大学と連携した産業活性化をマンネリ化させないために
地域産業活性化を目的とした地域ぐるみの取り組みとして、全国各地で行われている典型的なものの一つが、地元の学校の活用だ。私も依頼を受け大学等との連携プロジェクトに何度も関わったが、関係者の本気度により目的の達成具合はかなり左右される。手応えがあまりなくても同じ流れと内容を「とりあえず」繰り返すケースもあるが、単発で終わるものも多い。
そのような中で、埼玉県狭山市が2019年に開設した狭山市ビジネスサポートセンターSaya-Biz(サヤビズ)は、開設以来毎年、同市内の武蔵野学院大学の依頼を受けた連携プロジェクトに取り組んでいる。
武蔵野学院大学は、魅力的な地域の発展に寄与する人材育成を目的に、2004年の開学からインターンシップ授業を行ってきた。
サヤビズが開設した年にインターンシップ授業の講師になった森祐介氏は、「単なる就業体験にはしたくない」、「成長と地域における貢献度をより一層レベルアップさせたい」と20年の年明け、サヤビズに相談にやって来た。
森氏の要請を受けた小林美穂センター長は、学生の成長に加えて中小企業にもメリットがある連携にすることを念頭においた。Z世代と言われるいまの学生ならではのスキルや発想を活用すれば、「商品やサービスのターゲットが若年層なのにうまく届いていない」「若年層のニーズを掘り起こしたい」という企業にとっても価値ある時間になると考え、該当しそうな企業に声をかけた。
学生が企業に企画を提案する前には「中間報告会」と称し、サヤビズが内容を聞いて、企業側の現状や求めるものとの乖離がないようアドバイスを行うようにした。
相談のあった20年からサヤビズとの連携のもとで進んだインターンシップ授業では、毎年50~100人の学生が6~8チームに分かれて担当企業の課題解決プロジェクトに取り組む(※)。
SNSを活用した情報発信や新商品・新サービス開発を通じて、「商品が売れた」「会員が増えた」「新商品ができた」といった地道な成果が毎年生まれ、受け入れた学生をアルバイトとして採用した企業もあった。森氏は毎年の反省点を踏まえカリキュラムの修正も行い、ウィン-ウィンの関係になる取り組みを目指し全体をコーディネートした。
学生の成長と両立させる
23年はコロナ禍で特に影響を受けた業種の一つである飲食業者に声を掛け、狭山市の特産品を活用した新メニュー開発をテーマにした。参加した全店で同じ時期に一斉に発売し、地域のイベントとして打ち出した。学生のチームに広報班を設け、参加した6店舗の新メニューや地図を盛り込んだチラシをつくり、狭山市も巻き込み周知に力を入れた。この結果、通年メニューに採用した店舗も現れるなど、一段と手応えがある取り組みになった。
小林センター長のもとには森氏から24年のテーマに関する相談も届いている。同校のインターンシップ授業は、学生の成長と地域への貢献を目指して柔軟に内容を変え、毎日多くの地域企業と向き合っているサヤビズのアドバイスも組み込む事で、継続する価値がある連携プロジェクトとしての位置づけを確かなものにしている。
【日経グローカル(日本経済新聞社刊)476号 2024年1月15日 P39 企業支援の新潮流 小出宗昭連載第10回より】
※PBL(Project Based Learning):プロジェクト学習