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#日本版ライドシェア』、なんと時間制限も曜日制限も!これでは単なるタクシー不足のスキマバイト

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:国交省プレスリリース

KNNポール神田です。

ついに2024年4月1日から解禁となる『日本版ライドシェア』の概要が、あと半月となってようやく国交省より発表された。

□国交省は(2024年3月)13日、一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶ「日本版ライドシェア」の導入先として、東京や京都など4区域を認める方針を明らかにした。4月に解禁する。区域ごとに運行を認める台数の上限や時間帯も示した。導入先の公表は初めて。他の区域も順次公表するが、開始時点では4区域となる見通しだ。
□日本版ライドシェアは、タクシー会社が運行主体となり、国が指定する地域、時期、時間帯に限って運行できる。今回発表の区域もタクシーの運行を認めている営業区域と同じで、東京23区や武蔵野市、三鷹市からなる「特別区・武三」横浜市を中心とした「京浜」、「名古屋」、「京都市域」の四つを挙げた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c6200e5e2f150d4958ca9747a9996c23930516a4

『東京都』『神奈川県』『千葉県』『埼玉県』の1都、3県での広域的な解禁と思われていたが、『東京23区』と『武蔵野市』『三鷹市』、横浜市を中心とした『京浜』『名古屋』『京都市域』というエリアを制限した『4区域』という発表だ。

しかも、上限台数が制限されているだけでなく、曜日と時間帯も細かく制限されている。

たとえば、東京23区を含む『特別区・武三』だと平日は朝の7時から10時までの3時間金、土は、16時から19時までの3時間土曜日深夜の0時から朝4時までの4時間日曜日は朝10時から13時までの3時間

どうだろう。こんな五月雨式の働き方で、タクシー会社と契約して、自分のクルマでライドシェアをやりたいと考えるだろうか…。しかも、2種運転免許証を持つ、タクシードライバーさんよりも待遇が良いとは考えられない。

平日の3時間だけのアルバイト、副業として考えるか、土日だけの深夜4時間、3時間だけという、タクシーのスキマバイトというイメージだ。

これは、むしろ『日本版ライドシェア』ではなく、『不足タクシースキマバイト』と呼ぶべきではないだろうか?

■『日本版ライドシェア』とは言いながらも、単なる『タクシー不足解消策』でしかない

出典:国交省プレスリリース
出典:国交省プレスリリース

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001730147.pdf

『不足車両数』の発表である。だから、この台数が『上限』となるのが、『日本版ライドシェア』の実態なのである。

出典:国交省データを筆者加工
出典:国交省データを筆者加工

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001730147.pdf

国交省のサイトを見てみると、報道された情報との立ち位置の違いがよくわかる。

もちろん、『日本版ライドシェア』や『解禁』という文言も一切、見当たらない。単にタクシーが不足している地域と時期と時間帯と不足車両を公表しているだけのものでそれ以上でも以下でもないというスタンスだ。

□国土交通省では、タクシー事業者の管理の下で地域の自家用車や一般ドライバーによって有償で運送サービスを提供することを可能とする制度(自家用車活用事業)を創設する予定です。今般、制度の創設に向け、タクシーが不足している地域・時期・時間帯と不足車両数を公表いたします。
□ 昨年(2023年)12月に決定された「デジタル行財政改革会議の中間とりまとめ」において、タクシー事業者が運送主体となって、地域の自家用車・ドライバーを活用し、タクシーが不足する分の運送サービスを供給すること(道路運送法第78条第3号に基づく制度の創設)が決定
□今後、タクシーが不足する地域・時期・時間帯におけるタクシー不足状態を、道路運送法第78条第3号の「公共の福祉のためやむを得ない場合」であるとして、地域の自家用車や一般ドライバーによって有償で運送サービスを提供すること(自家用車活用事業)を可能とする許可を行っていく予定です。
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000415.html

■来週の3月19日火曜日までにタクシー事業者もメールで申請しなければならない!

『日本版ライドシェア』とは名ばかりで、タクシー不足のスキマを埋めるだけの法律改正だ。しかも、文言にはないが、あくまでも不足台数を発表しただけで、この4区域の事業者も、発表されたのが、2024年3月13日水曜日。

そして、姑息なのが、3月19日火曜日までのたったの4営業日以内に電子メールで申請しないといけないと記されているのだ。

これは、すでに国交省としては、事業者向けに告知したことになっているが、PDFの中身を見るまでタクシー事業者も気づくこともない。しかも締め切りが過ぎると、今年の7月までの4ヶ月も申請ができないという仕様となっている。

 これはよくある公募補助の事業にもいえることだが、事前に知っている事業者しか応募させないという姑息なやりかたにみえて仕方がない。

少なくとも、応募対象となるタクシー事業者側も自社の持つ人的資産や車両や一般人の雇用形態なども検討しなければおいそれと応募できないものだ。少なくとも一ヶ月くらいの検討期間は必要だろう。たったの4営業日以内に返答とかは、突然の会議を開く時間もない。

出典:国交省 意向調査票提出にあたっての注意点
出典:国交省 意向調査票提出にあたっての注意点

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001730433.pdf

まずは、この4区域のタクシー事業者はこの『Excel』のフォームで応募をしないかぎり、日本版ライドシェアのスタート地点にも立てないのだ。

出典:国交省 意向調査票様式(特別区・武三交通圏)(Excel形式
出典:国交省 意向調査票様式(特別区・武三交通圏)(Excel形式

https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000415.html

■単なる不足タクシーの解消手段でしかない『日本版ライドシェア』の問題点

以上の展開を見ても、国交省そのものが、『日本版ライドシェア』について、緊急措置という認識であることもよくわかる。

本来、『ライドシェア』は、交通に関する社会的問題解決の手段で発生してきた新たなビジネスモデルである。

なんといっても、タクシーの代替手段と考えいてる時点で、『ライドシェア』の

発想ではない。自家用車とタクシーの間に立つ、新たな所有せずに共有するシェアリングエコノミーという大きな潮流の一環だ。海外のエアービーアンドビーと、ホテルとの違いは、ホストオーナーとの交流も含めて、旅と宿泊を大きく変えた。

『日本版民泊』は、営業日数の制限でホストオーナーの経済的モチベーションを下げて、歪なかたちで運用されている。この『日本版ライドシェア』も同様で、『タクシー不足解消』という、タクシーの運行市場を守ることしか考えられていない。

むしろ、自らハンドルを握る『カーシェアリング』や、乗せてもらう『ライドシェア』は、新たな移動に関する自由なイノベーションでもある。

ライドシェアで無駄なエネルギーも渋滞も、アプリひとつで解消できる。むしろ、タクシー利用度を増大させるチャンスでもあるのだ。自動車を自ら運転している人は絶対にタクシーを利用しないからだ。

世界的にも当然に普及しているサービスが、UBER誕生から14年も経過しているにもかかわらず、日本では『UBER EATS』の宅配代行しか走っていない。

これは、日本そのものが過去のレガシーや選挙の票田を大事にするあまり、未来のテクノロジーに全く投資できていない社会そのものとしか言いようがない。

こちらは、全自交労連 提出資料交通政策審議会陸上交通分科会 第 1 回自動車部会で出された資料『ライドシェア新法』についてだ。業界団体は、魅力ある職場を提供するためにも、労働形態を含めて新た『ライドシェア』との『業務委託』や『業務請負』との多様性のある働き方を検討してほしい。

1.〝ライドシェア新法〟について
利用者の安全と公共交通の持続性を担保するために必要不可欠な規制を形骸化させることは認められない。
2023 年 12 月 20 日に策定されたデジタル行財政改革会議の中間取りまとめには、地域の自家用車・ドライバーの活用について「できるものから早期に開始し、実施効果を検証するとともに、タクシー事業者以外の者がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度について、2024 年6月に向けて議論を進めていく」とあるが、「タクシー事業者以外の者が行うライドシェア」は利用者の安全、既存の地域公共交通への影響、ドライバーのワーキングプア化等に関し重大な懸念があり、決して容認できるものではない。また示された検討期間はまったく非現実的な短さであり、ライドシェア導入ありきで、まったく理解できない
2.道路運送法 78 条 3 号に基づく自家用車の活用について
① 道路運送法第78条3号を根拠とした自家用車による有償運送は、本来、災害などの緊急時を想定し、公共の福祉のためにやむを得ないケースにおいて例外的に白ナンバーの有償運送を認めるものであると理解している。したがって、タクシー業界労使の努力により「タクシー不足」と言われる状況が解消し次第、早急に当該制度を終了すべきである。
② 道路運送法第 78 条3号に基づく、タクシー会社が管理する自家用車有償輸送旅客運送について、ドライバーとの請負契約を認めるべきとの主張も聞かれるが、日本の法人タクシーの安全性と高い接客水準は雇用関係を前提とした運行管理や教育によって支えられてきた事実や、海外においてライドシェアドライバーの貧困や無権利労働、搾取的実態が社会問題化している事実を踏まえれば、雇用関係は絶対に欠かせない条件である。
③ 道路運送法第 78 条3号での運行に際し、運行管理・車両管理のノウハウを持たない企業が、形式的にタクシー会社としての許可を取得し、参入する事態を防ぐ措置が必要である。
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001722470.pdf

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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