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コロナ対策拡大 住居支援、生活資金の貸付制度はどう利用できる?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 政府は5月27日、新型コロナウイルス感染拡大に対応する今年度の第二次補正予算案を閣議決定した。歳出は31兆円を超え、補正予算としては過去最大の規模となる。

 新型コロナの影響による休業や解雇・雇止めを要因とする生活困窮が拡大している中で、今回の補正予算はどれだけ生活保障につながるものになるのだろうか。

 今回は、生活困窮者向けの施策として補正予算に組み込まれた、緊急小口資金と住居確保給付金に焦点を当て考えていきたい。

緊急小口資金の拡充

 まず、生活困窮に陥った人が当面の生活費として借りられる緊急小口資金は、申請の増加を踏まえ、貸付の拡充のために2048億円が計上された。申請期限を7月末から9月末に延長、オンライン申請も導入する方針だという。

 緊急小口資金はもともと社会福祉協議会が生活困窮者向けに行う貸付事業であったが、今回の新型コロナによる生活困窮の拡大を受け、特例的に要件を緩和し、貸付上限額を引き上げている。

厚生労働省HPより引用
厚生労働省HPより引用

 しかし、特例貸付の導入当初の3〜4月時点では課題が多かった。窓口での受付を予約制とし、実際の受付が1〜2ヶ月後になるなど、迅速な貸付には程遠い状況であった。また、申請時に住民票や印鑑証明の提出を求めるなど、手続きが煩雑であった(詳しくは「“緊急”なのに「6月に来て」 生活保護よりややこしいコロナ特例貸付の問題点」

 この間では郵送での申請を導入し、中央労働金庫や郵便局も申請窓口として追加されたことで申請がしやすくなった。また、印鑑証明の提出も求めないなどの運用が行われている。

 とはいえ、まだまだ課題も多い。まず、申請から振り込みまでの期間の短縮が必要だ。東京都社会福祉協議会では、窓口の市区町村社協などから申請書類を受理してから振り込みまで7〜10営業日かかっているようだ。他の地域だと2週間かかることが少なくない。

 厚労省は迅速な貸付のために、申請書類の到着と同時に送金処理を行い、書類審査などを事後処理としても良いとの事務連絡を出している。この規定を最大限活用すべきだろう。

 また、いまだに住民票の提出は必須とされている。私たちの相談窓口にも、仕事を探しに上京したばかりで住民票を移しておらず、しかも所持金300円と急迫した状態にあるにもかかわらず、緊急小口資金が利用できないという事例が寄せられた。その名の通り、「緊急時」にきちんと活用できる制度にしてもらいたい。

住居確保給付金の拡充

 次に、住まいを失う恐れのある人が家賃補助を受けられる住居確保給付金などの住居支援については、99億円があてられる。

 もともと住居確保給付金の対象者は失業者に限定されていたが、新型コロナの影響を受け、「収入を得る機会が当該個人の責めに帰すべき理由又は当該個人の都合によらないで減少し」ている場合にも適用されることとなった。

 つまり、コロナの影響で休業や解雇・雇止めにあったり、フリーランスで仕事がなくなるなどの理由により、収入が減少する場合も給付金を受けられる。

 また、当初から給付要件として求職活動要件が設定されており、ハローワークへの求職申し込みが必須とされていた。この点についても、フリーランスの実情を踏まえ、ハローワークへの求職申し込みは当分不要となった。

 さらに、これまで対象外とされてきた社宅や寮についても、労働者個人の名義に変更すれば給付対象とするとの変更もなされている。

 住居確保給付金についてもさらなる改善が求められる。過去に利用経験がある場合は再支給要件が厳しく、解雇された者だけしか対象にならない。解雇規制の脱法を目的に、意図的に自己都合退職に追い込まれてしまったケースなどは対象外となってしまう。

 また、「預貯金が一定額ないと受けられない」などの誤った説明を受けたという相談も寄せられている。相談者を意図的に追い返そうとしたのかどうかはわからないが、申請数の増加で申請抑制したいという自治体が現れてもおかしくはない。財源の4分の1は地方自治体負担だからだ。危機対応においては、財源も自治体任せではなく、国家が責任を負うべきだ。

 今回の補正予算の拡充は歓迎すべきだが、以上のように、現場の実情からは、さらなる要件緩和と国の全額負担の必要が明らかになっている。

制度の積極的な活用を

 緊急事態宣言は解除されたものの、新型コロナの経済への影響は続くものと思われる。営業が再開されてもシフトが入れられなかったり、そのまま解雇や雇止めになるケースも見られる。

 そのため、生活困窮は解消されず、さらに深刻化する可能性が危惧される。そうした際に、補正予算で拡充された制度を積極的に活用することが重要だ。

 上述の通り、それぞれの制度が改善してきている部分もあるが、まだまだ使い勝手のよくない部分も残っている。まずは多くの人が制度を活用してもらい、その中で見えてくる制度の不備を指摘していくことが重要だ。

 POSSEでは、そうした制度の活用に関する相談窓口を受け付けている。ぜひご活用いただきたい。

無料生活相談窓口

NPO法人POSSE

電話:03-6693-6313

メール:seikatsusoudan@npoposse.jp

受付日時:水曜18時~21時、土日13時~17時、メールはいつでも可

*社会福祉士や行政書士の有資格者を中心に、研修を受けたスタッフが福祉制度の利用をサポートします。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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