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5万人超のスタジアムで強豪・アメリカに惜敗スタート。“18枠へのテスト”で評価を上げたのは?

松原渓スポーツジャーナリスト
先制点を決めた清家貴子(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【開始1分のゴールで大観衆を沈黙させたが…】

 50,644人。アメリカ女子代表の親善試合で史上最多となる観客数を記録した一戦は、開始1分の日本の電光石火のゴールで幕を開けた。

 4月6日に、アメリカのメルセデス・ベンツ・スタジアムで行われたSheBelieves Cup初戦。日本にとっては”完全アウェー”の雰囲気に包まれたなか、大観衆を沈黙させたのは、WEリーグで絶好調のストライカー・清家貴子だ。

 キックオフから29秒、自陣中央で長谷川唯からパスを受けた谷川萌々子が、前線に完璧なフィードを送る。右サイドで先発した清家は持ち前の快足を飛ばして抜け出し、角度のない位置からベテランGK、A・ナアーの脇を抜くコースに強烈な先制弾を決めた。

 だが、この失点で火がついたアメリカが、鋭い牙を剥く。前線からのハイプレスで日本陣内に押し込むと、21分、日本のビルドアップのミスを見逃さなかったS.コフィーがボールを奪い、J.ショウが重たいミドルを左隅に叩き込んだ。19歳のショウは、この得点によって代表デビューから5試合連続ゴールというアメリカ女子代表の新記録を塗り替えている。

 その後も、大歓声を味方につけたアメリカの勢いは衰えず、日本は自陣からのビルドアップでピンチを重ねてしまう。

 後半は3バックにして修正を図り、最終ラインに古賀塔子、左ウイングバックに杉田妃和、右サイドハーフに浜野まいかを投入。守備の連動性が高まり、前線から強く行けるようになった。だが、アメリカの対応も早く、日本はラインが下がって5バックになる時間帯が多かった。レフェリーの判定がアメリカ寄りで、ファウルを取られることが多かった影響も否めないが、5万人が入ったアウェーでは仕方ないことかもしれない。

アメリカでは女子サッカー人気がますます高まっている
アメリカでは女子サッカー人気がますます高まっている写真:ロイター/アフロ

 なんとか攻撃のギアを上げたい日本は、70分、最前線に田中美南を投入して反撃の糸口を探った。しかし、77分、ペナルティエリア内で突破を仕掛けたS.スミスに、杉田の足がかかってPKを献上。これをL.ホランに決められて逆転を許す。その後はアメリカもフレッシュな選手を投入して逃げ切りを図り、日本は1-2で逆転負けを喫した。

【テストから見えた収穫と課題とは?】

 日本にとってはこれまでにない最高の立ち上がりとなったが、90分間を通じて考えると、選手の距離感や、攻守の狙いどころを共有する連動性の部分で、アメリカの強さと巧さが際立った。特に4-2-3-1のミラーゲームとなった前半は、その差が目立った。それは、池田太監督がこの大一番でいくつかの大きなチャレンジをしたこととも無関係ではないだろう。

 ダブルボランチの一角に18歳の谷川を抜擢し、右サイドを主戦場とする守屋都弥を、初めて左サイドバックで起用。右サイドハーフには、浦和で絶好調の清家を先発させた。

 また、強豪相手にも計算できる3バックではなく、4バックを採用。これまで、4バックの時はアンカーを置く4-3-3が基本フォーメーションだったが、この試合は4-2-3-1でスタート。ダブルボランチにしたのは、強豪国に対してアンカー脇のスペースを狙われるリスクが大きいことや、司令塔のL.ホラン対策もあっただろう。先発メンバーは、18枠に絞るためのテストと、機能性を両立させた構成と見受けられた。

今季からスウェーデンでプレー。所属クラブでは10番を背負う谷川萌々子
今季からスウェーデンでプレー。所属クラブでは10番を背負う谷川萌々子写真:REX/アフロ

 一方、アメリカのトゥウィラ・キルゴア監督は、先発に「予想通りの」顔ぶれを並べてきた。A.モーガンやT.ロッドマン、M.スワンソンら、前線は個で打開できる破壊力があり、中盤でトライアングルを形成するL.ホラン、J.ショウ、S.コフィーは流動性が高い。先発11名のうち、L.ホランとE.フォックス以外は国内リーグでプレーしており、昨夏のワールドカップ以降、17試合も実戦を重ねてチームを強化してきた(日本はアジア予選を含む8試合)。

 国内リーグとの兼ね合い、サッカー協会の強化策やプロモーションにかける予算の差もあるが、パリ五輪で目標とするメダルにたどり着くためには、そのような国に勝たなければいけない。

 日本は中2日で行われる3位決定戦のブラジル戦に向けて、守備の奪いどころの共有やビルドアップの立ち位置など、修正ポイントはいくつかあるだろう。その中でも、気になるのはスタート時のフォーメーションだ。

 アジア最終予選の北朝鮮戦でも、今回のアメリカ戦でも、4バックはビルドアップ時の距離感が遠く、前線が孤立した。守備でも3バックの方が強度が高く、いい形で奪えるシーンが多い。それでも、池田監督は4バックにこだわり続けてきた。その理由を考えてみると、昨夏のワールドカップ後の言葉が思い出される。

「今後は、自分たちがボールを持ってゲームを進めることもできるようにならないといけない」(池田監督)

 スペインに8割方ボールを支配されながら、カウンターで4点を決めて勝った試合(ワールドカップ・グループステージ第3戦)は、チームに新たな目標を与えた。各国のカウンター対策が進む中で、その戦い方だけでは世界の頂点を目指すことはできない。故に「強豪相手にもボールを保持して主導権を握るため、チームとしてやれることを増やす」ことが、4バックに挑戦し続けてきた原点だった。

 だが、なかなか内容が伴わない現状を見ると、基本フォーメーションを3バックに戻す可能性もある。長谷川は、2月の北朝鮮戦後にこう話していた。

「4バックで、メンバーによってボールの回し方を変えることもできると思うし、3バックで回すこともできると思うので、チャレンジしながら、メンバーによっていろんなサッカーができるチームになれたらいいなと思います」

長谷川唯
長谷川唯写真:REX/アフロ

 個人に目を向けると、清家、守屋の活躍は大きな収穫だった。清家の先制弾は、世界レベルで通用するシュートスキルで、直線のスピードも通用していた。守屋は前半のみの出場で、攻撃参加の機会は多くなかったが、守備面で大活躍。WEリーグでは攻撃力がフォーカスされるが、強豪国と戦う上では守備力が試される。その意味でも、45分間のアピールは大きかったように思う。

守屋都弥
守屋都弥写真:ロイター/アフロ

 アシストという結果を出した谷川も、限られた時間の中で評価を高めた選手だろう。ボランチは心臓部になるため、プレーの波をなくし、長谷川や長野風花との連係を高めていけば、メンバー入りは確実だと思われる。主軸では、GK山下杏也加と長谷川が試合中に相手の狙いに応じた修正力の高さを見せ、バランスを取っていたのが印象的だった。

 日本は中2日でオハイオ州のコロンバスに移動し、Lower.comフィールドでブラジルと戦う。昨年の戦績は1勝2敗。パリ五輪ではグループステージ第2戦で対戦が決まっている。ノックアウトステージ突破をかけた重要な一戦になるであろうその本番を想定しつつ、今大会を勝利で締めくくりたい。

 試合は日本時間4月10日5:07キックオフ。JFA TVで生配信される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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