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【2021年の鉄道】終わらないコロナ禍、衰退日本の鉄道はどうサバイブしていくか

小林拓矢フリーライター
首都圏でも通勤電車の運行が見直される状況だ。(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

 再度の緊急事態宣言――年頭の記者会見で、菅義偉首相はこの意向を表明した。

 昨年年末から年始にかけての終夜運転は、コロナ禍の拡大により行われなかった。新規感染者は増え続け、東京都では12月31日に1,337名、年が明けて三が日も高い水準を示し続け、正月休みのうちから政府は感染拡大への対応に追われている。

 鉄道でも、都営地下鉄大江戸線の清澄乗務管理所清澄乗務区で38名の職員が新型コロナウイルスに感染し、12月27日より通常の7割ほどに減便、およそ10分間隔での運行になった。

 そんな中、1都3県に再度の緊急事態宣言が出され、夜間の外出の自粛だけではなく、前回の緊急事態宣言のときのようなテレワークの推奨なども行われることが予想される。全国の感染者数の増え方を見ると全都道府県に拡大することは大いにありうる。鉄道の利用者は再び減少し、新幹線や特急を中心として列車本数の削減も検討されることとなるだろう。

コロナ禍に振り回された昨年

 昨年は新型コロナウイルスとその対応に鉄道事業者は大きく振り回された一年だった。「緊急事態宣言」で列車本数を減らすことを考えたかと思ったら、「GoToキャンペーン」で格安旅行商品の発売に追われ、年末の終夜運転中止対応。例年通りの事業運営とは、とうていならない年だった。

 その結果がこの3月末の決算であらわれることになる。厳しい数字がならび、決算概況の表現は状況を正直に書くしかなさそうだ。

 一方で九州を中心として風水害にも悩まされた一年であった。JR九州の肥薩線は令和2年7月豪雨の影響で八代~吉松間が不通、球磨川第一橋梁などが流出した。しかしそういった路線は存廃論議が沸き起こる路線であり、鉄路での復活は困難かどうかの状況に立たされている。

 そういった昨年をふまえて、2021年はどうなるか。

縮小の目立つ2021年春ダイヤ改正

 2021年春のダイヤ改正は、3月13日となった。昨年12月3日の記事「来春のダイヤ改正は前代未聞の全国統一か 『終電繰り上げ』による各社局調整の産物」で、3月27日と予想したのを外したことはお詫びしたい。

 このダイヤ改正で、JR各社はさまざまな鉄道事業を縮小しようとしている。たとえばJR北海道では、旭川~稚内間の「サロベツ」や旭川~網走間の「大雪」の一部臨時化を行い、道北・道東エリアと札幌との行き来が以前より難しくなった。これらの列車はもともと「宗谷」「オホーツク」として札幌まで直通していたものであり、利用者減の状況を見て本数縮小や運行区間の見直しをコロナ禍前に行っていたという状況がある。

 また比較的利用者の多かったその他の特急でも、編成減や本数減などが目立つ。

 その上、2015年の土砂流出で存廃論議が起こっていた日高本線の鵡川~様似間の正式な廃止が11月1日から4月1日へと繰り上がる状況になっている。

 経済衰退が目立つ北海道で、自然災害により路線の存廃論議が起こる中、コロナ禍の影響を受ける。そして経営の厳しいJR北海道は、縮小しか生き残る方法を見いだせなくなった。

 JR北海道ほどではないにせよ、厳しいのはどこのJRも同じだ。ドル箱の東海道新幹線を持つJR東海でさえ、利用者減に苦しめられた。首都圏の利用者減少をもうもとに戻らないと判断しているJR東日本や、夜間の保守時間帯の人手不足の解消に終電を繰り上げなければならないJR西日本など、各社とも課題を抱え、その答えが「終電繰り上げ」となっている。

 JR九州は新幹線、在来線特急とも本数減、都市間輸送の利便性が悪化する。

 この春のダイヤ改正は、世の中の情勢に振り回された鉄道事業者からの回答となるものだろう。

 ダイヤ改正以降の鉄道はどうなるのか。

東京2020大会、リニアと課題が山積

 本来、東京オリンピック・パラリンピックは昨年、華々しく終わり、日本が東日本大震災から復興したことを世界に示すことをアピールするはずのものとなっていた。しかし東日本大震災からの復興は進まず、福島第一原発事故からの復興は数十年単位の時間がかかり、必要な時間がどんどんかかるようになっていく。昨年の春にようやく常磐線が全線運行を再開し、第一歩を踏み出せた、という状況でしかない。

 東京2020大会は、新型コロナウイルスの影響で延期になった。政府は、コロナに打ち勝った証としてこの大会を行いたいとする意向を示すものの、実際には楽観主義と精神論が蔓延するインパール作戦のようになっている。厳しい状況を見据え、できることとできないことを判断し、自ら責任を取るリーダーがこの国には不在であり、それに鉄道事業者も振り回されるという状況が続くことになる。

 首都圏の各事業者は東京2020大会のために多くの予算を使った。駅の改良工事や、「おもてなし」のための各種設備や人材育成のために力を注いだ。しかし、大会が行われないことには鉄道事業者は厳しいことになる。感染拡大の状況を見ると、東京2020大会はどうなるかわからない。

 長期的な鉄道計画では、リニア中央新幹線が気がかりである。大井川の水問題に端を発する有識者会議は結論が見えつつあるものの、その結論を待ってから普通に工事を行っても、2027年の品川~名古屋間の開業には間に合わない。延期は避けられない見通しだ。有識者会議でJR東海の主張がおおよそ認められても、国やJR東海が予定通りの開業は困難と発表するしか道はない。

 JR東日本が計画を進めている羽田空港への新線なども、空港アクセス交通の需要が増える見通しが見当たらない中でどうなるかわからない状況となっている。

 これから先の鉄道は?

人口減少社会における日本の鉄道はどうすべきか?

 コロナ禍のはるか前から、人口減少社会は予測されていた。会社によっては自動運転の計画も進めており、人手不足に対応するための施策も考えていた。長期的には、利用者が減少することはすでにわかっていた。

 その中で地方部の鉄道は利用者減に直面し、いつ災害で路線がなくなるかという危機感も常日頃から感じられるようになっている。

 日本社会そのものが縮小し、衰退するという未来予測は、コロナ禍によって現実のものになった。しかし、都市部の多くの路線では、高架化や複々線化などを済ませており、そのインフラが余裕のある環境を生み出すだろう。

 今春のダイヤ改正で、JR東日本は通勤客向け特急「湘南」を運行し始める。余裕のある首都圏の輸送環境が、テレワーク時代に対応した長距離利用者向けの特急を運行させることを可能にした。これに関しては「実質的な値上げ」という意見があるものの、もともとの余裕がなかったら前身の「湘南ライナー」さえなかった。

 過去に積み上げられてきた有形無形の資産を、鉄道は保有している。それを維持しながら、自然災害などの対策を行い、コロナ禍が今後も続く中でも事業を継続していくことを模索していくしか道はない。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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