メリット大の勾留理由開示 ゴーン氏は法廷で何を語るか

(写真:ロイター/アフロ)

 電撃逮捕以来、カルロス・ゴーン氏が初めて公の場で事件について語る。8日、法廷で裁判官から勾留を決定した理由が示されるからだ。

【実態は単なるセレモニー】

 身柄の拘束には正当な理由が必要であり、被疑者側の求めがあれば、本人や弁護人の出席する公開の法廷でその理由を示さなければならない。

 憲法や刑事訴訟法の規定に基づく。

 ただ、実際には、裁判官が「一件記録から、被疑者には罪証隠滅や逃亡のおそれがあると考えます」「捜査に支障が生ずるので、これ以上はお答えできません」などとあっさりと述べる程度で、単なるセレモニーと化している。

 極左の公安事件で被疑者が傍聴席の支援者らと一体になって自己の主張を延々と述べ、弁護人ともども裁判官を詰問攻めにするといった裁判闘争の手段に使われてきた歴史があり、裁判所も慎重な姿勢を崩さないからだ。

 著名な事件の捜査段階で被疑者が法廷に出ることは、過熱化する一方のマスコミに大きな燃料を投下し、さらに炎上させるに等しい。

 手錠と腰縄を付け、拘置所の刑務官に指示されてノロノロと法廷を出入りする姿は、まさしく「猿回しの猿」にほかならない。

 発言ばかりでなく、服装や表情、身体の動きなどまで面白おかしく報道される可能性も高い。

【被疑者側にとってメリット大】

 それでも、次のとおり、それを凌駕(りょうが)するだけの様々なメリットが被疑者側にあるのも確かだ。

(1) 一時的とはいえ拘置所を出られる

 独房と取調べ室や接見室、運動場との往復ばかりの日々だと、さすがに気も滅入ってくる。

 拘置所から出て裁判所との間を行き来することで、精神的にリフレッシュできる。

(2) 家族らと会える

 裁判所の決定に基づき、弁護人以外の者との面会や手紙のやり取りなどが禁じられる場合がある。ゴーン氏もそのパターンだ。

 しかし、法廷の傍聴は誰でも可能なので、家族や友人、支援者らが傍聴することで、会話まではできなくても、お互いに顔を見て元気づけられる。

 心が折れることで戦う意欲を失い、虚偽自白に至るケースも多いことから、これを防止する手立ては重要だ。

(3) 被疑者側が公の場で主張できる

 10分ほどと時間が制限されているとはいえ、被疑者や弁護人に意見陳述の機会が与えられているので、法廷というオープンな場でその主張を語ることができる。

 そろそろ処分見込みに関して検察から情報が漏らされるころだから、このタイミングでマスコミが最も欲しがる「被疑者の生の声」を提供し、広く報道させ、バランスを取らせる意義は大きい。

(4) 裁判官に慎重さを求められる

 弁護人が「罪証隠滅のおそれ」「逃亡のおそれ」などの具体的中身に関して裁判官に釈明を求めることができる。

 明確に答えられないという裁判官の無様な姿をさらすことで、勾留決定が機械的に行われているのではないか、との印象付けを行うことができる。

 長い拘置所生活でやつれた被疑者の姿を公に示すことで、将来の再逮捕や勾留、保釈請求などに際し、裁判官の慎重な判断も期待できる。

(5) 捜査をストップさせられる

 半日からほぼ丸一日、被疑者の取調ベを不可能にさせられる。

 必ずしも検察官が手続に出席する必要はないが、捜査班の主任や総括クラスの検事が出席するなど、検察側も対応に時間を割かれることは間違いない。

 社会の注目を集める特異重大事件であり、幹部への報告や即時の対応も必須だからだ。

 検察側にとっては、勾留日数を一日浪費するに等しく、特に捜査主任検事の感覚からすると、処分決裁の時期と重なることは痛い。

【実りある手続のために】

 そもそも、勾留を決定した張本人である裁判官が、法廷で「勾留の理由はありません」と言うはずがない。

 重要なのは、理由の具体的な中身だ。

 裁判官は裁判官の立場で、捜査当局から独立した独自の判断に基づき、令状請求や発付の要件、必要性などを慎重に検討し、かつ、その判断の理由を公の場でも自信を持って具体的明確に述べられるだけの責任感が伴わなければ、令状主義が採用された意味がないからだ。

 勾留状の謄本を見れば一目瞭然の抽象的な勾留理由を法廷で示すだけであれば、無駄足に等しい。

 特に起訴前の保釈制度がないわが国では、勾留に対する準抗告や勾留取消請求などの際に被疑者側に具体的な反論を可能とし、そうした異議申立制度を実りあるものとさせるためにも、勾留理由開示の意義は大きい。

 ゴーン氏が東京拘置所で勾留され、わが国の刑事司法制度もこれまでにないほど海外から注目されている。

 裁判所も、検察側の勾留延長請求を却下した際、その理由を対外的に明らかにするといった極めて異例の措置に出た。

 裁判所の意識が変わらなければ、わが国の刑事司法制度が根本から変わることなどない。

 これまでどおり単なるセレモニーの手続で終わるのか、裁判所の対応が注目される。(了)

(参考)

拙稿「ケーキに年越しそば、おせち料理までも ゴーン氏も食べたか、知られざる拘置所の年末年始

拙稿「カルロス・ゴーン氏らに関する昨今の報道について思うこと

拙稿「知っておきたい保釈制度Q&A

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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