EU離脱交渉 安倍首相は英国のTPP加盟を後押しせよ 追い詰められるメイ首相

EU離脱交渉が大詰めを迎え、保守党大会で目を見開くメイ首相(筆者撮影)

「日本を含むTPPと公に相談」英国際貿易相

[英イングランド中部バーミンガム発]欧州連合(EU)離脱交渉が大詰めを迎える中、与党・保守党の党大会が9月30日から4日間の日程で、英イングランド中部バーミンガムで始まりました。

9月30日に開幕した保守党大会(筆者撮影)
9月30日に開幕した保守党大会(筆者撮影)

瀕死のテリーザ・メイ首相がEUと合意できるか、そして、その合意は議会を通るのか。余談を全く許しません。メイ政権が切り札として温めているのが、米国との自由貿易協定(FTA)に加えて、何と日本の安倍晋三首相が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉です。

リアム・フォックス国際貿易相は30日の演説でこう強調しました。「私たちは(EUの)関税同盟と単一市場から離脱しつつあります」

党大会で演説するリアム・フォックス国際貿易相(筆者撮影)
党大会で演説するリアム・フォックス国際貿易相(筆者撮影)

「日本やカナダ、メキシコを含むCPTPP(米国が抜けたあとのTPPの正式名称、11カ国加盟)と同じように米国とも将来の新しい自由貿易協定について公に相談することができました」

英国はコモン・ロー(慣習法)の国で、法体系が共通する旧植民地や英語圏のカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアもTPPに参加しています。

融通が利かない大陸法のドイツやフランスが主導するEUに縛られるより、TPPに入る方が貿易の自由度が増すと、フォックス氏が中心になってTPP加盟を選択肢の一つとして検討してきました。

英国のEU離脱交渉「秋の陣」

EU離脱に向け、この秋に最大の山場を迎える英国とEUの政治日程を見ておきましょう。

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9月20日、非公式EU首脳会議。メイ首相の離脱案をEU側が拒否

9月23~26日、最大野党・労働党の年次党大会

9月30日~10月3日、保守党の年次党大会

10月18日、EU首脳会議。離脱交渉の事実上の期限だが、12月に先送りされる可能性も。移行期間、新たな貿易協定、アイルランド・北アイルランド国境問題を含め英国のEU離脱と将来の関係について合意を目指す

12月13~14日、EU首脳会議。もう後がない本当の意味でのデッドライン

EUと合意できれば英議会で採決へ

来年3月29日午後11時、英国がEUを離脱

メイ首相は先の非公式EU首脳会議で(1)英国・EU間の「人の自由移動」は終結させる(2)アイルランドと英・北アイルランド間に「目に見える国境」を復活させない(3)製造業のサプライチェーンを寸断しないようEU離脱後も財については事実上、無関税で障壁のない自由貿易圏を保つ――ことを柱にする離脱案を拒否されたばかり。

メイ首相の離脱案は首相の公式別荘チェッカーズで協議されたことから「チェッカーズ案」と呼ばれています。EUの単一市場と関税同盟と同じルールブックを英国もつくって、離脱後もEUとできるだけ摩擦のない関係を維持しようとしているのが特徴です。

英国はFTAに向かう

貿易交渉に詳しい欧州問題研究所のシャンカー・シンガム国際貿易・競争担当部長は筆者にこう解説しました。

「EUにとって、選択的に単一市場や関税同盟へのアクセスを求める英国のアプローチを受け入れるのは単純に難しいのでしょう。それとも交渉を有利に進めるため、英国に対してブラフ(はったり)をかけているのかもしれません」

「英国とEUの妥協点はFTAしかありません。それによって物流に新たな摩擦が生じるでしょう。日本の自動車メーカーは英国ではなくEUに摩擦を極力避けるよう圧力をかけるべきです。世界的にサプライチェーンを展開する日産やトヨタ、ホンダには調整は可能だと思います」

「TPPは最も進んだ複数国間の貿易協定で、英国の貿易政策のベースラインになります。正式に加盟しなくてもTPPにはFTAに適用できる要素がたくさん詰まっています」とシンガム氏は以前から筆者に指摘していました。

30日夜、党大会のミニ集会で「交渉は最後の最後まで緊迫するものです。最後はFTAで妥結するだろうと見ています」と語ったデービッド・デービス前EU離脱担当相を直撃しました。

デービッド・デービス前EU離脱担当相(右、筆者撮影)
デービッド・デービス前EU離脱担当相(右、筆者撮影)

筆者「FTAで妥結すれば、日本の自動車メーカーのサプライチェーンは大きな打撃を受けることになります」

デービス氏「インタビューは受けないよ。でも英国がTPPに加盟すればプラス面も大きいんじゃないかな」

与党・保守党は二分

メイ首相の離脱案を支えるフィリップ・ハモンド財務相にも日本メディアの仲間2人と一緒にぶら下がって「英国はEU・カナダ包括的貿易投資協定(CETA)型に舵を切るのか」と尋ねると、「カナダ型はない」とメイ首相のチェッカーズ案を支持する姿勢を鮮明にしました。

しかし、チェッカーズ案の人気は散々です。世論調査会社ORBインターナショナルによると、メイ政権のEU離脱交渉を支持する人は55%から24%に急落し、不支持の人は45%から76%にハネ上がっています。

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保守党はメイ首相のチェッカーズ案と、デービス氏ら強硬離脱(ハードブレグジット)派が主張するFTAを支持するグループに完全に分かれています。EUがチェッカーズ案を拒否した背景には、英国に欧州経済領域(EEA)とEUの関税同盟に留まるよう圧力をかける狙いがあると筆者は見ています。

しかしメイ首相がこれ以上、EUに対して妥協すれば保守党から強硬離脱派が40~50人造反して政権が崩壊し、総選挙になり、強硬左派ジェレミー・コービン党首率いる労働党政権が誕生する可能性が大きく膨らみます。

首相の座を狙うジョンソン前外相

チェッカーズ案に反対してデービス氏と一緒に閣僚を辞任したボリス・ジョンソン前外相は「EUの軛から逃れる夢は潰えた」「英国は(EUの)植民地という地位に向かっている」とメイ首相を攻撃し、あからさまに首相の座をうかがっています。

ボリス・ジョンソン前外相(昨年秋、筆者撮影)
ボリス・ジョンソン前外相(昨年秋、筆者撮影)

保守党議員委員会(1922年委員会)に48人の書簡が寄せられると、メイ党首の不信任投票が行われます。もし保守党の党首選が行われてジョンソン氏が党首に選ばれ首相に就任したら、英国はFTAで妥結するより、合意がないままEUを出ていく恐れの方が大きいでしょう。

メイ首相は若干FTAの方向に舵を切らざるを得ないのかもしれません。しかし、それをEUが受け入れるのかどうかは、メイ首相と同じようにレームダック(死に体)化が始まった「EUの女帝」ことアンゲラ・メルケル独首相の胸三寸にかかっています。EU離脱交渉の結果にかかわらず、安倍首相は英国のTPP加盟を支援すべきでしょう。

(おわり)