新社会主義の台頭と「大虐殺とテロ、弾圧の建築家」と落書きされたカール・マルクスのお墓

落書きされたカール・マルクスのお墓(ハイゲイト墓地のツイートから)

「飢餓のイデオロギー」

[ロンドン発]小説にもたびたび登場するロンドンのハイゲイト墓地には多くの著名人のお墓があります。その中には『資本論』で英国労働者階級の窮状を記し、共産主義社会への移行を唱えた革命家カール・マルクス(1818~1883年)のお墓も含まれています。

京都大学で『資本論』を学んだ筆者も二度、マルクスのお墓を訪れたことがあります。2月5日、ハイゲイト墓地はこうツイートしました。

「カール・マルクスの記念碑が破壊された! 誰かがハンマーで碑文を叩いたようだ。この記念碑はグレード1のリストに含まれており、ハイゲイト墓地としては許すことはできない。一刻も早く修復する」

そして16日にも「またもハイゲイト墓地のマルクス記念碑が破壊された」とツイート。

「今回は赤いペンキだ。そして大理石の碑文が叩き壊された。不合理で愚かで、無知蒙昧(むちもうまい)だ。マルクスのレガシー(遺産)についてあなたがどんな考え方を持っていようとも、これは何の意味もなさない行いだ」

マルクス記念碑には「ボルシェビキ・ホロコースト(大虐殺)の記念碑 1917年 1953年 犠牲者6600万人」「大虐殺とテロ、弾圧、大量殺人の建築家」「嫌悪のドクトリン」「飢餓のイデオロギー」と赤いペンキで落書きされていました。

「ミレニアル世代の社会主義が台頭」

新自由主義(ネオリベラリズム)が推進したグローバリゼーションと、それに続く世界金融・経済危機で貧富の格差は拡大し、世界のお金持ち上位26人が、世界のボトム・ハーフ(貧しい半数)の38億人と同じ額の資産を保有しているという状況が生まれています。

情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、ロボット化が日進月歩の勢いで進展し、資本だけではなく生産手段の寡占化がスピードアップしています。世界中にポピュリズムとナショナリズムが広がる中、英誌エコノミストは最新号で「ミレニアル世代の社会主義が台頭」と指摘しました。

英誌エコノミストの表紙(筆者撮影)
英誌エコノミストの表紙(筆者撮影)

ミレニアル世代の幅にはばらつきがありますが、大体、20世紀の最後に生まれた世代のことを指しています。

グレート世代(1927年以前生まれ)

サイレント世代(28~45年生まれ)

ベビーブーマー(46~64年生まれ)

X世代(65~80年生まれ)

ミレニアル世代(81~96年生まれ)

Z世代(96年以降生まれ)

ミレニアル世代は2008年の世界金融・経済危機に直撃され、安定した仕事に就けなかったため、急激に左傾化しているという内容です。日本では1990年代に金融バブルが崩壊、「失われた20年」を経験し、就職氷河期、非正規雇用の拡大で「失われた世代」を大量に生み出しました。

日本で社会主義が台頭しなかったのは、自公政権に代わって誕生した民主党政権があまりにひどすぎたからだと思います。

悪夢のコービン労働党政権の誕生

先進国の中道左派政党が低迷する中、英国では強硬左派ジェレミー・コービン党首率いる労働党が党員数を19万人から2017年夏には最高の57万5000人まで増やしました。強硬左派とは、中道左派路線に舵を切ったトニー・ブレア元首相を完全否定するガチガチの社会主義者のことを指しています。

しかし英国の欧州連合(EU)離脱を巡り、「隠れ離脱派」のコービン党首が離脱方針をひっくり返す2回目の国民投票実施を支持しなかったため、若者が離れ、1割以上党員を減らしました。

昨年9月、リバプールで開かれた労働党大会にフル参加した筆者は「新社会主義革命」を目指しているとも言うべき異様な空気に恐れおののきました。

英労働党のコービン党首(右)とマクドネル影の財務相(昨年秋の党大会で筆者撮影)
英労働党のコービン党首(右)とマクドネル影の財務相(昨年秋の党大会で筆者撮影)

衝撃的だったのはコービン党首より「左」と言われる女房役ジョン・マクドネル影の財務相の演説でした。マクドネル氏は水道会社を手始めに、エネルギー会社、郵便会社、鉄道会社を消費者、労働者、自治体の手で公有化することを表明しました。

従業員250人以上の企業が年1%ずつ最大で10%の株式を積み立てていく「包摂的所有基金(IOF)」構想も披露しました。この制度は「生産手段の社会化(社会主義・共産主義への移行プロセス)」にとどまらず、「資本の一部社会化」と言える性格を持っています。

英国のEU離脱が失敗してコービン労働党政権が誕生した暁には、英国で「新社会主義革命」が起きる可能性があります。このような中道左派勢力の崩壊と強硬左派、急進左派の台頭は世界中で見られる傾向です。

世界に広がる急進左派ポピュリズム

ギリシャではアレクシス・チプラス首相率いる急進左派連合(SYRIZA)が政権を樹立。先進7カ国(G7)のメンバーであるイタリアではポピュリストの新興政党「五つ星運動」が極右政党「同盟(旧同盟)」と連立を組んで政権をとり、全国一律のベーシックインカムを実現しました。

仕事のない貧しい人は月780~1032ユーロ(約9万7360~12万8800円)を受け取ることができるようになりました。背景には失業率の高止まりと、緊縮策による社会保障の切り捨てがあります。

フランスでは地球温暖化対策としての燃料税引き上げに反対して「黄色ベスト運動」が一気に広がりました。急進左派の新興政党「不服従のフランス」を率いるジャン=リュック・メランション氏の支持率は10%を超えています。

仏トゥールーズで演説するメランション氏(2017年4月、筆者撮影)
仏トゥールーズで演説するメランション氏(2017年4月、筆者撮影)

2016年の米大統領選民主党指名候補争いで、「民主社会主義者」を自認するバーニー・サンダース上院議員がヒラリー・クリントン元国務長官を相手に旋風を巻き起こしたのは記憶に新しいところです。サンダース氏は次期大統領選に早くも意欲を見せています。

昨年の米下院選では「米国民主社会主義者」のメンバー、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏が当選し、史上最年少の女性下院議員になりました。

急進左派が台頭するのは、機能不全に陥った所得配分と富の再分配の問題がさらに悪化しているからです。極右のポピュリズムも、急進左派に対抗するように拡大しており、その激突がマルクスのお墓への攻撃となって現れているのです。

(おわり)