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2017女子ユーロ開催国、オランダ女子代表との一戦に臨むなでしこジャパン。(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
9日のオランダ女子代表戦に向けて調整を続けるなでしこジャパン(C)松原渓

【アルガルベカップのリベンジを期す一戦に】

オランダに遠征中のなでしこジャパンは日本時間6月10日(土)午前1時30分(現地時間9日(金) 18時30分)から、オランダ女子代表と親善試合を行う。

オランダはこれまでオリンピックの出場経験はなく、ワールドカップでは、初出場した2015年のベスト16が最高成績だ。しかし、近年は著しいレベルアップを見せており、なでしこジャパンにとって不気味な存在になりつつある。

2015年6月に行われたカナダワールドカップ準々決勝で、なでしこジャパンがオランダと対戦した際には、2-1で日本が勝利した。しかし、直近の2試合では、負けている。同年11月の親善試合(オランダ/フォーレンダム)は、日本が1-3で敗れ、最近では、今年3月上旬にポルトガルで開催されたアルガルベカップの5・6位決定戦で対戦し、2-3で敗れている。

このアルガルベカップ、5・6位決定戦で、なでしこジャパンは前半19分までに2点を先行される厳しい展開に。その後、粘り強く追いついたものの、退場者を出して10人になったオランダに対して、試合終了を目前にして勝ち越しゴールを決められ、後味の悪い結末となってしまった。

最後の場面で、日本のミスからボールが渡ったのはオランダのエース、ビビアン・ミーデマ。日本は必死に戻り、彼女を止めにかかったが、20歳のミーデマは冷静に駆け引きしながらドリブルで次々に日本の選手たちをかわし、最後はGK山下杏也加の逆をつく形でゴールを決めた。

その勝負強さは、ドイツ女子1部リーグの強豪、FCバイエルン・ミュンヘンで背番号10を託されたストライカーの真骨頂であった。国際大会の実績は日本に分があるが、序盤からロングボールで日本を自陣に押し込んだ試合運び においても、手強い相手だった。

オランダは、7月に女子ユーロ開催を控えて代表チームの強化に取り組んでおり、2017年に入ってからすでに6試合のテストマッチをこなしている。日本も同じ数の試合数をこなしているが、オランダはユーロ出場国のフランスなどの強豪国とも積極的にテストマッチを組んでおり、前回対戦時よりも間違いなく、チームの完成度は上がっていると推測される。オランダは日本戦の後、13日にオーストリアと、そして16日にはノルウェーとの親善試合を予定している。

日本としては、同じ相手に3連敗するわけにはいかない。どのようなスタイルでも、どのような試合内容でも、常にに代表チームに求められるのは勝利という結果である。限られた活動期間ではあるが、選手たちの良さを最大限に活かしてどのようなチーム強化を進めるのか。

問われるのは試合結果であるが、同時に求められるのは、代表チームの総合的な成長である。

【攻撃を最大の防御に】

日本は5日にアムステルダム入りして、6日からトレーニングを始め、8日午後には試合会場となるラト・フェルレーフ・スタディオンで試合前日の公式練習を行った。指揮官である高倉麻子監督は、9日のオランダ戦でどの11人を起用するのか。

「基本的には、自分が今まで監督になってからいろいろなことに挑戦して、足りないと思うことがあっても、選手に経験を積ませたいと考えています。ただ、ある程度はチームを固めていきたいので、核はありますが、2枚、3枚ぐらいは、試したいと思っています」(高倉麻子監督)

来年にはフランスワールドカップ・アジア予選(AFCアジアカップ、2018年4月、ヨルダン)が開催される。今回のヨーロッパ遠征での合宿と2度の親善試合を通じて、指揮官の理想とするサッカーを選手たちにさらに浸透させ、メンバー間の呼吸を合わせることが最重要課題であることに、変わりはない。

一方、これまでの代表活動では、高い位置からプレッシャーをかける守備や、前線からのラインコントロールにも時間を割いてきたが、今回は、攻撃面のトレーニングがメインだ。6日と7日の練習では、狭いスペースで複数の選手が関わるボールポゼッション、ピッチを広く使ったサイド攻撃、シュート練習などでオランダ戦に向けたイメージの共有にも努めた。初めて一緒にプレーする選手たちは、特に綿密なコミュニケーションをとりながら、距離感の確認を重ねていた。

「もっと効果的にボールを動かすことに取り組んでいます。試合ではいろいろな形から点を取ることでチームの色を出していきたいですし、得点シーンを多く作りたいと思っています」(高倉監督)

日本は前線からボールを奪いに行く守備をベースに、攻撃ではボールポゼッションの質を高めることで、攻撃を最大の防御とするような試合展開が期待される。

【成長著しいオランダの女子サッカー】

オランダは、「小さな大国」と言われる。

国土面積は、日本の九州と同じぐらいだが、世界の農業生産物・食料品輸出額ランキングではアメリカに次ぐ世界2位(2015年)で、インフラや教育、ビジネスの洗練度をベースとした国際競争力も世界トップクラスである。

それは、スポーツ、そして女子サッカーにも通じることだ。

オランダはスポーツが盛んな国で、女子サッカーの競技人口も増えている。オランダサッカー協会に登録する女子サッカーの選手数は、2015年時点で14万人超。一方、同年の日本サッカー協会に登録する女子サッカー選手の数は、約4万9千人だった。オランダの人口が約1700万人で、日本が約1億2700万人である(オランダの約7.4倍)ことを考えると、オランダ女子代表チームが近年、強化に力を入れ始めてから急激にレベルアップしているのも頷ける。

現チームで最も警戒すべき選手は、FWビビアン・ミーデマだ。

2013年(17歳)からA代表に定着した、ヨーロッパ最高のFWと言われる選手の一人でもある。今年のアルガルベカップ、5・6位決定戦でオランダは、得点力の高いミーデマが1トップを張る4-2-3-1のフォーメーションで、試合開始から両サイドの裏のスペースにロングボールを放り込んできた。

そのスペースに走り、チャンスを演出していたのがオランダの右サイド、FWシャニセ・ファン・デ・サンデンと、左サイドのFWリーケ・マルテンスである。特に、ファン・デ・サンデンの快足を活かした攻撃は日本にとって脅威となった。そして、日本はマッチアップした左サイドバックのDF鮫島彩が終始、同サイドでファン・デ・サンデンの対応に追われることに。現代表でトップクラスの快足を誇る鮫島でも、そのスピードにはかなり手を焼いていた。おそらく今回も、同じポジションでマッチアップすることになりそうだ。

「ボールの出所になる相手のセンターバックの選手が、ボールを持ったら見ないでも出す、という決まりごとがあると思うので、勢いに乗らせないためにも、そのパスを出させないように、前から(FWの選手に)プレッシャーに行ってもらうのが一つ(の方法)です。もう一つは、なるべく逆サイドに持って行かせたいなと考えています」(鮫島)

この右サイドを活かしたスピーディーなカウンター攻撃とミーデマの決定力は、十分に警戒したい。

しかし、裏を返せば、前線の三人に仕事をさせなければ、日本が主導権を握れる可能性は高い。日本は直近の2試合とも、前半のうちに先制点を献上していることもあり、立ち上がりの攻撃が特に重要になる。

【試合日の天候、ピッチコンディションは不確定要素】

今回、天候とそれによるピッチコンディションが、ひとつの不確定要素になる。

オランダでは連日、強い風に加えて、時折、叩きつけるような激しいスコールに見舞われることがある。天候は変わりやすく、試合当日は雷の予報も出ている。

その中で、日本にとって最も厄介なのが「風」だ。

オランダは攻撃時に、日本のディフェンスラインの背後のスペースにボールを出して前線の選手を走らせる。対照的に、日本は足下で丁寧につなぐプレーが多く、パスの強弱やコントロールの質が、攻守に大きく影響する。雨で滑りやすいピッチは日本に有利に働く可能性が高いが、強風でパスミスが増えることは避けたい。その点では、当日のピッチコンディションに早く慣れることもポイントになる。

チームの司令塔でもあるMF阪口夢穂は、試合の意気込みを次のように語った。

「前の(オランダとの)試合で変な負け方をしてしまったので、勝つことにこだわりたいです。相手は蹴って走るサッカーができますけれど、日本が同じように前線に(長いボールを)蹴ったところで、相手にパスをあげている、としか思えないです。かと言って、自陣から繋いでいくだけではリスクがあるので、そのさじ加減は難しいところですけれど、丁寧にパスを繋いでいくことは日本のストロングポイントだと思うので、一人ひとりが自信を持って、良い立ち位置でつないでいけるかどうかが楽しみですね」(阪口)

なでしこジャパンとオランダ女子代表の一戦は、日本時間6月10日(土)午前1時30分(現地時間9日(金) 18時30分)にキックオフ。

BS日テレで、日本時間の6月10日(土)午前1時20分より生中継される。

【(2)オランダ戦前の監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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