医療用ニット帽の開発にイメージコンサルが支援
2020年12月に奈良県広陵町と大和高田市が共同で開設した広陵高田ビジネスサポートセンター、KoCo-Biz(ココビズ)のセンター長を務める小杉一人氏は、世界的なファッションブランドを渡り歩き、日本法人の代表まで務めたという際立つ経歴の持ち主だ。繊維産業の活発なこの地域で特性を生かした成果を上げている。
21年秋、広陵町の地域商社である一般社団法人広陵町産業総合振興機構(通称なりわい)が運営する広陵くつした博物館に、美容室やウィッグ事業を展開するエデュースタイル(大阪市)の関係者が訪れ、ニット帽を作ることができる会社を紹介して欲しいと同機構に相談した。
1977年創業のエデュースタイルは、06年に関西医科大学付属病院に美容室を出店した。そこで治療よる脱毛に心を痛める人達を目の当たりにしたのがきっかけとなり、ウィッグ事業に力を入れ始めた。病と向き合う人達が少しでも楽になればと、関連したサービスや製品を検討する中で高品質なニット帽を作りたいと考えていた。
なりわいが候補にあげたのは地元のサントウニットだった。76年に創業した同社は、主にシルク、オーガニックコットン、カシミヤウール、麻などの糸を使って付加価値のある高級靴下やニット雑貨を製造してきた。
両社のマッチングが行われると、視察や意見交換が始まり、製品づくりに向けて動き出したものの、色やスタイルなどのファッション面の検討で行き詰まり、ココビズに相談が寄せられた。
話を聞いた小杉センター長は、ココビズが支援しているイメージコンサルタントの廣崎かな氏の起用を提案した。廣崎氏の活動歴は10年ほどだが、リピーターが多かった。
今回のニット帽は、顔色が悪くなりがちな闘病中の人向けなので、廣崎氏の色彩に関する専門知識が活かせると考えた。また、小杉センター長はかつての支援を通じてサントウニットがチャレンジに前向きな老舗であることも分かっていた。廣崎氏の感性は同社にとっても刺激になると直感した。
国産の高品質商品を目指す
こうして、脱毛に悩む人のニーズを熟知するエデュースタイルと長年培ったニット製品製造のノウハウを持つサントウニットのタッグに廣崎氏が加わり、妥協を一切しない国産で高品質な医療用ニット帽づくりが進んでいった。
ただ、どんなに良いものができても知ってもらわなければ意味がない。発売に向けては情報発信が肝要とココビズが具体的な戦略をアドバイスし、プレスリリースも行った。
「TSUMUGU」と命名された医療用ニット帽は今春にデビューした。地域商社のなりわいがエデュースタイルから注文を受け、サントウニットに発注する方法で、発売以来毎月2~300枚の注文が順調に入っているという。
医療目的のニット帽はすでに市場に多く出回っており、新規参入するなら既存商品との差別化が必要だ。その点、製品づくりにイメージコンサルタントが関与するという話はあまり聞いたことが無い。医療用という性格を踏まえた上での廣崎氏の登用は大きなポイントになったようだ。地域に根差した支援機関のコーディネート力が発揮された良い事例になった。
【日経グローカル(日本経済新聞社刊)472号 2023年11月20日 P27 企業支援の新潮流 連載第8回より】