あなたの裁量労働制は本当に合法? 裁量労働制の「チェックシート」

 裁量労働制がこれまでにもなく話題になり、有名大企業で裁量労働制を違法な形で導入しているケースが次々と明らかになっている。

 野村不動産は外回り営業の社員に適用していた裁量労働制が労働基準監督署から違法と判断され、NHKも記者が対象の裁量労働制は不適切との指導を労基署から受けている。

 米大手医療機器メーカー「メドトロニック」の日本法人では、不適法な裁量労働制の導入により残業代未払いが生じていると、二度も労基署から是正勧告を受けている。

 裁量労働制は政府の「働き方改革」においてもさらなる拡大が検討されているが、これらの事例からわかるようにそもそもきちんと法律の趣旨に則って導入されている裁量労働制は多くない。「うちは裁量労働制だから残業代は出ない」、「労働時間が長いのは裁量があるのに仕事が遅いから」と会社が言ってきても、実は違法な形で裁量労働制が適用されているだけの可能性は高い。

 そこで、本記事では、裁量労働制の下で働く人に向けて、自身に適用されている制度が本当に合法なのか、そうでなければどうすればいいのかを考えたい。また、経営者にも自社の裁量労働制が適法かをチェックする機会にしてほしい。

チェックシートを使って、裁量労働制が合法かを確認しよう

 そもそも、裁量労働制とは、労働者が自分の労働時間や仕事の進め方についての「裁量」を持っているため、実際に働いた時間とは独立した「みなし労働時間」を設けるという制度だ。裁量労働制で定められているある仕事を行うことを業務にしていれば、実際に何時間働いたかにかかわらず例えば8時間働いたものとみなしてその分の給料を会社が支払うことになる。

 裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」や「企画業務型裁量労働制」の2種類あるが(これら以外に「事業所外みなし労働時間」という労働時間をみなす制度も存在する)、法律や行政の通達によって裁量労働制を適用してよい業務の範囲や内容、導入時の手続きについてかなり厳格に決められている。

 法律の定める要件を満たさずに裁量労働制が導入されていれば、それは冒頭の事例のように違法・無効と判断され、これまで払っていなかった残業時間に対する賃金を支払う義務が会社に生じる。

 ただし、1人で労働基準法やそれに準じる法令をチェックするのは大変だし時間もかかる。そこで私が共同代表を務める「ブラック企業対策プロジェクト」が作成した「専門業務型裁量労働制チェックシート」を活用し、自分の置かれた状況を確認してほしい。

 これは、ブラック企業被害者の労働相談を受付けている「ブラック企業被害対策弁護団」や、裁量労働制の相談を専門的に取り扱っている労働組合「裁量労働制ユニオン」と協力して、実際の事例を元に働く人が簡単に裁量労働制の違法性をチェックできるように作られたものだ。

専門業務型裁量労働制チェックシート(無料ダウンロード可)  

(専門業務型裁量労働制チェックシートとしているが、企画業務型の人も制度の大枠は変わらないのでこれを使ってチェックしてほしい)

チェックシート1
チェックシート1
チェックシート2
チェックシート2

 チェックシートの内容を要約すると、まず、対象業務に当たるのかどうかが問題となり、これに該当しなければ違法となる(末尾の「裁量労働制の対象業種一覧」を参照)。次に、自分で出退勤などの労働時間や仕事の範囲を決められなければ、これも裁量労働制は無効になる。また仮にそのような仕事に従事していても、裁量労働ということを知らなかったり、自分の知らないところで誰かが勝手に裁量労働制に合意していたりすれば、それもまた無効になるということだ。

 裁量労働制が無効であれば、これまで働いた時間分の給料を、残業時間も含めて全額支払う義務が会社には生じる。

 

 このように、法律では裁量労働制はある程度厳格に決められている。ITやデザイン、映像プロダクションなどのクリエイティブな産業ではかなり広範に使われており「裁量労働制が普通」と思っている人には意外かもしれないが、それらが「違法」である可能性は高いのだ。

 例えば、当たり前だが実際に「裁量」がなければ裁量労働制にはできない。出退勤時間が明確に決まっている、休憩がとれないほど労働時間が長い、締め切り間近の業務を急に指示されるといったことがあれば裁量があるとは言えない。

 また、作業の進め方がマニュアルや会社の指示で決められていたら裁量労働制は違法になる。労働基準法では明確に「対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと」(労働基準法第38条の三の三)と定められているからだ。SEの人で、予め決められたプログラムを打ち込むだけの作業は要注意だ。

 さらに、もし名ばかりでなく実際に裁量のある仕事だったとしても、労働者の合意なしには裁量労働制を会社は導入できない。本人が裁量労働制だと自覚した上で(求人票や契約書に明記する)、労働組合や労働者代表などが会社と約束を結んで初めて合法になる。会社が勝手に「君は裁量労働制だ」とか「明日から裁量労働制にします」とは法律上できないことになっている。自分が知らないうちに裁量労働制になっているのもおかしい。

 裁量労働制を導入するには、当然だが法律の定める全ての条件を満たす必要がある。そのため、このチェックシートで一つでもチェックする項目があればその裁量労働制は違法の可能性が高いと言える。

チェックシートに引っかかる項目がある場合

 裁量労働制が違法と判断されれば、過去2年分まで、1日8時間を超える残業に対しての割増賃金を請求する権利が生じる。チェックシートに引っかかる項目がある人は、まず証拠を集めてほしい。

 裁量労働制の違法性を証明するために必要な証拠は大きく分けて4種類ある。書面、労働時間、業務内容、業務指示の証拠だ。

(1)裁量労働制について定めた書面

 裁量労働制が手続き的に適切に導入されているかどうかを示す証拠があるとよい。ハローワークの求人票から働く条件を定めた契約書・労働条件通知書、就業規則など全て保存しておこう。また、裁量労働制について届出・保存の必要な労使協定、労使委員会の決議・議事録が社内にあるか探してみよう。

(2)実際に働いていた時間の記録

 裁量労働制の場合、会社が出勤時間・退勤時間を管理していないケースが多い。あとから残業代を請求する際に労働時間の記録が決め手になるので、この場合は自分で労働時間を記録する必要がある。タイムカードを写真に撮ったり、出社時と退社時にメールを送ったり、メモをするなどして、記録をとっておこう。

(3)対象外業務をしている証拠

 そもそも法律の定める業務をしていなければ、裁量労働制は違法になる。勤務中の業務について、どのような業務内容をどのくらいの時間していたのか、日報のような形で記録してあると良い。

 

(4)業務を具体的に指示している証拠

 業務の指示があれば裁量労働制は無効になるため、上司からの指示のメールや日報を残しておこう。また、遅刻して怒られたり賃金を差し引かれたりすれば、労働時間に関して裁量がないことを意味するので、それらを録音したりメモする、給料明細を残すといったことが大切だ。

 証拠さえあれば、労働基準監督署に申告して野村不動産やメドトロニックのように調査に入ってもらったり、ユニオンに加入して会社と交渉したりすることが非常にやりやすくなる。

おかしいかもと思ったらすぐに相談を

 チェックシートがあるとは言え、裁量労働制は制度として非常に複雑でわかりにくい。専門業務型裁量労働制は適用範囲が19業務と明確に決まっているためまだ分かり易いが、企画業務型裁量労働制は「企画、立案、調査及び分析の業務」とかなり曖昧でわかりにくく、自分では対象業務なのか判断がつかないかもしれない。また「労使協定」や「就業規則」を確認する時間がなかったり方法が分からないかもしれない。

 そういったときには、ぜひ一度専門家に相談してほしい。例えば下記に連絡先を付した「裁量労働制ユニオン」は、裁量労働制が用いられていた編集プロダクション会社やゲーム制作会社などと交渉して、裁量労働制を無効にさせた上で未払い残業代を支払わせた実績がある。また、労働問題に取り組んでいる弁護士もこの問題のプロだ。無料で相談を受付けている団体も多く、「おかしい」「自分も偽装裁量労働制なのではないか」と思ったら、一度相談して確認してほしい。

裁量労働制を専門とした無料相談窓口

裁量労働制ユニオン

03-6804-7650

sairyo@bku.jp

http://bku.jp/sairyo

その他の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

総合サポートユニオン

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

http://sougou-u.jp/

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

裁量労働制の対象業種一覧

専門業務型

  • (1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  • (2) 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
  • (3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
  • (4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  • (5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  • (6) 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  • (7) 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  • (8) 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
  • (9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  • (10) 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
  • (11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • (12) 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  • (13) 公認会計士の業務
  • (14) 弁護士の業務
  • (15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  • (16) 不動産鑑定士の業務
  • (17) 弁理士の業務
  • (18) 税理士の業務
  • (19) 中小企業診断士の業務

企画業務型

■条文(労基38条の4第1項1号)

「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」

■対象業務の例指針(平成15年10月22日厚生労働省告示第353号)

  • (1)経営企画を担当する部署において経営状態・経営環境等について調査・分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
  • (2)同部署において現行の社内組織の問題点やあり方等について調査・分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
  • (3)人事・労務を担当する部署において現行の人事制度の問題点やあり方について調査・分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
  • (4)同部署において業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査・分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
  • (5)財務・経理を担当する部署において財務状態等について調査・分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
  • (6)広報を担当する部署において効果的な広報手法等について調査・分析を行い、広報を企画・立案する業務
  • (7)営業に関する企画を担当する部署において営業成績や営業活動上の問題点等について調査・分析を行い、企業全体の営業方針や商品ごとの全社的な営業計画を策定する業務
  • (8)生産に関する企画を担当する業務において生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査・分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務

■対象業務となりえない例指針(平成15年10月22日厚生労働省告示第353号)

  • (1)経営に関する会議の庶務等の業務
  • (2)人事記録の作成・保管、給与の計算・支払、各種保険の加入・脱退、採用・研修の実施等の業務
  • (3)金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成・保管、租税の申告・納付、予算・決算に係る計算等の業務
  • (4)広報誌の原稿の校正等の業務
  • (5)個別の営業活動の業務
  • (6)個別の製造等の作業、物品の買付け等の業務

行政資料

厚生労働省HP

東京都労働局「「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために」