ノート(143) 検察側による被告人質問の内容とその分析(中)

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

~裁判編(17)

勾留177日目(続)

【プロパティに関する捜査報告書について】

 熊田彰英検事による被告人質問は、彼が事前に用意していた尋問事項をなぞるだけで、アドリブの要素がなく、僕や僕の弁護団が想定していた問答の範囲内にとどまっていた。

 話題はプロパティ問題そのものから、次のとおり改変前の虚偽証明書データが添付された捜査報告書の件に移った。

Q1.改ざんされる前の正規のプロパティ情報ですけれども、このプロパティ情報を印刷して添付した捜査報告書がありましたね?

→はい。

Q2.この報告書が作成されたころ、あなたがその存在を認識していたということは間違いないんでしょうか?

→間違いありません。

Q3.この報告書は、だれの指示で、だれが作成したものですか?

→作成しているのが國井検事の立会事務官でしたので、おそらく國井検事の指示を受けて作成したものではないかと思います。

Q4.國井検事の指示で立会事務官が作成したということで、あなたがその報告書の存在を知らなかったということはありませんか?

→ありません。

Q5.それはなぜですか?

→主任の部屋に捜査報告書の原本が上がってくる。つまり、私を1回必ず通す。したがって、私はその時は認識していたわけです。ただ、今まさにフロッピーディスクの事件ですのでそのことだけ取り上げられていますけれども、勾留満期が近いということもあり、実際にはいろいろと解決したり報告したりしなければならない問題があり、私の記憶に残らなかったということだと思います。

Q6.あなたが改ざんをしようと思ったのは、元課長を起訴した7月4日よりもあとのことであって、7月13日のことであるということで間違いないでしょうか?

→間違いありません。

Q7.たとえば、元係長の供述調書が作成された時点であるとか、あるいはその調書を作成したまもなくの時点で、改ざんしようと思っていたということではないんですか?

→違います。

Q8.しかしながら、データを改ざんをするときには、報告書の存在は忘れていたわけですね?

→失念していたということです。

Q9.なぜ失念していたんでしょうか?

→先ほども申し上げたように、報告書が上がってきたときには、私は認識しているわけですけれども、ものすごい量の仕事、主任といいながらも総括がいないので、報告用の書面を作ったり、捜査班にいろいろな指示を下ろしたりということを、一人で同時進行で全部やらないといけなかった。したがって、印象に残らなかったといいますか、そういう書面はあるんだけれども、私の記憶のフックに残らなかったということだと思います。

Q10.弁護人からの質問に対する答えを聞いていても、プロパティ問題、FDというものに対する重要性の認識に若干違いがあるようですけれども、FD問題が元課長の有罪を揺るがす重大な問題であるという認識があったのであれば、報告書の存在を忘れるということはなかったということでしょうか?

→まあ、そうなると思うんです。私の中で引っかからなかったというのは、その点も含まれていると思います。

Q11.元係長の取調べにおいて、國井検事は、そのプロパティを見せているとは思いませんでしたか?

→見せるのか見せないのか、あるいは見せ方、どう見せるのかなど、そのあたりを私が逐一、こうしてくれとかああしてくれというふうに、手取り足取り言うような期の検事ではないので、まあ見せるんだろうけれども、見せるのか、どのような説明をしたのか、任せていたというのが正直なところです。

Q12.見せ方はどうであれ、國井検事が見せていたとすればですよ、元係長がデータを改ざんしたということに気づくというふうには思いませんでしたか?

→大前提として、還付したFDをまず見ないだろうということがありました。その取調べのときもよく覚えていないというような供述だったので、あまり印象に残っていないのではないかと。したがって、FDを見る、ましてやエクスプローラでプロパティを見るということ自体、まずないだろうということでしたが、もし見たとしても違和感を感じないだろうと考えたわけです。

 この一連の質問は、かなりピントがずれていた。

 僕が改ざんの時点で問題の捜査報告書の存在を明確に認識していたら、いわば「完全犯罪」を目論んでシュレッダーにかけ、廃棄するのが自然な流れだった。

 これをやっていないわけだから、少なくとも改ざんの際、報告書のことが僕の頭の中になかったことは間違いない。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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