・シュート本数・枠内に飛ばす精度を上げる

・コンビネーションの精度・強度を上げる

・蹴り込む

・ペナルティエリア内で狭いスペースで打ち、決め切る

・ミドルシュート

◆(中・長期的観点から)男子と連携、育成からのストライカー養成

 今大会で日本は、4試合で54本のシュートを打ち、その1/3に当たる18本が枠をとらえたが、ゴールしたのは3本だった。

 大会を通じて、攻撃をシュートで終わらせる意識が高いように感じられた。それは、流れの中からカウンターを受けるリスクを減らす狙いとしてはうまくいっていたと思う。だが、逆に相手陣内でもう少し丁寧にパスをつなぐことができたらゴールの可能性が高まったと感じるシーンが、特にグループステージの3試合(△0-0アルゼンチン/○2-1スコットランド/●0-2イングランド)では少なくなかった。

 一方で、相手の守備の強度が高い中でのパスやトラップの精度、攻撃時の人数のかけ方のバランスは試合を重ねるごとに改善が見られ、4試合目のオランダ戦(●1-2)では質の高い決定機が複数回あった。だが、ここぞという場面で決めきる力が不足していた。 

 数ある決定機を生かせず、逆に少ないチャンスを決められて試合に敗れる、という展開はサッカーではままあることだが、オランダ戦はまさしくそのような印象だった。

 以上のことから、今後は決定力向上やストライカー養成などと並行して、フィニッシュまでの崩しの質を高める取り組みにも期待とともに着目していきたいと思う。選手間のコンビネーションを高めるためには、メンバーをどの時期から絞り込むのかもカギになるだろう。

【守備】

※JFA報告を元に構成

方針

・コンパクトに保つゾーンディフェンス

・スライドとラインコントロール

結果・目標(守備の細部の詰め、問題解決、奪い切る)

・クロス対応:向上(失点なし)→継続

・ボール奪取:向上させる必要あり(特に、囲んだ時に奪い切る力)

・ルーズボール、セカンドボールの回収率が低く、向上させる必要あり

・1対1の守備能力向上→さらなる向上が必要

・セットプレー守備:向上させる必要

・相手との体格差がある中で、ファウルをしない守備

 高倉ジャパンにとって、親善試合などで失点の多くを占めていた「クロスへの対応」は守備の最大の課題でもあった。それについては、今大会では直前の国内合宿から集中的に取り組んだ成果が現れ、クロスからの失点はなく、それ以外の形からの失点によって敗退を余儀なくされた。特に、中央から崩され、FWエレン・ホワイトに裏を取られて決められたイングランド戦の2失点は強烈だった。彼女の決定力も非常に高かったが、ラストパスに至るまでの守備でボールの奪いどころを共有できず、完全に崩されてしまった。

 また、日本は今大会でセットプレーから得点できず、逆にオランダ戦ではコーナーキックから失点した。

 男女あらゆるカテゴリーで、セットプレーは全得点の3割以上を占める重要な得点源だ。

 今大会で優勝したアメリカや準優勝のオランダ、優勝候補の筆頭だった開催国のフランスはフリーキックやコーナーキックやPKによる得点が多く、拮抗した試合を勝ち抜く要因になっていた。

 ケガやコンディション不良によって、試合に出場するメンバー同士で練習する時間が限られてしまったことは、日本がセットプレーの成熟度を高められなかった一因だと思われる(コンディショニングについては記事(3)を参照)。その結果、直前合宿や大会中もサインプレーの練習などを非公開で集中的に行ったものの、本番では連係不足を露呈してしまった。セットプレーの得点力(守備力)は上位国との大きな差だったと思う。

 

 今大会の結果を受けて、東京五輪に向けたセットプレー対策として、以下が報告された。

※JFA報告

・パターンを増やすために様々な人が関わる(テクニカルスタッフ増強)

・分析やフィードバックを厚くする

・もっと早い段階で形(パターン)を構築する

(3)(4)に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

松原渓の最近の記事