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鹿島から世界へ羽ばたくストライカー。上田綺世が欧州で活躍する条件

河治良幸スポーツジャーナリスト
Noriko NAGANO

日本代表FWの上田綺世が鹿島アントラーズからベルギー1部のセルクル・ブルージュへ移籍することが確実になりました。すでにクラブ間合意がなされており、渡欧後のメディカルチェックを経て、完全移籍になると見込まれています。

※関連記事「ベルギー移籍の上田綺世は欧州でどこまで上り詰めるのか。その言葉から海外挑戦のビジョンを読み解く。

現在はフランス2部のニームに所属するDF植田直通も同じルートで欧州に渡りました。そういった信頼関係もあると思いますが、まずUEFAカントリーランキングの9位であるベルギーリーグで活躍して、欧州5大リーグのクラブなどにステップアップしていイメージはもちろんあるでしょう。

ここまでリーグ戦10得点を記録しており、カタールW杯も迫り、国内組で臨むE−1選手権でエースとして期待される中で新しい環境にチャレンジしていくのは1つリスクですが、そうしたことよりも1人の選手としてどれだけ成長して、上り詰めていくかを基準にしているのはこれまでの言動からも理解できることです。

その上田綺世に続いていくストライカーということで、前回のYahoo!コラムでは「Jリーグから世界の舞台へ!上田綺世に続く代表入り期待の”国内組”アタッカーを探せ。」を書きましたが、上田が欧州でストライカーとして成功していくためのポイントを考えたいと思います。

鋭い動き出しやパワフルな右足のシュートが目に付きやすい上田ですが、ストライカーとしてベースになっているのが明確なフィニッシュのビジョンです。どういった状況でどういう動きをすれば味方から効果的なパスを引き出して、危険なフィニッシュに持っていけるか。

それを90分、イメージしながら立ち位置を取ったり、相手ディフェンスの視界から消えたり、ポストプレーで絡んだりといった作業を守備のタスクと向き合いながらやっている。それが合えば後はシュートの精度や質で相手のブロックやキーパーを上回るだけになってきます。

それだけにコミュニケーションは大事になりますが、やはり鹿島でもそうですし、代表でも大学選抜や三笘薫など、アンダーの代表から絡んでいる選手とは”阿吽の呼吸”に近い形でチャンスメークからフィニッシュまでのイメージが作りやすくなるのは上田も語る通りでしょう。

言い換えると、海外の環境ではまずそう言ったベースが一度、全て取り払われてしまうことになります。A代表でなかなか結果を出せていないのも、鹿島と違う1トップのタスクがあり、なかなかフィニッシュに集中しにくい環境であることもありますが、やはり周りとの関係性を短期間で作るという作業に苦しんでいるように見て取れます。

そういう状況で、良くも悪くもあまり細かく考えない選手というのは感性が周りと噛み合えば、すぐに結果が出るケースもありますが、上田綺世というストライカーはそういうタイプではない。ただ、だからこそ周囲とのビジョンの共有や動き出しの関係が良くなればなるほど、結果にも反映されやすいことにもなります。

その意味では移籍先がどこにしても、いきなり鹿島のようなフィニッシュワークは期待できないでしょう。最初は必ずラグだったり、思い描いたタイミングで味方からパスが出てこないだったり、難しい状況が出てくるはずです。

もちろん環境面でピッチや相手ディフェンスの体格、Jリーグとの対応の違いといった難しさはありますが、第一には味方との関係性を構築していくことが上田綺世にとって最大の難関であり、逆に言えば海外挑戦の意味にもなってくるはずです。

そしてJリーグは組織を重視したり、コンビネーションを生かす意識が高いリーグで、特に鹿島は上田の特長やイメージを生かそうとする周囲との協力関係が成り立ちやすい環境と言えます。それがベルギーリーグ、特に中下位のチームというのは個人で完結する領域が大きい。

欧州サッカーというと日本のファンはプレミアリーグのビッグクラブやチャンピオンズリーグに出ている強豪クラブをイメージしやすいと思いますが、そういった高度な次元でプレーしているクラブは欧州でもほんの一握りですし、戦術面もステージが下がれば雑多になって行きます。

プレーする選手によって欧州で受けた戦術的な印象が違うのもそのためでしょう。だから欧州でも上のステージに行くほど相手のレベルも味方の要求も上がりますが、実は上田綺世という選手の特性をより生かしやすい環境になって行くわけです。

しかし、現実的にいきなりそこ行けるわけではない。ある種、理不尽な環境の中で上田綺世ができる解決策は大きく2つあります。1つはまず自分のこれまでのイメージに拘らず、強引にでも結果を出すこと。それによって周りがエースと認めて、上田綺世に何とか合わせようという流れに持っていけばゴールのための協力関係というものはできてくるはずです。

もう1つは早く自分の理解者を作って行くこと。これはポルトガルでプレーする日本代表の守田英正が語っていたことですが、少しでも自分のスタイルを発揮できるように、ポジションの近い選手から積極的にコミュニケーションを取って、イメージを理解してもらったと言います。

どっちにしても良い動きをすれば味方が見ていて出してくれるという環境はおそらく新しい挑戦先には用意されていません。その中で上田がアジャストして行くのか、あるいは上田がアジャストさせて行くのか。端的に言えばどちらも必要なのですが、守田が取った方法というのは良いヒントになるかもしれません。

鹿島でやっているような細かいイメージ共有は難しいと思いますが、ここにこのタイミングで出してくれたら必ず決めるからと言ったシンプルな受け手と出し手の共有か始めて、そのラインを時間と共に太く、多くして行く。

そのサイクルを環境のステップアップに応じてアップデートする繰り返しになって行くのではないかと思います。筆者個人としてはE−1選手権でエースとして活躍する姿や鹿島で2022シーズンを全うし、タイトルや得点王を獲得する姿も見たいというのはありますが、選手のキャリアは自分が決断し、切り開いて行くものなので、それをリスペクトしてピッチの評価をして行きたいと思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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