「難民のルワンダ送りを承認した英国議会は犯罪現場」人権団体が批判
■「庇護義務のアウトソーシングは不当」
[ロンドン発]2年前にボリス・ジョンソン英首相(当時)がぶち上げた英国に不法入国した人々の一部をルワンダに送り、庇護申請の手続きを行う法案について、英議会は5カ月に及ぶ論争の末、23日未明にようやく承認した。英国政府は7月をめどに移送を開始する方針。
庇護申請者をルワンダに送ることについて、国際赤十字や人権団体は「庇護義務のアウトソーシングはすべきではない」と批判してきた。英国の最高裁は昨年11月、全員一致で「ルワンダは現在、庇護申請者を移送できる安全な国ではない」と違法判断を下した。
英国政府はルワンダと庇護申請者の第三国転送を禁じる条約を結び、翌12月、法案を議会に提出。年内に総選挙を控え、保守層の支持を固めたいリシ・スナク英首相は22日「もう十分だ。これ以上の遅延は許されない」と不退転の決意で採決に臨んだ。
■「反対派は不法移民ボートの密航を許してきた」
「ほぼ2年間、反対派はあらゆる手段を使って庇護申請者をルワンダに送る飛行機を阻止し、英仏海峡を渡る不法移民ボートの密航を許してきた。議会はどんなに夜遅くなっても投票する」と承認を拒んできた上院にスナク首相は圧力をかけた。
法案を巡っては下院と上院との間を行ったり来たりする「ピンポン」と呼ばれる状態が続いていた。選挙の洗礼を経ていない上院はルワンダが庇護申請者にとって安全な国かどうか独立機関による判断を求めていたが、最終的に優越が認められている下院に譲歩した。
スナク首相は不法移民の拘留スペースを2200人分増やし、申請を迅速に処理するため訓練を受けた200人の専任ケースワーカーを待機させている。いかなる訴訟にも迅速に対処するため25の法廷を用意し、5000日以上の法廷勤務が可能な裁判官150人をリストアップしたという。
■ベトナム人密航者は10倍に激増
スナク首相は昨年、密航ボートの到着数を3分の1以上減少させたと強調した。しかし今年に入り、7歳の少女を含む9人が英仏海峡を渡ろうとして死亡。ベトナム人密航者は10倍に増え、一艘のボートに乗る密航者の数も倍に膨れ上がっている。
独立した超党派調査機関「移民ウォッチ英国」の海峡横断トラッカーによると、英仏海峡を渡る密航者は2018年299人、19年1843人、20年8466人、21年2万8526人、22年4万5774人、昨年2万9437人、今年6265人と激増している。
英国の欧州連合(EU)離脱でジョンソン首相(当時)とエマニュエル・マクロン仏大統領との関係が極度に悪化。英国を目指して英仏海峡を渡る不法移民をフランスの海岸で厳しく取り締まらなくなったことも密航者激増の一因となった。
■「オフショア化は残酷で効果がない」
庇護申請手続きのオフショア化はオーストラリアの例がある。難民89人と乗組員3人を乗せた漁船が岩に衝突して沈没し、子供15人を含む50人が死亡する10年の大惨事を受け、パプアニューギニアのマヌス島やナウルで庇護申請者を受け入れ、手続きが行われるようになった。
しかし庇護申請者は非人道的な扱いに苦しみ、診療も受けられず、長年に及ぶ収容は自殺と自傷行為を蔓延させた。オフショア化は「残酷で効果がないだけでなく、違法である恐れが非常に高い」(国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ)と批判されている。
スナク首相はルワンダ法案の承認を受け「難民に関する世界の方程式を根本的に変える。弱い立場の難民が危険な渡航をすることを抑止し、難民から搾取する犯罪組織のビジネスモデルを打破できる。これで人命を救うことができると確信している」と述べた。
しかし真の狙いは難民の保護ではなく、選挙対策と保守党右派の懐柔にあるのは明らかだ。国際人権団体は「国際法を蹂躙し、難民を危険にさらすものだ。法の支配に重大な脅威をもたらす。英国議会は犯罪現場だ」と批判した。難民をスケープゴートにする政策は許されない。