裁量労働制で月給25万円以上はわずか1割! 低賃金でも「残業代ゼロ」

 通常国会が始まり、労働基準法の改正案について論戦がなされている。そんな中で、まだまだ注目されていないのが、裁量労働制の拡大である。

年収1075万円の労働者を対象として残業代の支払いをしなくなるという「高度プロフェッショナル制度」ばかりがメディアにも取り上げられがちだが、それと同時に導入されようとしており、むしろより危険性が高いのが、やはり残業代を支払わなくてよくなる裁量労働制の拡大である。

 裁量労働制については、制度上、どこにも年収の規定がない。ほんらい、この制度は専門的な能力や知識・経験を持つ労働者に対して、働き方に裁量があることを理由として、労使で決めた「みなし労働時間」以上働いても、残業代の支払いをしなくなる制度である。だとすれば、その条件に見合った「対価」を支払うことは当然である。

 ところが、裁量労働制の実例を見ていくと、そんな「対価」とは程遠い実態が見えてくる。そればかりか、最低賃金水準の裁量労働制ですら珍しくないことがわかる。本記事では、裁量労働制の「低処遇」の実態を紹介していこう。

基本給10万円台が67%、25万円未満が90%!

 裁量労働制の実態に関しては、全体を網羅した統計がないため、実際の賃金水準はわからない。そこで、ハローワークに掲載されている求人票を分類した。ハローワークインターネットサービスで、条件を「東京都」「一般(フルタイム)」に絞り、「裁量労働」で検索してみたところ、43件がヒットした(2018年1月12日現在)。

 サンプル数は少ないが、あらかじめ断っておくと、ここで選んだ企業は、比較的「マシ」な企業であるという見方ができる。それというのも、この時点で表示された求人票の多くが、2017年12月までに掲載され始めたものだったからだ。

2018年1月1日から、昨年春の職業安定法改正に伴う厚生労働省の新しい指針が施行されたことにより、裁量労働制を採用している場合は、その旨の表記が義務付けられている。

その施行以前から、義務がないのにわざわざ表示している企業は、労働条件の表示に対して比較的「正直」であるとは言えるだろう。

 さて、43件の求人票のうち、「基本給」として表示されたものの一番低いものを抽出し(例えば、「基本給21~28万円」とあれば、21万円)、並べてみたのが、以下の表だ。

ハローワークの求人票に見る裁量労働者の給与水準
ハローワークの求人票に見る裁量労働者の給与水準

 基本給10万円台が67%、25万円未満が90%に上っている。15万円未満の3件については、一般的なフルタイムの月の就業時間で計算すると最低賃金以下になってしまい、最低賃金法違反の可能性さえ疑われる。

 「残業代ゼロ」、「定額使い放題」が正当化されるにもかかわらず、その対価はまったく見合っていない。高度な労働者というよりも、「普通の労働者」に適用され、劣悪な処遇が強いられるケースが多いことが推察される。

 なお、本記事を投稿した2018年1月30日時点においては、求人票の内容はいくらか入れ替わってしまっているが、25万円未満が依然として高水準であることには変わりはない。

裁量労働制なのに、最低賃金以下? ウェブプロモーション企業の実例

 次に、裁量労働制の事件に取り組む「裁量労働制ユニオン」が争議中の事案から、低処遇の裁量労働制の具体例を紹介したい。

 一例目は、東京都世田谷区にあるウェブプロモーションを事業とする企業で、残業代の未払い分の支払いを求めて、2人の元従業員が同ユニオンに加盟したケースである。

 ユニオンによれば、彼らは契約時にはじめて裁量労働制であると説明を受け、入社前に見た求人と異なる労働条件で働かされていた。募集当時の求人情報では、月給20万円と表示されていたが、実際の給料は基本給が14万5600円(一応、これに25時間分の時間外割増、10時間分の深夜割増として固定残業代が4万4400円加算される)という条件だった。

 東京都の最低賃金は時給907円(当時)だったため、基本給の最低賃金法違反が疑われた。しかし、歩合給の最低保証額が1万円あったこと、会社が月の所定労働時間を162.4時間と主張したことから、最低賃金法違反にはならなかった。とはいえ、その条件を受け入れても時給958円となってしまい、最低賃金とさほど変わらない金額だ。

 一方で、彼らは深夜4時頃まで働くことまであり、長いときで月の残業が100時間を超えるなどの長時間労働。さらに社長から深夜や休日にもメールで業務の連絡があり、彼らは片時も休めなかったという。

 同企業は、渋谷労働基準監督署からも労働基準法37条違反(賃金未払い)で是正勧告を受けている。

裁量労働制ユニオンのブログ

深夜に職場で倒れて適応障害に…編集プロダクションの事例

 次に初会するケースも、裁量労働制ユニオンが取り組んだ事件だ。都内の編集プロダクションで編集者・ライターとして勤務していた女性の事例である。

 繁忙期に深夜1時半まで勤務し、朝6時に出勤するなどして月100時間の残業をした結果、彼女は職場で痙攣を起こし倒れ、病院に運ばれてしまった。この長時間労働に上司からのパワーハラスメントも加わり、本人は適応障害になってしまい、退職を余儀なくされている。

 彼女も、裁量労働制の適用対象者だった。同社の就業規則には全従業員に専門業務型裁量労働制を適用すると明記されており、専門業務型の労使協定も存在していた。労働基準監督署に相談しても、裁量労働制を無効とするのは難しいという回答であった。

 しかし、彼女の基本給は数年間働いてもほとんど変わらず、たったの月18万円。裁量労働制として見合うような金額ではない。しかも、週6日間の勤務を求められており、最低賃金違反の可能性もあった。

 さらに、実は彼女はもともと出版業界の経験がなく、先輩にサポートを受けながら働いていた。このことを理由に、ユニオンは団体交渉でそれまでの裁量労働制を適用すべきでなかったことを会社側に認めさせ、残業代を支払うことを約束させている。

 企業内に労働組合のないベンチャー、制作プロダクションのような中小企業において、低賃金・残業代不払いの制度として、裁量労働制が悪用されていることがうかがい知れるだろう。

 前半のハローワークにおける求人の実態を合わせてみれば、これらの事例は、決してごく一部の例外ではないと思われる。

おわりに

 このように、裁量労働制について一般的に抱かれがちな「高い能力、高い給料」というイメージは、虚偽であることがわかっていただけただろう。多くの企業において、裁量労働制は単に「定額働かせ放題」の手段になっている。

 今回の労働基準法改正案では、営業や中間管理職に対しても裁量労働制が拡大される。「高度プロフェッショナルなんて自分には関係ない」という人も、被害に遭う可能性が大いにあるのだ。

 残念ながら、このような裁量労働制の実態は、メディアにも積極的に報道されているとは言い難い。ぜひ、現時点で裁量労働制の被害を受けた人は、専門家に相談してみてほしい。

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