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オープンAI、サムアルトマンCEO突然解任〜4つの解任説の謎?〜

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

■【追記】なんと、サム・アルトマンはMicrosoftへ入社するというシナリオの展開に!

『イノベーションの新たなペースを確立するこの新しいグループの CEO としてサムに加わっていただけることを大変うれしく思っています。私たちは、創設者やイノベーターに、GitHub、Mojang Studios、LinkedIn などの Microsoft 内で独立したアイデンティティと文化を構築するためのスペースを与える方法について、長年にわたって多くのことを学んできました。皆さんにも同じようにしていただけることを楽しみにしています』

サティア・ナデラ氏のx.comへのポスト

これは、想像しなかった展開となった。

Microsoftは、OpenAIと共に、サム・アルトマン氏をAI事業のグループCEOとして迎えるということだ。

サム・アルトマンにとっても、古巣の技術をMicrosofとして活用しながら独自の展開が可能となる。

2023年11月17日、突然のOpenAI社のCEOのサムアルトマン解任のニュースが報じられた。

チャットGPT手掛ける米オープンAI、アルトマンCEOを解任

□米オープンAIは(2023年11月)17日、創業者のサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)を解任した。突然の退任に、新興のAI業界では衝撃が広がっている。

□声明ではアルトマン氏の退任について、「取締役会による慎重な検討プロセスを経たものだ。検討の結果、アルトマン氏は取締役会との意思疎通において必ずしも率直ではなく、取締役会の責務遂行能力の妨げになっていると結論付けた」

□常任の後任CEOが選出されるまで、ミラ・ムラティ最高技術責任者(CTO)が暫定CEOを務める

https://news.yahoo.co.jp/articles/e5694541ac767e52e8d9504ae5917557bbf131e4

突然のニュースにいろんな憶測が現在も飛び続けている。信憑性も含めて、その理由と目論見を4つの解任説で解き明かしてみたい。

■1.取締役解任説

すでに取締役で解任と報道されているが、本人不在によると思われる取締役の解任劇は異例である。

なぜならば、サム・アルトマン氏は、この同時期、2023年11月17日サンフランシスコのAPEC会議で『何千万年、何億年、あるいは何十億年も繁栄し続けたいのであれば、われわれにはテクノロジーが必要だ』とステージで語ったいたことによると…突然の解任劇であることがわかる。そして解任の通告は『Google Meet』でなされたという。

APEC会議でのサム・アルトマンのパネル登壇

ChatGPTが公開された2022年11月30日からまもなく1年を経過する。そして、2023年、激動の対話型AIの立役者のサムアルトマンの突然の取締役会の決議が謎すぎる。また、10日ほど前の、2023年11月6日開発者会議『OpenAI DevDay』でも過去最大のサービスを披露した直後でもある。

これは、どう考えてもIT業界における『本能寺の変(1582年)』クラスのクーデターであるとしか思えない。過去には、1985年のスティーブ・ジョブズのApple解任劇などがある。2023年11月17日サム・アルトマン解任

このキーノートスピーチを見ても、サム・アルトマンご本人が解任される危機にあったとはとても思えない。

□オープンAIの共同創業者で取締役会長を務めていたグレッグ・ブロックマン氏は同職を辞め、社長も辞任。X(旧ツイッター)に「きょうのニュースに基づき、私は辞めた」と投稿した。

□同社はAI業界をリードする存在であり、860億ドル(約12兆8700億円)の評価額で従業員の株式を売り出す方向で投資家と交渉を進めている。この評価額での売却が実現すれば、世界最大級の新興企業となる。

□オープンAIに100億ドルを投じている米マイクロソフトの株価はアルトマン氏退社のニュースを受け、一時2.4%下落した。同社は資料で、「オープンAIとは長期的な関係を築いており、次の時代のAIを顧客に提供するため、彼らのチームに引き続きコミットしていく」と表明した。

https://news.yahoo.co.jp/articles/121783543787848cf9c5289531ba24c7535c8f4c

何よりも、サムアルトマン本人がX.comで、日本時間の2023年11月18日に認めたことが事実である。ポストされた意味は『いろんな意味で奇妙な体験: a weird experience in many ways』という言葉に表されていることからも予想外であったことが汲み取れる。

『みんな愛してるよ。今日はいろんな意味で奇妙な体験だった。でも、ひとつ予想外だったのは、生きている間に自分の弔辞を読むようなものだったということだ。

ひとつの収穫:友人たちに、彼らがどれだけ素晴らしいかを伝えてきてほしい。』

今回の退任劇では、6人の取締役のうち2人(サム・アルトマンとグレッグ・ブロックマン)がその対象者だ。

また、Microsoft(累計110億ドル出資)は49%ものオープンAIの営利企業側の大株主でもある。サム・アルトマンとグレッグ・ブロックマンを失ったOpenAI社の被る損失は、取締役会が折込済みであったとはいえ、決して少なくはない。

取締役解任劇に関してはシバタナオキ氏のx.comにOpenAIの非営利と営利の組織の二面性について詳しく解説されている。

□OpenAIという組織は非常に特殊な構造になっています。まず、Non-profit(非営利)組織が親会社として存在します。今回の解任劇はここでの話です。

このNon-profitは、所謂株式会社ではないため、株主価値の最大化という概念は存在せず、取締役が全てを決めることができます。

このNon-profitの下に、For-profitの会社が存在し、マイクロソフトやVCはこの子会社の株主です。従って、彼ら子会社の株主が親会社(Non-profit)の人事に口出しできるはずがない、というのが建前です。

https://twitter.com/shibataism/status/1726105865655337292

OpenAIのアナウンス(英文)

https://openai.com/blog/openai-announces-leadership-transition

■2.Microsoft解任説

取締役が不利な条件下でも解任させられる権限があるとすると一番最初に疑惑を持たれるのが最大の投資家でもあるMicrosoft社だ。

OpenAI社のChatGPTを支援しながら、最新のウェブブラウジングには検索エンジン『Bing』に搭載させるということや、ブラウザの『Edge』で『GoogleChrome』の広告市場のシェア奪還や、Microsoft全製品にAIエンジン『CoPilot』を搭載し、開発からエンタープライズ、消費者に至るまでのAIによるフリーミアムを含めたサブスクリプション囲い込み戦略が目立ってきている。株価も歴代最高値だ。

https://finance.yahoo.co.jp/quote/MSFT?term=1w

そこに、OpenAI社が自社のサブスクリプション低下の起爆剤としての『GPTs』や『GPT Store』を登場させる方針に対して、カニバリを起こすと考えた場合。サムとグレッグの突然の解任ではなく、事前にサティア・ナデラCEOならば、両社にとって意味のある着地点のある提案を行っていたのではないだろうか?

実際にOpenAI DevDayには、MicrosoftのCEOサティア・ナデラも登場して、OpenaAIへの投資に対して絶賛しているほどだ。

出典:OpenAI DevDay MicrosoftのCEOサティア・ナデラも握手で登場
出典:OpenAI DevDay MicrosoftのCEOサティア・ナデラも握手で登場

ただ、気になるのは、東大のシンポジウムにも、OpenAIアジア代表で登壇し、OpenAIを2023年10月に退社し、現在、GoogleDeepmindに転職しているシェイン・グウ氏が意味深なツイートをしている。『某会社の傲慢さと愚かさが限界突破しました』某会社が、OpenAIを指しているのかMicrosoftを指しているのかはわからない。

■3.新AI会社設立説は濃厚

これは、後先になるかもしれないが、サムとグレッグが大人しく黙って引退するつもりはないだろう。AIへの投資はいまや最大にホットでバブルでもあるからだ。

ライバルAI企業の趨勢

OpenAIをスピンアウトしたダリオ・アモディ(Baidu→Google→OpenAI→anthropic)が創設した『Anthropic』は、Googleなどから4.5億ドル(Spark Capital )、Amazonから40億ドルを調達し『Claude』のサービスを手掛ける。

これらのことからも退任したサム・アルトマンの今後の行先にも、がぜん注目が集まることだろう。明確な引用先を明示する『Perplexity AI』もOpenAI社のスピンアウトが創業している(シリーズAで2,560万ドル調達)。

□オープンAIの最高経営責任者(CEO)を突如解任されたサム・アルトマン氏が、人工知能(AI)の新会社の立ち上げを計画していることが(2023年11月)18日、明らかになった。退職する技術者も出ており、内部崩壊を恐れ投資家からは解任決定を撤回するよう求めている。

□アルトマン氏とともにオープンAIを退社すると表明した元社長のグレッグ・ブロックマン氏も参加する見込み

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1905Z0Z11C23A1000000/

そして、取締役会がサム・アルトマンを恐れた理由のひとつに筆者は、サム・アルトマンの投資事業にもあると思う。

サム・アルトマンのAIを活用した『ベーシック・インカム』実証実験だ。

サム・アルトマンは、物理学者のアレックス・ブラニア氏が共同財団として、『ワールドコイン財団』を運営し、AIに運用させて、人間にはベーシックインカムとして暗号資産を付与するという計画を実施している。生体認証で人類を認証する機器『The Orb』を制作し、世界で認証センターを設置している。

世界的な金融システムにアクセスできない利用者に活用してもらうとともに、AIに雇用が奪われる未来に備えるとしているというが、イーロン・マスクの火星脱出計画にも似ているほど、途方もないアイデアだ。

しかし、すでに『ワールドコイン』は、運用をはじめ認証センターをおいているのでAIの運用次第で、ベーシックインカムを実現できるかもしれない。少なくとも火星へ人類が移住するよりは難易度は低い。

 また、サム・アルトマンは、でAIが必要とする電力を補おうとするために、次世代原発の『Okro』の会長も努めている。2026〜27年に次世代の小型原発を稼働させる計画。特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて上場し、オクロの企業価値は8億5000万ドル(約1200億円)となる。

さらに、サム・アルトマンは、長寿研究のスタートアップ『Retro Biosciencesレトロバイオサイエンス』や『HelionEnergyヘリオンエナジー』に2億ドル投資をしている

しかしだ。このようなAIアイデアを活用した事業を邁進する姿勢に、AIの未来の進化にセキュリティや安全性を求める他の取締役にとっては危険すぎるという判断がよぎってもおかしくはない。

かつてのOpenAIの創業メンバーだったテスラのイーロン・マスクも、コンサバティブな取締役会とはウマがあわなかったのかもしれない。

■4.ソフトバンクG主導説

そして、最後の仮説だが、AGI革命のシンギュラリティに挑み、AI企業のみに投資を続けてきた『ソフトバンクG』が唯一、投資しそこなった(?)のがOpenAI

だと筆者は考えている。

その後の、総帥である孫正義氏のサム・アルトマンへの熱烈なラブコールは、Microsoftと対峙するのではと思うほどだった。

ソフトバンクとの協議はまだ始まったばかりだが、一緒に何ができるかを検討しているところだ。彼とは長らくの友人だ

また、関連グループ社内で『ChatGPTプロンプト大会』を開催しているほど。また、月間2,500万円の賞金をかけて活用コンテンストを開催している。

元アップルのデザイン責任者のジョニー・アイブ氏やソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長と、AIを使った新しい端末を開発する会社を立ち上げる協議をしている。

まさに、AI版のiPhoneを作る計画だ。ここに、サム・アルトマンを加えると最高の布陣が形成できそうだ。

しかも、ソフトバンクG関連としては、ARMの上場やソフトバンクKKの社債型種類株式上場などでAI関連の軍資金を増強している。Microsoft並みの100億ドル規模で49%の条件で、サムアルトマンを招聘するという出資も孫正義氏の脳裏にはあってもまったく不思議ではない。

いずれにしても、有利な立場は、解任されたサム・アルトマン側であることに違いはない。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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