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「非正規春闘」はこれからが正念場 今週末はAmazonとスシローでストライキ

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです。(写真:イメージマート)

 大企業正社員の春闘は今日、集中回答日を迎える。記録的な物価高の中、大手企業は正社員の賃上げに前向きであり、例年と比べると高水準の賃上げが実現すると予想されている。実際、集中回答日を前に早期の決着を見た企業では、労組の要求に満額回答するケースが多くみられた。

 他方で、中小企業や非正規雇用労働者の賃上げは、予断を許さない状況にある。とりわけパートタイム労働者などの非正規雇用者の労働組合組織率は10%未満と低い水準にとどまり、春闘の賃上げ交渉の対象にすらならない労働者がほとんどだ。

 そうしたなか、今年は、非正規雇用労働者の賃上げを求める「非正規春闘」という新たな動きが出てきた。大企業正社員中心の既存の春闘とは別に、非正規雇用労働者が企業の枠を超えて全国的につながることで、非正規雇用労働者の10%賃上げを求めているというのだ。

 現在、「非正規春闘実行員会2023」には、全国各地の16の個人加盟労組(ユニオン)が参加し、所属する約300名の非正規雇用労働者が36社に対して春闘交渉を行っている。新たに参加や連携を求めるユニオンも増え続けているという。

参考:「非正規の賃金は上がっていない!」 50人が10社に「同時ストライキ」を計画

「賃上げをする」と伝えられた非正規雇用者は10%未満

 「非正規春闘」の取り組みを始めた非正規春闘実行委員会が実施した調査(回答数507件)によれば、今年2月末までに「賃金が引き上げられた」あるいは「賃金の具体的な予定が伝えられた」と答えた割合は10%未満であった。他方で、「賃金の引き上げはされておらず、その予定も伝えられていない」と答えた割合は約8割にのぼっている。

出所:非正規春闘実行委員会
出所:非正規春闘実行委員会

 また、「賃金が引き上げられた」か「賃金引き上げの具体的な予定が伝えられた」と回答した人(47件)のうち、約半数が時給換算で30円以下の賃上げ額であり、元の時給が1200円(回答者の平均値)だとすれば、賃上げ率は2.5%以下で、インフレ率(4~5%)にも満たない水準である。実際、「賃金が引き上げられた」か「賃金引き上げの具体的な予定が伝えられた」と回答した人(47件)のうち、約9割が「不十分な賃上げ額であり、さらなる賃上げをのぞむ」と回答している。

 このように、非正規雇用労働者の多くは未だに賃上げが決定しておらず、賃上げを伝えられた一部の人もその水準に納得していないことが分かる。

出所:非正規春闘実行委員会
出所:非正規春闘実行委員会

「非正規春闘」の山場はこれから

 とはいえ、この調査結果そのものは驚くべきものではない。そもそも今日3月15日は大企業正社員の春闘の集中回答日である。中小企業は、大企業の集中回答の水準(春闘相場)を参考にしながら、これから3月末にかけて五月雨式に回答を行うのが通例である。

 今年始まった「非正規春闘」についても同様のことがいえる。非正規春闘実行委員会に参加するユニオン(個人加盟制の労働組合)は、今週中に10社でストライキを構えて企業側に賃上げを強く求める方針だという。回転ずしチェーンのスシロー、靴小売のABCマート、Amazonの倉庫、コールセンター大手のKDDIエボルバなどでストライキが行われる予定だ。

 また、賃上げ率の水準については労使間で「隔たり」があるものの、「非正規春闘」の交渉先企業の一部は、賃上げに応じる姿勢を見せているという。一部パート従業員の賃下げをしたABCマートとの春闘交渉では、賃下げについては完全に撤回すると労使で合意に至ったそうだ。それを踏まえて、今後は本格的に賃上げについて労使で話し合う見込みだという。

春闘交渉への参加は、今からでもまだ間に合う

 非正規雇用労働者の多くは労働組合に組織されておらず、今日の春闘・集中回答はどこか他人事のように感じるかもしれない。

 だが、非正規雇用労働者にも春闘へ参加できる回路は開かれている。「非正規春闘」を行う非正規春闘実行委員会によれば、現時点では交渉していない企業に対しても、労働者から賃上げ交渉をしたいと相談があれば、春闘交渉を申し込むことができるという。

 日本の労働組合法は、一人でも労働組合員が当該企業に雇用されていれば、当該企業との団体交渉権が保障されるため、まずは一人でユニオン(個人加盟制の労働組合)に相談・加入して、勤務先企業と賃上げを求めて交渉に入ることができるのだ。そして、春闘交渉をしていく中で、同僚の賛同・共感が集まり、組合員が増えていけば、賃上げが実現する可能性が高まるだろう。

 賃金水準の低い非正規雇用労働者こそ、賃上げが必要であることはいうまでもない。非正規雇用で働く方も、春闘賃上げを他人事だと思わず、「非正規春闘」に参加して賃上げを目指すことをお勧めしたい。

<非正規春闘実行委員会の相談窓口>

非正規春闘実行委員会

<非正規春闘2023の呼びかけ労組>

首都圏青年ユニオン

03-5395-5359 または 03-5395-5255

union@seinen-u.org

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

全国一般東京ゼネラルユニオン

090-9363-6580

info@tokyogeneralunion.org

全国一般東京東部労働組合 

03-3604-5983 

info@toburoso.org

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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