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インフルエンザになったらしっかりと休める職場環境づくりを

忽那賢志感染症専門医
(写真:アフロ)

今年のインフルエンザは流行開始が早く、12月25日の時点で定点当たり報告数は21.22となっており、正月はまさに流行のピークに近づいています。

インフルエンザ流行マップ(国立感染症研究所 第51週 2019年12月25日現在)
インフルエンザ流行マップ(国立感染症研究所 第51週 2019年12月25日現在)
インフルエンザ過去10年間との比較グラフ(国立感染症研究所HPより)
インフルエンザ過去10年間との比較グラフ(国立感染症研究所HPより)

インフルエンザが流行ってくると職場内で問題になることがあります。それは「インフルエンザになっても働き続ける人」がいることです。

先日、後にインフルエンザと診断されたバスの運転手さんの事故のニュースが報道されました。

事故のバス運転手はインフルエンザ 「意識飛んでしまった」

このニュースによると、運転手さんは体調を崩した状態で無理を押して出勤し事故を起こしてしまったようです。これは単純に「なんで運転手さん休まなかったんだよ」と非難して終わりの話ではありません。

休もうとしても休めない業務配置になっていたかもしれませんし、休んだら周りの同僚に白い目で見られると思って無理をして勤務をしてしまったのかもしれません。

インフルエンザになったら職場に報告していますか?

皆さんはご自身が体調を崩したとき、ちゃんと職場の上司に報告していますか?

ときどき熱が出て体調が悪いのに解熱薬をこっそり使いながらマスクを装着して仕事をこなしている人を見かけます。

自己を顧みずに咳をゴホゴホしながらも懸命に仕事をするその姿は、まさに日本人の鑑・・・というのは昭和の話です!そういうのはもはや令和の時代ではご法度です。

もしあなたがインフルエンザであったとしたら、一番大事なのは休息ですので家でゆっくりと休んでいただく必要があります。

また、あなたは注意しているつもりでもあなたの咳やくしゃみ、触ったものから同僚にインフルエンザが広がっていくかもしれません。あなたのインフルエンザがきっかけで会社内で大流行なんてことにもなりかねません。

もちろん我慢して仕事を続けてたらご自身の体調がさらに悪化することにもなりえます。

体調を崩したらちゃんと仕事を休もう!

「体調が悪いときは休もう」。非常にシンプルなメッセージですが、こんな当たり前のことがなかなか守られていないのが日本社会の実情なのであります。

なぜ体調を崩しても申告せずに働き続ける人がいるのでしょうか。一つには先ほどのような責任感のために働き続けている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

「熱っぽいと思ったら40℃か・・・休みたい・・・でも・・・オレがいなければ業務は回らないんだッ!」

そう思われる気持ちは分かりますが、実際にはあなたがいなくても業務は回ります。ですので体調が悪いときは休んでください。

逆にあなたが体調不良で休んだから回らないような組織は、その組織に問題があるわけであなたがその責任を感じる必要はありません。

体調が悪い人が休みやすい職場の雰囲気作りを

組織と言えば、体調不良で仕事を休むことの障害になりうるのは、職場の雰囲気ですよね。例えば、

「忽那の野郎、こんな忙しい時期にインフルエンザになりやがって・・・どうせ仮病だろ」

とか陰口を叩かれるような職場だと、なかなか休みにくいですよね。

こういう職場だとたとえ熱があっても、咳が出てても、下痢をしてても「周りの視線があるから休むって言い出しにくい・・・」と思い職場に申告せずに我慢して働いてしまう人が出てきかねません。そうするとその人をきっかけに職場での感染症の流行に繋がるかもしれません。体調を崩して仕事を休む同僚には寛容であるべきなのです。情けは人の為ならず。

うちの職場なんかこんな感じです。

「忽那先生、インフルエンザになっちゃったんですね・・・お気の毒に。大丈夫です、先生のぶんは私たちが穴埋めしますから。ていうかどうせ忽那先生いなくてもあんま影響ないし」

なんか後半、さらっと失礼なこと言ってますけど、それは置いといて、これくらいの思いやりは欲しいですよね。

もちろん誰かが休むと他の勤務者へのしわ寄せは来るんですが、そこは持ちつ持たれつということで勤務者は文句を言わず頑張りましょう。

あなただってそのうち病気で休むときが来るんですから。

休むときは最後までしっかりと休もう

さて、ではインフルエンザで休む場合、いつまで休むのが良いのでしょうか。

社会人の場合、特に決まりはないのですが、学校保健安全法に準じて休むのが一般的ではないかと思います。

学校保健安全法施行規則では、インフルエンザの場合、

発症した後5日を経過し,かつ,解熱した後2日(幼児にあっては,3日)を経過するまで

出典:学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について(通知)

となっています。

分かりにくいと思いますので図にしますと、

学校保健安全法の出席停止期間
学校保健安全法の出席停止期間

という感じです。

「おいおい、こんなに長く休めないよ!」と思われるかもしれません。

実際、こちらのNHKのニュースによりますと、インフルエンザにかかった120人余りのうち、22%が「治る前に出勤した」と答えたそうです。

残念ながらこれが日本の実態なのだと思いますが、体調がマシになったからといって治る前に職場復帰すると、せっかく休んだのに職場内でインフルエンザウイルスを撒き散らすことになります。

発症からの日数と症状、インフルエンザウイルスの排出量との関係(Am J Epidemiol. 2008 Apr 1;167(7):775-85.より筆者作成)
発症からの日数と症状、インフルエンザウイルスの排出量との関係(Am J Epidemiol. 2008 Apr 1;167(7):775-85.より筆者作成)

インフルエンザウイルスの排出量は発症から1週間ほど経ってもゼロにはなっていません。

発症から4日目以降に症状は良くなっていくことが多いですが、周囲にうつる状態はしばらく続いていることを知っておきましょう。

きちんと定められた日まで休んで、出勤後もしばらくは手洗いや咳エチケットを徹底しましょう。

というわけで体調が悪い人が十分な期間休めるようにするのが社内の安全確保にも、感染対策にも繋がります。

体調不良の人が休みやすい職場づくりをしていきましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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