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EURO2020第5日。「死の組」? 傑出していたフランスの強者ぶり

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
今大会の王はフランス、キング・オブ・キングスは彼(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

フランスにはポルトガルとドイツにないものがある。個の打開力だ。デシャンのチームにとってはたぶん「死の組」にはならない。気は早いがフランスを脅かすのはイタリアとベルギーくらいではないか。

フランスはフィンランドと並ぶ枠内シュート1本で勝利したチームとなった。が、これはフランスのゲームプラン――必殺のカウンターで止めを刺す――によるもの。VARで取り消された2つのゴールで、彼らのカウンターの怖さは十二分に伝わって来た。

やはり優勝候補ナンバー1である。

大体、他のチームにはエムバペのように単独で何人も抜けてゴールを挙げられる選手がいない。というか世界にもほとんどいない。

リーガエスパニョーラにおけるメッシがそうである。攻撃は何でも一人でやってしまう。彼が決められない時は、敵を2、3人引き付けてくれるから周りの仲間が決められる。両方の意味で「決定的」だ。

■フランス対ドイツ デシャンの狙い通り

飛び道具エムバペと、「フィニッシャー兼トップ下」のベンゼマ、「フィニッシャー兼守備のサポーター」グリーズマンという組み合わせは、何と「速攻」に向いているのだろう! ポグバ、カンテという、ペナルティエリアからペナルティエリアまでカバーする「ボックス・トゥ・ボックス」コンビは、何と「堅守」に向いているのだろう! それにポグバ、カンテは技術レベルの高さの点でも馬鹿にできない。フランスというチームは何とデシャン監督が求める「堅守速攻」に向いているのだろう!

ロシアでもフランスは堅守速攻だった。あの時はジルーがロングボールをポストプレーし、拾ったグリーズマンとエムバペが決めるパターンで危なげなく世界一になった。

今大会でではエムバペがスケールアップし、ベンゼマというとんでもない個が加わり、3年前より強くなった印象だ。

クロースはポグバ対応で精一杯だった
クロースはポグバ対応で精一杯だった写真:代表撮影/ロイター/アフロ

今大会のフランスはカウンターだけでなく何でもできるチームだと言われるが、何でもしなくてもカウンターだけで勝てるのではないか。

唯一の弱点はGK。ジョリスは飛び出しの思いきりが悪く、キックも安定していない。ゴール前が密集になった際にハイボール対応をCBに任せる傾向があり、キャッチングやパンチングで攻撃を切れない。また、バックパスを追われるとキックが不正確になり、カウンターの起点になれない。

あとは下がらないエムバペの背後。ドイツのゴールチャンスは、すべて3バックで高い位置取りができたキミッヒがここを突くことで生まれていた。

ドイツはあまりに単調だった。

引いた相手に対し、誇張して言えば、攻撃陣は全員がクロースのアシスト待ち。最前線で一列に並んで「ここにくれ!」の姿勢で待っている。が、中盤の底にいるクロースにそこまで要求するのは酷。レアル・マドリーで言えばクロースはボールを出し、サイドチェンジ担当だが、ゴールに直結する崩しをするのはベンゼマ。ベンゼマ的な誰かが必要だ。途中出場のサネが唯一、ドリブルで何かを作ろうとしていた。

■ハンガリー対ポルトガル ロナウド!?

この試合を見て、指導者の時子供たちに言っていた言葉を思い出した。

「1点目を取れば2点目はより簡単だ。2点目を取れば3点目はもっと簡単で、3点目を取れば4点目は向こうからやって来る」

取る度にゴールの難易度はどんどん下がる。相手に諦めの気持ちが出てきて、こっちのモチベーションは上がるのと同時に、相手が前掛かりになりスペースが生まれるから。

「だからどんどん取りに行け!」と言っていた。

駆け引きはなく、自分たちのサッカーを貫けば良い、勝つことが最優先ではない少年サッカーだからできる指示だ。子供たちはボールを持つのが好き、ゴールをするのが好き。ならば、それができる戦い方をする――。

2点を取った彼だけではなく、84分までのロナウドにも注目したい
2点を取った彼だけではなく、84分までのロナウドにも注目したい写真:代表撮影/ロイター/アフロ

84分まで0-0で踏ん張ったハンガリーは立派だった。内容からすれば0-3は酷なスコアだった。名前のよく似た3人(サライ・アーダム、シャッライ、サライ・アッティラ)を中心に走る、ぶつかる。技術は劣っていたが、運動量と守備時のポジショニングで上回っていた。

死の組でも0-0を維持しているうちは十分戦える。失点すれば終わりだが。私の中では、「戦える好チーム」の引き出しに、フィンランド、北マケドニア、スコットランド、スロバキアとともに入った。

■2点のロナウドだが、相棒が必要

優勝候補ポルトガルは物足りなかった。特にロナウド。2、3点目を挙げた彼――3点目はコンビネーションの美しさでイタリアの3点目に並ぶ美しさ――ではあったが、肝心の均衡状態での介入が少な過ぎた。

ゴールゲッターとしては健在だが、周りにお膳立てをしてもらう必要がある。単独で打開できるフェリックス、ゲデスあたりがロナウドの相棒にならないとポルトガルは苦しいのではないか。

あくまで印象だが、今大会は「単独で差をつけられる」アタッカーが少ないように思う。

エムバペ(フランス)が断然頂点にいて、第2集団がインシーニョ(イタリア)、ルカク(ベルギー)、イサック(スウェーデン)、フォーデン(イングランド)、デパイ(オランダ)、その下にヤルモレンコ(ウクライナ)、ワイナルドゥム(オランダ)、バルディ(北マケドニア)が続く感じ。次の出来次第では、アザール(ベルギー)も加わるかもしれない。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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