ケーキに年越しそば、おせち料理までも ゴーン氏も食べたか、知られざる拘置所の年末年始

東京拘置所で越年したカルロス・ゴーン氏。「寒い」と漏らしているという。(写真:ロイター/アフロ)

 カルロス・ゴーン氏が東京拘置所に勾留され、わが国の刑事司法制度もこれまでにないほど海外から注目されている。拘置所の年末年始について触れてみたい。

【拘置所はお休み】

 拘置所は12月28日が御用納め、1月4日が御用始めであり、その間、6連休となる。

 死刑も、12月29日から1月3日までの間は法律で絶対に執行できない決まりだ。

 12月27、28日は、年内最後の機会だということで、接見や面会のラッシュだ。保釈も認められやすいタイミングなので、許可されて拘置所を出て行く被告人の姿が夜半まで続く。

 連休中、刑務官は当番制となり、交代で休みをとるが、勤務する職員の数が減るため、弁護人との接見や家族との面会のほか、居室の外に出て行う運動、差入れや物品購入の手続も行われない。

 収容されている被告人らも、独居だと約3畳ほどの広さで室内奥にむき出しの洋式便器が設置された居室から一歩も外に出ることなく、そこで静かに過ごす、というのが基本だ。

 ただし、冬場の入浴は平日の週2回であるものの、年末年始の連休中でも、少なくとも1回は入浴の機会が確保されている。

 いつもと違い、柑橘系の香り漂うグリーンの入浴剤が投入されている。

 英字新聞を含めて拘置所指定の全国紙4紙から選択できる新聞を購読していれば、年末年始でも、刑務官が毎日居室まで届けてくれる。

 12月28日には6日分のキャンディーやビスケット、チョコレート、スナック菓子、ようかん、ミルクティーなどがまとめて渡され、各自のペースで食べることができる。

 誰からも差入れがなかったり、金がなくて自費で購入できない者も多く、公平のため、祝日ごとに菓子類が支給される決まりだからだ。

【取調べは前例あり】

 カルロス・ゴーン氏も、本来であれば弁護人と接見できないところだった。

 しかし、特捜部が年末年始に取調べを行うことから、アンフェアだという批判をかわすため、拘置所も特例措置として接見を認めている。

 年末年始の取調べは珍しいが、2007年に防衛事務次官らを逮捕した防衛汚職事件のような前例もある。

 このとき、筆者は逮捕した贈賄側業者を担当したが、捜査班長や他の捜査員ともども元旦だけは休暇をとり、年内は大晦日まで、年明けは1月2日から東京拘置所で取調べを行った。

 それでも、たった1人だけ元旦出勤を厭(いと)わず、1月1日も拘置所に出向き、防衛事務次官の取調べを行った検事がいた。

 当時の捜査班のNo.2で、「とにかく事件をやりたい」という情熱や強気の姿勢が際立ち、現在は特捜部長を務めている森本宏氏だ。

 12月20日に裁判所がゴーン氏らに関する勾留延長請求を却下したのは意外だっただろう。

 10日間という満額回答は無理でも、せめて12月28日までは延長が認められるだろうし、そうすれば仮に保釈請求が出ても、年明けの1月4日まで持ち越せると考えるのが特捜部の常識だからだ。

 その1月4日に予定されていた特別背任罪による逮捕を前倒しし、畳み掛けるようにして12月21日に本丸の強制捜査に入った突破力や、年末年始の休暇を返上して捜査にあたる執念は、森本氏なら「さもありなん」だ。

 既に12月31日付けの裁判所の決定で勾留期限が1月11日まで延長されているから、ゴーン氏の拘置所暮らしもまだ続く。

【クリスマスイブは特別】

 拘置所も、12月24日の夕食は特別メニューだ。

 例えば、フライドチキンやスパゲッティナポリタン、クリスマスツリーをイメージしてカットやデコレーションされたキュウリのスライス、コーンスープと彩り鮮やかで、これにチョコレートのショートケーキがつく。

 パンではなく、白米7:麦3の米麦飯とセットになっているところが拘置所らしいところだ。

 普段だと家族や友人らへの手紙やハガキは平日に1日1通しか出せない決まりだが、クリスマスカードに限っては、トータルで10通までといった特別な発信枠も認められている。

 余談だが、バレンタインデーに近い「建国記念の日」の2月11日にはチョコレート菓子が、節分には小袋入りの節分豆が、彼岸の中日に当たる「春分の日」には餅が支給される。

 少しでも季節感を出すため、1日の食費が1人あたり約533円という限られた予算内で、様々な工夫が凝らされているわけだ。

【年越しそばと紅白】

 大晦日も同様だ。

 米麦飯やおかずのほか、年越しそばが支給される。

 汁わんのスープの中にそば玉を入れ、海老天を乗せるのが基本だが、東京や大阪といった大規模な拘置所だと、カップ麺にお湯を注ぐスタイルとなる。

 発注ミスなのか、大阪拘置所で「緑のたぬき」ではなく「赤いきつね」が支給され、年越しうどんになったこともあった。

 1年間で大晦日だけは、就寝時間が午後9時から午前零時前に変更され、ラジオの聴取時間もそこまで延長される。

 もともとチャンネルは選べず、この日はNHKの紅白歌合戦が流される。

 居室にはテレビがないから、読書と並んでラジオが最大の娯楽だ。

【拘置所の三が日】

 三が日は、就寝時間こそ午後9時に戻るものの、起床時間が1時間ほど遅くなる。

 元日の起床時間には、正月の定番BGMである宮城道雄作曲の二重奏「春の海」が流される。

 年賀状や喪中欠礼も、トータルで20通まで、といった特別な発信枠が認められている。

 本来なら休日は検査職員がおらず、外部から届いた郵便物は本人に交付されない決まりだが、年賀状に限り、1月1日や2日でも手渡される。

 三が日の食事も、肉類を中心とした人気のおかずが並ぶ。

 3日間だけは、やや黄色がかった米麦飯ではなく、全て白米が支給される。

 普段の米麦飯と比べるとキラキラと銀のように輝いて見え、まさしく「銀シャリ」と呼ばれるとおりだ。

 特筆すべきは、元日の昼食時におせち料理の折り詰めと雑煮が支給されることだ。

 おせち料理といっても、拘置所で調理されたものではなく、仕出し業者が製造し、百貨店やスーパーマーケットなどで1人用として普通に販売されている立派なものだ。

 イカやマグロの刺身のほか、数の子や鴨肉、紅白かまぼこ、黒豆、なますなども入っており、種類・内容とも豪華だ。

 社会内でろくに食べていけず、寝床の確保すらままならない者からすると、こと食事に関しては、夢のような話ではなかろうか。

【手を切るような冷たさ】

 ただし、現実はそう甘くない。拘置所の冬は異常なまでに寒いからだ。

 東京拘置所や建替え工事中の大阪拘置所は冷暖房付きだが、職員の事務室や廊下部分だけで被告人らの居室内にはなく、廊下から薄っすらと暖気が入ってくる程度だ。

 水道の水も、手を切るような冷たさだ。

 天然の冷蔵庫のようであり、拘置所から毛布2枚が貸し出されるが、全く防ぎきれない。

 「ヒートテック」など発熱保湿性の高いタートルネックやタイツ、ダウンウエア、手袋といった防寒着の差入れがあるのとないのとでは、大違いだ。

 特捜部では、年末に向けた寒い冬の時期に逮捕し、拘置所で身柄を拘束したら、被疑者が容疑を認め、落ちやすくなると言われてきた。

 体温低下で抵抗力が弱まり、体調を崩しやすくなる時期だし、家族や友人らとの面会や手紙のやり取りを禁じられ、精神的にも追い込まれる。

 居室は極寒だが、取調べ室は暖房入りで快適であり、会話ができる取調べの時間を心待ちにするようになる。

 早く拘置所の劣悪な環境を抜け出し、何とか保釈で出たいと考え、「あきらめ」の心境に至り、取調べ官に迎合しやすくなるわけだ。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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