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ノート(221) 検察官上訴は当然の制度か 強制起訴事件に求められる「引き返す勇気」

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~続・工場編(14)

受刑261/384日目

後味の悪さ

 この日の昼食後、休憩時間中に図書計算工場の食堂で回覧した朝刊には、前日である1月11日に発生した広島刑務所の脱走事件のほか、神戸地裁で言い渡されたJR福知山線の脱線事故に関する判決のことも大きく報じられており、こちらも受刑者の間で話題となった。業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の元社長に対し、神戸地裁が無罪を言い渡したという。

 この事件については、検察審査会の起訴相当議決を受け、JR西日本の歴代3社長も強制起訴されたが、その後、同様に一審で無罪となり、検察官役を務める指定弁護士の控訴や上告も棄却され、関係者全員の無罪が確定しているところだ。

 確かに、被害者や遺族の無念の思いは察するに余りある。誰も刑事責任をとらないままで終わったという後味の悪さも否めない。一方で、有罪の立証責任を負う国家権力側がその立証に失敗しても、上訴によって裁判を引き延ばすことで再び主張や立証の機会が与えられ、被告人を手続に縛り続けられるといった、わが国の刑事司法制度の問題点を如実に示した事案でもある。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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