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公益目的と個人情報保護のバランスから任意捜査と強制捜査の線引きを考える

前田恒彦元特捜部主任検事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 個人情報が本人の同意なく無令状で捜査当局に提供されている実態に一石を投じた共同通信社の配信記事。現職・OBの捜査関係者らに取材した会心の調査報道だ。その一人として、思うところを示したい。

【報道の振り返り】

 この件については、既に拙稿「ポイントカードの利用履歴までも 令状なしで捜査当局に提供される様々な個人情報」でも取り上げた。共同が1月20日に配信した「Tカード情報令状なく捜査に提供 規約明記せず、当局は保秘」という記事を前提としたものだった。

 ただ、共同は2018年から着々と調査を進めていた模様であり、僕が共同の取材を受けたのも11月だった。警察、検察を問わず、現職やOBらに対して幅広く取材を行っているものと思われた。

 取材の綿密さや情報の精度の高さに感心させられたのは、「検察、顧客情報入手方法リスト化 290団体分保有」と題された1月3日配信の次のスクープ記事を見た時だった。

「検察当局が、顧客情報を入手できる企業など計約290団体について、情報の種類や保有先、取得方法を記したリストを作り、内部で共有していることが3日、分かった。共同通信がリストを入手した」

「情報の大半は裁判所などのチェックが入らない『捜査関係事項照会』などで取得できると明記。提供された複数の情報を組み合わせれば、私生活を網羅的かつ容易に把握できるため、プライバシーが『丸裸』にされる恐れがある」

 かなり重要な話であり、共同から全国紙や地方紙などに配信され、一面で報じた新聞社もあったが、正月休みと重なり、ほとんど話題に上らなかった。この報道を知らなかった方も多いのではなかろうか。

 驚いたことに、この報道では、共同が入手したという検察の内部資料が掲載されていた。「捜査上必要なデータ等へのアクセス方法等一覧表」と題された資料を撮影した写真であり、一部がモザイク処理されていた。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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