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補助金ありきの経営戦略が中小企業をだめにする

小出宗昭中小企業支援家
(写真:イメージマート)

新分野への挑戦はリスクを伴う

 公的中小企業支援の世界に入ってから20年がたち、これまで数えきれないほど中小企業の相談を受けてきたが、新分野進出の相談は企業にとってリスクが高く、支援サイドとしてもかなり慎重になる。新しい事業、特にその企業にとって未経験の分野に取り組むとき、さまざまな要因がからみあってイメージや計画通りにいかない事が多い。やったことがないビジネスなのだから当然なのだが、自己資金や全額借入れならば、かつ”正気”ならかなり慎重になるはずだ。普通なら周到に準備を重ね検証も行うだろう。

 しかし、昨年からはじまった「新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築」を支援するという補助額最大1億円の「事業再構築補助金」のような大型の補助金が出てくると、“使わないと損”という考え方が先ずでてきてしまう経営者が多くみられる。「補助金をとるから新しいビジネスについて一緒に考えて欲しい」という相談を受ける時、私はきまって、会社にどのような強みがあり、それが生きる形になっているのか今一度良く再検討して欲しいと言っている。

仮に金はあったとして、そのビジネスは成功するか?

 事業再構築補助金を活用する相談では、機械メーカーやシステム事業者から補助金が使えることを前提に提案や営業を受けて挑戦したいとするケースが目立つ。事例を2つ挙げるが、いずれも仮に資金があったとしても戦略の練り直しを必要とするような内容だ。申請期限がある大型の補助金を逃したくないという気持ちが勝って、うっかりリスクを背負ってしまう事態は避けて欲しいと支援側としては思う。

事例(1)

 地元で長年にわたり小売業を営む会社が、コロナの影響で売上が減少した事を受け、事業再構築補助金を使い新たに菓子製造とカフェをはじめたいという。そのビジネス化並びにブランディングの相談だった。この事業者を連れてきたのは、取引先金融機関だった。

 これは、全国各地で広く開業提案を行っている菓子製造関連業者がいて、その指導を受ける事が計画のベースになっていた。ただ商品の明確な差別化はあまり感じられず、やろうとしている事業のコンセプトもいまひとつなものだった。事業計画も粗く、数字は整っているが中身そのものの魅力が伝わってこない。補助金申請は通るかもしれないが、売上をあげ続けられる根拠に乏しく、融資対応を行う金融機関の担当にどう考えているか聞いても、これといった回答は得られなかった。

 数千万円もの投資をしてはじめるにはあまりにリスクが高いと感じた。今一度事業の内容について見直すよう強く促すと共に、全額借入だったらどう判断するかも考えて欲しいと伝えた。

事例(2)

 10年ほど前に開業した居酒屋が、新型コロナウィルス感染症拡大を受け夜の営業に制限がかかり売上が激減した。なんとかしようと昼にテイクアウトをはじめた。そのような中、テイクアウト事業の強化に向け、高性能な冷凍機械とECシステムを導入し通販事業をはじめたく、これに補助金を活用したいという。

 「食」の通販でうまくいっているビジネスは、リアルに人気商品として売れているものが多いように思う。行列ができる店の通販と聞くと、購買意欲をそそられるものだ。コロナ禍ではじめたばかりのテイクアウトがネットで買えるとなっても、果たしてそうすぐに人気が出て売れるようになるだろうか。

 もし自分が金融機関の融資担当で融資案件としてこの話を聞いたら、事業が計画通りに進む裏付けに乏しくリスクが高いので対応をしぶると思った。また、いまのようにコロナ禍が落ち着いてある程度もとの生活が戻ってくると、付け焼刃ではじめるEC事業はどうなってしまうだろう。

新事業は大きなチャレンジ
新事業は大きなチャレンジ写真:イメージマート

楽して得しているのは誰か

 補助金の申請作業は、現場の事で精いっぱいの中小企業にとって相当の負担になる。条件や申請の流れをきちんと理解し、必要な資料を漏れなく準備し期限内に提出するのはそう簡単に出来るものではない。そこで目につくのが“申請代行業者”の広告だ。事業再構築補助金も制度の開始以来代行業者の広告がかなり目立つ。実際、私の会社にもDMが送られて来た。

 中小企業政策審議会や認定支援機関の委員をしていた頃、たとえば2012年頃の創業支援補助金や2014年のものづくり補助金が出たとき、補助金申請代行ビジネスの出現が会議で議論になった。代行業者は、支援した補助金申請が採択されると成功報酬として補助金の10~15%を受け取る。今回の補助金は、コロナ禍で厳しい状況にある中小企業を応援するためのものだ。その申請で困っていたら、既存の支援機関や金融機関がサポートすべきで、申請代行業者がはびこる現状はいかがなものかと思う。だが、中小企業からそうした機関から業者に丸投げされ成功報酬を払ったという話もよく聞いた。

 これは極論だが、事業再構築補助金は、2020年度第3次補正予算が約1兆円強だった。“仮に”申請のうち7割が代行業者経由だとして、その10%、700億円は代行業者の売上だ。実際、中小企業支援の現場で接する専門家から、申請代行により空前の忙しさにあり高収益を得ていると聞く。良く考えたいのは、申請が通って補助金が入る事になったとしても、新事業を実行するのは中小企業自身という事だ。先にも言ったように、新しい取り組みというのは一朝一夕にはいかない。補助金で大きなメリットを受けたのは代行業者かもしれない。

大型の補助金に欲しい厳しい審査と採択後のフォロー

 政府による新事業に対する補助金で「新連携事業」というものがある。事業のモデルが私自身が支援にあたった取り組みだったことから、私は2004年から2016年までその評価委員をしていたのだが、これは審査体制が厳格だった。各都道府県を通じて一次的選別がかかり、さらに各地の経済産業局により事業計画のチェックがなされたうえで局が開催する審査会の机上にあがる。

 審査会には、ビジネス経験もあり技術に詳しい大学教授が複数名いるほか、やはり技術に明るい現役の上場企業幹部、政府系金融機関の審査部長などがいて、そうしたメンバーを前に申請企業の経営者がプレゼンし、厳しい質疑を経て、さらに審査員で議論しどの案件を採択するか検討する。

 採択された事業は、ビジネス経験が豊富で技術にも詳しい中小企業基盤整備機構のマネージャーが数年にわたり進捗をフォローし、必要に応じて専門家を投入するなどして軌道に乗せていく支援をする。採択企業からは日本を代表する上場企業が生まれたり、世界初ともいえるグローバルな展開につながった新ビジネスなども複数生まれたりした。

 新連携事業は確かにハードルが高いし時間がかかる。ただ多くの専門家の視点が関わることで、結果として日本経済を支える事業が生まれやすかったのではないか。

 何度も言うが、“思い切った”新事業は、本当に大きなチャレンジだ。明るい未来の前には、多くが険しい山道をのぼる事になるだろう。補助金があるからやるのではなく、自分が本当にやりたい事業なのか、そのビジネスに勝ち目があるのか、熟考のうえで踏み出してほしい。

中小企業支援家

59年生まれ。法政大卒後、静岡銀行に入行。M&A担当等を経て、01年静岡市の創業支援施設へ出向。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005経済産業大臣表彰を受賞した。07年浜松市に開設された中小企業支援施設への出向中に故郷の富士市から新設する中小企業支援施設のセンター長着任を依頼され、08年銀行を退職し会社を立ち上げ施設の運営を受託し12年に渡り運営した。知恵を使って売上を生む小出流の中小企業支援をわが町にもと取り組む自治体が全国20カ所以上に拡がった他、NHK「BS1スペシャル」や「クローズアップ現代等でその活動が特集された。

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