Yahoo!ニュース個人発の筆者記事、安倍首相を動かす? EU離脱で窮地の英首相にTPPの助け舟

安倍首相とメイ英首相(昨年4月、英首相公式別荘で)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「英国のTPP加盟を歓迎する」

[ロンドン発]英経済紙フィナンシャル・タイムズが10月8日付1面2番手で「安倍晋三首相が、欧州連合(EU)離脱後の英国が環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟するのを心から歓迎している」というインタビュー記事を掲載しました。

正確には米国が離脱したあとのTPP参加11カ国の新協定TPP11のことです。首相公邸で行われた安倍首相に対するFT紙のインタビューを見ておきましょう。

「日本は諸手を上げて英国のTPP加盟を歓迎する。英国は『合意なきEU離脱』を回避するため妥協してほしい」

「英国はEU離脱後に欧州の玄関としての役割を失うだろう。しかし、それでもなお、グローバルな強さを持つ国であり続けるだろう」

「英国とEUの双方が少なくとも無秩序なEU離脱と呼ばれる事態を避けるために英知を絞ることを望んでいる」

「英国のEU離脱による、日本のビジネスを含むグローバル経済に対するネガティブなインパクトが最小化されることを心底願っている」

先の自民党総裁選で3選を決め、新たな任期を東京五輪・パラリンピック後の2021年9月まで延ばした安倍首相は先進7カ国(G7)のなくてはならない要です。

安倍首相がいなければG7は崩壊

【米国のドナルド・トランプ大統領】

「米国第一!」を掲げて貿易戦争を開始。北大西洋条約機構(NATO)への負担避けるドイツを激しく非難

【日本の安倍首相】

モリカケ問題で厳しい批判を集めるも安定。トランプ大統領と親密な関係

【ドイツのアンゲラ・メルケル首相】

難民問題でレームダック(死に体)化進む。トランプ大統領に嫌われる

【英国のテリーザ・メイ首相】

EU離脱交渉の難航で瀕死の状態。ロシアが英国内で神経剤ノビチョクを使用

【フランスのエマニュエル・マクロン大統領】

期待の新星だが、相次ぐ閣僚の辞任やボディーガードによる暴行事件で支持率30%を割る

【イタリアのジュゼッペ・コンテ首相】

EU懐疑派の急進左派「五つ星運動」と極右「同盟」の連立政権で混乱

【カナダのジャスティン・トルドー首相】

北米自由貿易協定(NAFTA)見直しでトランプ大統領と激しく対立

安倍首相は世界の「台風の目」トランプ大統領と9回も首脳会談を開き、26回も電話会談しています。日本国内では左派の猛攻撃にさらされる安倍首相ですが、安倍首相がいなければ、自由と民主主義の砦となるG7はいつ崩壊してもおかしくない状態です。

自由貿易推進する日本

安倍首相は、トランプ大統領がTPPから離脱したあともTPP11を主導。世界最大規模となる日EU経済連携協定(EPA)に署名しました。

英国のEU離脱交渉は難航しています。最大の理由は英国の離脱が欧州懐疑派を勢いづけ、EU崩壊の引き金になることを恐れてEU側が嫌がらせをしているからです。

筆者は昨秋、英与党・保守党の年次党大会を取材して「安倍首相は英国のTPP加盟を後押しせよ」という記事をYahoo!ニュース個人にエントリーしました。

「北朝鮮危機で核使用に言及した英国防相『日本の真の友とは』安倍首相はイギリスのTPP加盟を後押しせよ」(昨年10月4日、Yahoo!ニュース個人の筆者記事)

内容はそれほど濃くありませんでしたが、ほんの少しだけ、FT紙より早く報じました。

「UK looks to join Pacific trade group after Brexit(英国がEU離脱後にTPPに加盟することも検討)」(今年1月2日、FT紙)

貿易量は距離に反比例する?

英国がTPPに加盟するアイデアを言い出したのは、おそらく、貿易交渉に詳しい欧州問題研究所のシャンカー・シンガム国際貿易・競争担当部長が最初でしょう。2国間の貿易量はその距離に反比例するというのが定説です。

シャンカー・シンガム氏(筆者撮影)
シャンカー・シンガム氏(筆者撮影)

しかし、シンガム氏は「これからは財よりも、英国が得意とするサービスの貿易が増える。サービスの貿易では距離よりも、言語、法体系、ビジネス慣行、文化の方が大切になる」と解説していたので、その通りだと思って記事にしたのです。

TPP11には英連邦加盟国のカナダ、ニュージーランド、オーストラリアの他にも、英国と同じコモン・ロー(慣習法)の国が含まれています。

しかし、保守党大会の直後、ブレグジット関連イベントで「離脱交渉でEUから嫌がらせされるだけならTPP加盟を考えてはどうか。鶴岡公二駐英大使はTPP交渉を担当していた。相談するのにちょうど良いのではないか」と発言すると、EU側のジャーナリストから白い目で見られました。

シンガム氏に改めてインタビューすると「TPPは最も進んだ複数国間の合意で、英国の貿易政策のベースラインになる。正式に加盟しなくてもTPPには英国の将来のFTAに適用できる要素がたくさん詰まっている」と指摘しました。

デービッド・キャメロン前英首相の特別アドバイザーだったマッツ・パーソン氏も筆者の質問に「TPP加盟は突拍子もないアイデアではない。英国にとってアジアのワンストップショップになる」との見方を示しました。

その結果を「EU離脱で追い込まれる英国 危機的局面を打開する”突破口”」(Wedge今年4月号の筆者記事)にまとめました。

自由貿易の未来は安倍首相の双肩に

バーミンガムで開かれた今年の保守党大会では、リアム・フォックス国際貿易相が「日本やカナダ、メキシコを含むCPTPP(米国が抜けたあとのTPPの正式名称、TPP11)と同じように米国とも将来の新しい自由貿易協定について公に相談することができました」と演説しました。

演説するフォックス国際貿易相(筆者撮影)
演説するフォックス国際貿易相(筆者撮影)

それをもとに三度、記事にしました。

「EU離脱交渉安倍首相は英国のTPP加盟を後押しせよ 追い詰められるメイ首相」(今年10月1日、Yahoo!ニュース個人の筆者記事)

英国がEU離脱後にTPP11に加盟するには、EUの関税同盟から離脱して独自の通商協定を結ぶことができるフリーハンドが必要です。

安倍首相のFT紙インタビューは、EU側がEU・カナダ包括的貿易投資協定(CETA)型に上乗せする自由貿易協定(FTA)への方向性を示した直後だけに絶好のタイミングでした。

しかし、その一方で関税同盟から離脱すると、英国の約半分の自動車を生産する日産、トヨタ、ホンダのサプライチェーンが寸断されてしまう恐れがあります。

英国のEU離脱交渉をソフトランディングさせるキープレーヤーは世界中を見渡しても安倍首相しか見当たらないのが現状です。英国をTPP11に抱き込み、将来的に米国のTPP復帰に道筋をつけることは日本の利益にもなります。

自由貿易の未来は安倍首相の双肩にかかっていると言っても、決して過言ではないのです。

(おわり)