チケット不正転売禁止法Q&A

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 国会でチケット不正転売禁止法が成立し、6月14日に施行されます。ネット上などで見られた消費者の疑問点を踏まえ、規制の範囲についてできるだけ分かりやすく解説してみました。

Q.ダフ屋から購入した人も、チケット不正転売禁止法で罪に問われるの?

A.いいえ。ただし、もしコンサートなどに行くためではなく、自分自身も不正転売を行う目的で購入したのであれば、チケット不正転売禁止法の不正仕入罪が成立します。

 また、この法律とは別に、刑法の盗品等有償譲受罪(最高刑は懲役10年)に問われる可能性もあります。「盗品等」とは財産犯により得られたものという意味です。

 すなわち、ダフ屋は転売目的を隠し、嘘をついて興行主側から転売禁止のチケットを手に入れ、だまし取っているので、詐欺罪(最高刑は懲役10年)が成立します。既に有罪判決も出ています。そのダフ屋がだまし取った転売禁止のチケットを、薄々とは言え、そうと分かりつつ購入した以上、盗品等有償譲受罪に当たるのではないか、というわけです。

 購入したダフ屋が警察に検挙された場合、購入者として取調べを受けたり、購入時に使用したパソコンやスマホの提供を求められたり、通信履歴を調べられたりします。家族や学校、職場、ファンクラブの仲間にバレるかもしれません。嫌ですよね?

 ダフ屋が取り扱っているチケットには、手を出さない方が身のためです。

Q.「よし、これから転売業で稼ぐぞ!」と思って初めて高額で転売したんだけど、これも不正転売罪の前提となる「業として」ということになるの?

A.はい。「業として」とは「反復継続の意思をもって」という意味ですが、初回であってもこれから転売業を行うということだったのであれば、その意思があったということになります。

 ただし、検挙の際は、自白ではなく、実際に多数回にわたって転売し、多額の利益を上げているといった客観的な実績の方を重視することになりますので、初回で検挙されるということはないでしょう。

Q.列車の乗車券・指定券の高額転売も規制すべきじゃないの?

A.都道府県の迷惑防止条例で規制されています。ネット上の不正転売は規制の対象外ですが、転売の前提として「公共の場所」である駅の窓口や端末で乗車券などを購入・発券しているので、条例の不正仕入罪で検挙されています。

Q.ゲーム機やフィギュア、グッズなんかの高額転売も規制すべきじゃないの?

A.公安委員会の許可を得ないまま、ゲーム機やフィギュア、グッズなどの仕入や転売を繰り返すと、古物営業法の無許可営業罪(最高刑は懲役3年)で検挙されています。

Q.非公式のチケット転売サイトに出品されているチケットを見ると、ファンクラブ先行販売枠で複数枚購入し、同行者と同時入場することで転売規制の網をくぐり抜けるパターンもあるけど、どうにかならないの?

A.今後は、興行主側と警察とがタッグを組んで「おとり捜査」を行うことが考えられます。

 チケット転売サイトで高値で購入したファンと会場近くで待ち合わせたところ、実はファンを装った興行主関係者や警察官だった、という展開になるかもしれません。

 もし検挙されたら、広く実名報道され、社会からもバッシングされることは間違いありません。たとえ「業として」ということでなくても、高額の利益をきちんと確定申告しておらず、納税もしていないはず。非公式の転売サイトも、個人間の売買は合法だと言いつつ、いざとなったら絶対に弁護なんかしてくれませんよ。

 それでも、チケットを何倍もの価格で転売する勇気がありますか?

Q.サイン会や握手会、写真撮影会の有料参加チケットは規制の対象なの?

A.いいえ。対象となるチケットは「興行」、すなわち映画、演劇、演芸、音楽、舞踏などの芸術・芸能と、野球、サッカー、オリンピックなどのスポーツに限られています。サイン会や握手会、写真撮影会は、これらに当たりません。

Q.イベント会場内外の駐車場の駐車券も高額転売されていて、音楽フェスやモータースポーツなんか特に酷いんだけど、規制の対象なの?

A.いいえ。興行そのもののチケットに限られ、これに付随する駐車券などは対象外です。

Q.コミックマーケットとかだと、出店者用の通行証や駐車券が高額転売されているんだけど、規制の対象なの?

A.いいえ。そもそも興行ではありませんし、関係者向けに無料配布されているものなので対象外です。

Q.映画の試写会のハガキとか、最近は何でも「転売・譲渡禁止」って書いてあるんだけど、規制の対象なの?

A.いいえ。転売禁止のものであっても、もともと無料で配布されたものであれば、対象外です。

Q.チケットの販売価格よりも高く売ったらダメだってのは分かったけど、正規の販売業者に支払ったシステム利用料とか発券手数料をプラスして売ったらダメなの?

A.グレーです。まず、法律が転売の際に超過を禁じているのは興行主側の「販売価格」ということであり、システム利用料や発券手数料などはチケット代とは別のものですから、アウトと考えるのが条文に素直なとらえ方です。

 ただ、それらをひっくるめて興行主側の販売価格だと見る余地もあります。法律が想定している不正転売は、プラスアルファ部分がそれらを追加した金額をも超過するほど不当に高額なものを意味するのではないか、と考えられるからです。

 システム利用料や発券手数料を上乗せしても、なんの儲けも出ず、転売業など成り立たないわけですから。

 残念ながら、こうした最も重要な問題について、国会では全く議論されませんでした。東京オリンピック・パラリンピックのチケット不正転売を禁じるといった法律の狙いに異論はなく、国会でも全会一致で可決されているので、条文の解釈をめぐって与野党がバチバチとやり合う場面などなかったからです。

 とは言え、不正転売罪は「業として」でなければ成立しません。たまたま余ったチケットを今回だけ譲るということで転売を繰り返しておらず、システム利用料や発券手数料を加えたのみで利益分を上乗せしていないのであれば、「業として」には当たらないと評価されますから、安心して転売して構いません。

Q.定価以下なら譲渡もOKなわけで、例えばタダ同然のグッズにチケットをおまけで付け、あくまでチケットは定価のままで、グッズの方を高額で販売するといった抱き合わせ商法だとどうなるの?

A.アウトでしょう。

 その値付けはチケットをより高く売って利益を得るために設定されたものにほかならず、実質的に見るとチケットの定価を超過した不正転売と評価できるからです。

 同様に、例えば転売者の会場への交通費が1000円にすぎないのに、「チケットは定価でお譲りしますが、会場で引き渡すため、こちらの交通費や手数料として5万円をください」といったパターンもアウトです。

Q.規制の対象となるチケットそのものではなく、抽選販売で当選した権利そのものを転売するのはどうなの?

A.セーフでしょう。例えば、抽選結果のメールが届いた後、入金の期限までに代金を支払うといった場合、支払い前だとまだチケットが確定されていません。もし支払いがなければ、そのまま権利が流れてしまうわけですから。そこで、その権利、具体的にはコンビニでの支払い番号などを転売し、購入者がコンビニで正規のチケット代金を支払って発券を受けるといったやり方が考えられます。

 もちろん、興行主側のチケット販売規約には反しますが、チケット転売規制法が規制の対象としているのは、紙製であれデジタルであれ、それを提示することによって興行を行う場所に入場することができるチケットそのものに限られています。当選メールでは会場に入れませんよね。

 それだとせっかくの規制が無意味になる場面も出てきます。しかし、法律案を練る段階では想定されていなかったやり方ですし、国会でも具体的な抜け道を踏まえた深い議論など全く行われていません。

Q.興行主側がチケットを公平に購入できる措置や入場時の厳格な本人確認措置をとらなかったり、公式リセールサイトを開設しなければ、興行主側も処罰されるの?

A.いいえ。興行主側に課せられているのは単なる努力義務です。彼らが不正転売の防止や適正な流通に向けた措置をとらなかったとしても、罰せられません。

Q.なんだかんだ言って、ザル法じゃないの?

A.残念ながら、そうした面は否定できません。

 最高刑が懲役1年とか罰金100万円というのも、不正転売で得られる利益の大きさに比べると軽すぎます。東京都迷惑防止条例の常習ダフ屋行為に対する刑罰に合わせたものですが、新たに法律で全国画一的な規制を行おうという以上、もっと重いものにすべきだったのではないでしょうか。

 それでも、長らくこうした法律が存在せず、もっぱら各都道府県の条例まかせとなっていたわけですから、一歩前進とは言えます。

 後は、実際の検挙例を数多く積み重ねるとともに、先ほど挙げたようなザルになっている部分を埋める法改正を行い、より使い勝手のよい法律に変えていく必要があります。

 また、警察はこうした新規立法の必要性を認めつつも、「チケットキャンプ」運営会社の元社長らを刑法の詐欺罪で立件したように、むしろダフ屋が転売目的を隠し、嘘をついて興行主側から転売禁止チケットを手に入れ、だまし取ったという部分を重く見て、詐欺罪を果敢に使おうとしています。

 仕入という早い段階で検挙できるし、「詐欺」という罪名のインパクトは大きい上、最高刑は懲役10年と重く、罰金刑がないからです。事案によっては転売サイトを詐欺罪の共犯で、ダフ屋から購入した者を盗品等有償譲受罪で、それぞれ検挙できることにもなります。

 チケット不正転売禁止法以外にも適用可能な罰則があるわけで、警察の「やる気」も重要です。

 もっとも、こうした刑罰の導入や興行主側が「ダメ!絶対」と叫ぶだけでは、不正転売の根絶は無理です。ズルしてでも、自分だけは何とか良い席で見たいというファンがいる限りは。

 やはり、厳格な本人確認措置の導入や、手数料の安い公式リセールサイトの開設などが不可欠です。興行主側の本気度の高さや、消費者のモラルが試される法律だと言えるでしょう。(了)

(参考)

 拙稿「どんなチケット転売がアウトか 「今回はたまたま」も要注意、1円でも定価超えはNG

 拙稿「ついにチケット不正転売禁止法が成立へ 気になる今後の運用と残された課題

 拙稿「なぜ警察はチケキャン元社長らを詐欺で立件するに至ったのか ネットを舞台としたダフ屋行為の罪と罰

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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