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ロシアW杯10日目。ドイツ勝利1分前の絶対許せないミス。韓国の大健闘、大勝ベルギーに不吉な前例

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
クロースの劇的決勝弾にあった伏線。常識的にはスウェーデンは負けるはずなかった(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの9回目。観戦予定の全64試合のうち大会10日目の3試合で見えたのは、ドイツ勝利1分前の許せないミス、韓国の大健闘、大勝ベルギーに不吉な前例……。

ディエゴ・シメオネの『シメオネ超効果』(ソル・メディア刊)を訳している時に、こんな言葉に出会った。

「目の前で起こっていることを次々と解決していく選手と違って、監督は次々に問題が現れてくるというふうにとらえる。だから、2-2の段階ですでに3-2と勝ち越されている状況を想定」する、と。要は、監督とは決して楽観しない人。終了のホイッスルが鳴るまで決して“勝った”と思わない。選手は違う。彼らには試合をコントロールしているのは自分たちだという実感がある。だから、勝ったとも思うし過信も油断もする。

このシメオネの言葉には大いに共感する。リードしていても1分後に失点するかもしれないと用心し、常に脅えているというのが、監督の端くれとして試合を指揮している時の実感だった。

シュートという判断の常識外

その監督目線から見て、絶対に許せないミスがあった。終了寸前クロースの決勝点でドイツ勝利という、劇的な幕切れだったドイツ対スウェーデン(2-1)でのことだ。

引き分けのまま5分のロスタイムに入り残り1分20秒。ドイツのペナルティエリア内でのスウェーデンボールだった。ドリブルしていたのは、少し前に途中交代で入ったグイデッティ。ニアポストは相手GKノイアーがカバーしシュートコースがない。ファーポスト側に蹴ろうにもリバウンドを拾える味方はいない。味方は右後ろ、左後ろにいるだけ。

この状況で、あと80秒で目的の引き分けが手に入るのに、グイデッティは絶対にしてはいけない選択をした――ニアを狙ったシュート――。見ていて思わず「何やってんだ!」と怒鳴った。こういうミスにはプロもアマチュアもない。

ノイアーの手に収まったボールは数十秒後にスウェーデンゴールのネットを揺らしていた。

ドリブルを止め後ろを向いてバックパスをしさえすれば、試合終了だったが、”自分が勝利のヒーローになる”というエゴが、“試合終了も同然”との過信が、正しい判断をさせなかった。エゴと過信には必ずツケが回って来る――監督経験者ならうなずいてくれると思う。

古典的な堅守速攻で健闘までは行ける

スウェーデンが格上ドイツを苦しめた戦い方が[4-4-2]での堅守速攻。相手が自陣に入るまでは後退、自陣で初めてプレス、押し込まれても1人は最前線に残って相手CBの裏を狙い、スペースにロングボールが送り込まれるのを待つ、というまったく同じプランでメキシコを苦しめたのが韓国だ。

メキシコ対韓国(2-1)は私の住むスペインメディアによれば、メキシコの圧勝となっている。だが、本当にそうか? 韓国唯一の敗因は、第1戦と同じく不必要でイノセントなPK。内容的には第1戦よりはるかに良く、少なくとも勝ち点1にふさわしい戦いだったと思う。すぐにファウルを犯してしまう点は気になったが、GKの奮闘もあり、高さの無い相手だからセットプレーが即ピンチ、ということはなかった。

イラン対スペインを見ていてもそう感じたが、守備に規律があり、快速の2トップがおり、運動量があれば、この堅守速攻型でW杯の舞台でも健闘はできる。が、点を取りに行くには不十分だから健闘止まりの可能性ももちろんある。2点目を生んだメキシコのカウンターを食ったのは、リードされ前に出て行く必要があったから。あれ、0-0のまま終盤を迎え、メキシコが前に出ずにいられない状況であれば、韓国には勝利のチャンスがあった。星勘定からすればメキシコはこの試合は勝ち点1では終われなかったのだから。

GS快進撃、あっけなく敗退はよくある

ベルギー対チュニジア(5-2)。チュニジアをゴールショーで粉砕したベルギーを優勝候補の一角に押す人も出て来た。

確かに、カウンターあり、セットプレーあり、美しいコンビネーションもあり、ポゼッションもでき、ルカクやウィッツェルの高さもあり、フリーキックの名手(デ・ブルイネ、アザール)もいて、ドリブラー(アザール、メルテンス)もいる、と攻撃パターンは多彩でどんな状況でも点が取れそう。タレント量を計測する“タレントメーター”というのがあれば、ベルギーは32カ国中ナンバー1かもしれない。

だが、グループステージ(GS)で圧倒的な攻撃力を見せたチームが決勝トーナメントであっけなく敗退というのはW杯ではよくあることなのだ。調べてみた。

GS首位通過かつ最多得失点差のチームとその最終成績は、2014年ブラジルではオランダ(ベスト4)とコロンビア(ベスト8)、2010年南アフリカではアルゼンチン(ベスト8)、2006年ドイツではアルゼンチン(ベスト8)とスペイン(ベスト16)、2002年日韓ではドイツ(準優勝)と、優勝者が出るには1998年フランスのフランスまでさかのぼらなくてはならない。

快進撃はいつか止まる。攻撃は水もの。世界の頂点に立つには渋い1点差勝利も必要である。決勝トーナメントに調子のピークを合わせて来るチームもあるし、一発勝負を勝ち上がるには駆け引きも経験も要る。この点、国際舞台での実績が乏しいベルギー、同じ大勝続きのロシアには不安が残る。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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