Yahoo!ニュース

JR北海道が2025年度運賃値上げ、JR東日本も値上げ検討 鉄道の運賃設定、どうすれば容認できる?

小林拓矢フリーライター
新千歳空港行きも値上げになる(写真:イメージマート)

 JR北海道は、4月1日に発表した経営計画の中で、2025年度に運賃改定を行うことを示した。4月2日付の『日本経済新聞』によると、中期経営計画の中で、運賃を平均して8%値上げする方針を示しているという。JR北海道は、2019年10月に9.1%相当の値上げをしている。このときには消費増税が行われ、それを合わせると11.1%の値上げとなる。

 またJR東日本でも運賃の値上げが検討されていると、『読売新聞』が3月29日付朝刊で報じた。

 JR北海道は鉄道事業の収益力を高めるため、JR東日本は鉄道事業の採算性を課題としている。

 政府は、鉄道事業法に基づく関連通達を4月1日で改正し、運賃算出のルールを見直す。運賃を物価の上昇などにあわせて変えやすいようにするのが目的だ。

 近年、鉄道業界では運賃や料金の値上げが相次いだ。また、乗継割引などの廃止で、特急料金が実質的に高くなったということもある。

 個々の値上げについては、多くの人が納得できたものも、そうではないものもある。どんな値上げなら、納得できるのか?

支持された東急電鉄の値上げ

 東急電鉄は、2023年3月18日に運賃を値上げした。ちょうどその日、相鉄・東急直通線が開業している。

 同社は、ホームドア整備など業界水準を上回る規模の設備投資を継続的に実施してきた。そのため、東急の駅は非常に快適なものとなっている。このことが、鉄道利用者からも高く評価されている。

 しかし、設備の維持・整備にはお金がかかり、コロナ禍以降の鉄道利用者の減少も経営に影響を与えた。

 そんな中で安全・安心な鉄道事業を継続し、多様化・複雑化する社会的要請に応じた価値を提供するために値上げをした。

 要は、安全やサービスの水準は落とさず、よりよい鉄道事業を提供するために値上げをするということを東急電鉄は示したのだ。

 東急電鉄は、ホームドアやエスカレーターの整備、トイレの清潔さなど、ほかの鉄道会社に比べてサービスの質が高い。また駅などの従業員にサービス介助士の資格を取得させたりもしている。また、コロナ禍以降も大規模な列車本数の削減を実施しよう、なんてことはしていない。

 こういった企業の姿勢が、沿線で暮らす人々に支持されているため、値上げをしても大きな問題にはならなかった。

 もちろん、東急電鉄の運賃水準がほかの私鉄や地下鉄、あるいはJRに比べて低く、そのことを多くの利用者が認識していたということも大きい。さらには、東急沿線は「沿線格差」の観点からみて最上位の沿線であり、豊かさを誇る沿線の人たちが多少の値上げでも文句は言わないということもある。

 利用者が納得するような状況をつくった上で、東急電鉄は値上げをした。

東急電鉄はサービスの質が利用者に支持されている
東急電鉄はサービスの質が利用者に支持されている写真:イメージマート

 東急電鉄ほど整った状態ではないが、今後は安全設備やサービスを向上すると示し、2023年10月の値上げを成功させた例として、京王電鉄がある。京王電鉄も、運賃水準の低さで知られていた。

 そういう条件があってはじめて、運賃などの値上げは利用者から支持される。

JR北海道やJR東日本の値上げは支持されるのか?

 と考えたところで、予定されているJR北海道の運賃値上げや、検討されているJR東日本の運賃値上げは、鉄道利用者から支持されるのか、ということが気になる。

 JR北海道では、鉄道の本数が減り、以前よりも不便になっている。速達性も以前よりも劣るようになってきた。沿線人口が減り、札幌都市圏の一極集中が進む中で、鉄道利用が減っている。インバウンド対応に期待しているところだが、はたしてうまくいくか。

 設備の老朽化なども問題になっているが、これはいままで対応できなかったために仕方なしにやらなければならないものである。

 車両の更新も少しずつではあるが進めているものの、いままでが古い車両を酷使し続けたと考えるほうが自然だ。

JR北海道は特急列車の本数を減らしている
JR北海道は特急列車の本数を減らしている写真:イメージマート

 JR北海道の提供する鉄道サービスは、悪化したのをなかなか取り戻せないでいる。最近では、主要な特急列車を全席指定にしたことで、かえって利用者が離れていくという状況になっている。料金も実質的に上がったのに、運賃まで? ということになるだろう。

 JR北海道の経営状態が厳しいことは多くの北海道民の共通する認識ではあるものの、サービスが低下している状況で、となるとあまりいい評価は得られないと考える。

 事態はJR東日本も同様だ。東京圏でも列車本数を減らし、サービスダウンが続いている。混雑はひどくなっている。こうなるともう「ステルス値上げ」といっていい状態だ。その上値上げとなると、利用者からは好意的に評価されることにはならない。

最近は山手線の混雑が目立つ
最近は山手線の混雑が目立つ写真:イメージマート

 少し前、多くの新聞で記事数削減、ページ数削減があったのち、購読料の値上げという事態が発生していた。この状況はいまも続いている。

 それと同じことが、JRでも起こるのだ。

 関東圏の私鉄ではサービスを維持することを基本として値上げをするのに対し、ここで挙げたJR各社はサービスを削減した上で値上げをする。

 こういった値上げが、鉄道利用者に支持されるとは到底思えない。物価高などを理由にしても、サービス水準が低下した上でとなると、あまり評価されないのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事