地域金融機関と支援機関 効果的な連携方法とは
全ての中小企業や起業家は経営上の課題や悩みを抱え、今より良くありたいと考えている。そうした多くの企業と取り引きする地域金融機関は、地域の困り事を相当数把握できる立場だが、自分達で解決できるものばかりではないから、我々支援機関と連携しようと私は訴えてきた。しかし各地の支援機関では地域金融機関、特に地方銀行、信用金庫から紹介される案件が少ない。営業担当者は職務上、勧めたい事にばかり注力して、顧客の悩みや課題、希望を捉え積極的に対応する事を二の次にしているのではないか。
東広島ビジネスサポートセンターHi-Biz(ハイビズ)は、民間金融機関経由の案件が際立って多い。金融機関の職員は異動が多いが、年2回は合同勉強会の依頼があるなど、ハイビズとのつながりの維持にも積極的だ。今回は、このハイビズと連携先の一つである広島信用金庫による支援事例を紹介する。
信金が支援機関につなぐ
2021年暮れ、当時広島信用金庫西条支店に勤務していた豊田真優氏は、創業資金を融資した美容室KARINのオーナースタイリスト森田薫氏から、化粧品を自社で開発したいという話を聞いた。化粧品はOEMメーカーも増えて異業種からの参入も多く市場は大きいが、それだけに目的を明確にしてよく準備して臨む必要がある。広島信金の豊田氏も瞬間的にそんな事を考えたのだろう。一度ハイビズに行こうと森田氏に提案した。
年が明けてすぐ、ハイビズの三嶋竜平センター長が豊田氏同席のもと森田氏と面会した。21年に独立しKARINを開店した森田氏は美容師歴が20年近いベテランだった。カット、カラー以外にヘアケアメニューもオーダーする高単価の顧客が多く、独立わずか1年で年商目標を達成していた。
こだわりのスキンケア商品をつくりたいという森田氏の熱意を受け、三嶋センター長は化粧品開発において検討すべき点を一つひとつ確認しながら進めていく事にした。市場調査、ターゲットの設定、OEMメーカーの選定、売り方、費用…相談の度に出た宿題に森田氏は意欲的に取り組んだ。
三嶋センター長は、KARINの顧客層は新商品の展開に合っていると考えた。ヘアケアメニューを利用する顧客が店舗で試し購入する事も予想され、物販の売上増のみならず差別化や顧客の定着化、自社製品への切り替えによるコスト低減も期待できる。さらにこの取り組みが小規模事業者持続化補助金の趣旨に合致していたため、その活用を提案した。採択されれば原価率も下げられる。煩雑な補助金申請書類の作成は東広島商工会議所が支援し採択された。
完成した「アロマジェルパックKAORU」は、日本三大酒どころの1つ西条を有する東広島市発ということで、酒由来の成分や広島県産のレモン果汁も使い、機能性以外に使用感や香りにも徹底的にこだわった。6月から店舗での活用と物販を開始したところ評判は上々で、知人のスタイリストたちが自身の顧客に積極的に勧めてくれたこともあって、すでに100個近くが売れたという。
今回かかった開発費用の半分は補助金で賄え、もう半分は案件の進捗を随時確認していた広島信用金庫が融資した。金融機関と支援機関の理想的な連携事例である。
【日経グローカル(日本経済新聞社刊)474号 2023年12月18日 P23 企業支援の新潮流 連載第9回より】