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【平昌オリンピック】アメリカが「パワー」から「スキル」へ大変革。ミラクル・オン・アイスの再現を狙う!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
オリンピックに3回出場し、アメリカ代表のコーチに名乗りを上げたマイク・モダノ(写真:ロイター/アフロ)

 開幕まで、あと半年となったピョンチャン(平昌)オリンピック

 バンクーバー、ソチに続いて、3大会連続金メダルを目指すカナダ(男子)代表は、先月末にコーチングスタッフを発表。

 それに続いて、今度はアメリカが、コーチングスタッフを発表しました。

▼指揮官は大学のヘッドコーチ

 チームを率いるヘッドコーチ(HC)に指名されたのは、トニー・グラナト(53歳)

 現役時代はニューヨーク レンジャーズを皮切りに、ロサンゼルス キングス、サンノゼ シャークスの3チームで、主力FWとして13季にわたって活躍。プロに転じる前年にはアメリカ代表に選ばれ、「カルガリー オリンピック」に出場した経歴の持ち主。

 7つ年下の妹キャミ―も、長年にわたってアメリカ女子代表のキャプテンとして活躍したFWで、「長野オリンピック」の金メダルメンバーです。

 引退後は指導者に転じ、コロラド アバランチのHCや、ピッツバーグ ペンギンズとデトロイト レッドウングスでアシスタントコーチを担ったのに加え、「ソチオリンピック」では、アメリカのアシスタントコーチを歴任。

 昨季からは、母校のウィスコンシン大学マディソン校のHC職を担っています。

 トリノ、バンクーバー、ソチと、アメリカは3大会続けてスタンレーカップを(HCとして)獲得し、オリンピックシーズンもNHLのHCを務めていた指揮官を、男子代表のHCに任命していましたが、これまでとは全く異なる視点から人選を進めた模様です。

▼ダラスの元スターがアメリカ代表入閣を打診

 一方、グラナトHCをサポートするアシスタントコーチには、4人が任命されました

 こちらもトリノ、バンクーバー、ソチと、NHLの現役HCを参謀役に数多く抜擢してきたのとは打って変わって、今季もNHLのチームでコーチ職に就いているのは、クリス・チェリオス(55歳・現デトロイト レッドウィングス アシスタントコーチ)ただ一人。

 そんなコーチングスタッフの顔ぶれを見て、頼りなく思ったのか(???)、ソルトレイクとトリノオリンピックに、アメリカ代表のFWとして出場し、ダラス スターズが初めて優勝した時の立役者 マイク・モダノ(47歳・FW=タイトル写真)は、

ツイッターを通じて、自らのアメリカ代表への入閣をリクエスト(?)していました。

▼NHLの現役HCを選ばなかった理由は?

 アメリカ代表のコーチングスタッフが、NHLの現役HCではなく、このような顔ぶれになったのは、今春にNHLのゲーリー・ベットマン コミッショナーが、 「ピョンチャン オリンピック」 の開催期間に合わせてレギュラーシーズンを中断する「オリンピックブレイク」をスケジュールに組み込まないことを発表したことに他なりません。

 これによって、

「NHLに加盟しているチームとの契約を結んでいる選手は、NHLが公認している試合や大会以外は出場できない」

との労使協定があるため、(契約解除などにならない限り)オリンピックに出場できなくなったからです。

 そのため、アメリカに先駆けてコーチングスタッフを発表したカナダは、昨日(現地時間)から始まったロシアでの国際大会のメンバーも、現役のNHL選手抜きで参戦しています。

▼アメリカの大変革

 先月21日に配信した当サイトの記事で紹介したとおり、ロシアのメディアは、「NHLはオリンピックブレイクを組み込んだ今季の日程も作成してある」と報じ、一転して「ピョンチャン オリンピックに、現役NHL選手が出場するかもしれない!」との期待も高まりました。

 しかし、アメリカ代表コーチの人選を見る限り、カナダと同じく、「ピョンチャン オリンピックは、現役NHL選手抜きで戦う」 との方向で強化を進めていく模様です。

 それを表すかのように、アメリカのGMに指名された ジム・ジョハンソン(53歳・アルベールビル オリンピック代表FW)は、「昨今のホッケーは、全ての状況に於いてスケーティングが重要になっている。我々は高いスキルを誇るチームを目指していく」との方針を明らかにしました。

 古くから世界のアイスホッケーを色分けすると、

★ 旧ソビエト時代から続くロシアを筆頭に、スキルに長けたヨーロッパ。

☆ 激しいボディチェックを武器に、フィジカルなプレーを身上とする北米。

という特色が定説となっていましたが、アメリカ代表はピョンチャン オリンピックへ向けて、「パワー」から「スキル」への大変革を断行する模様です。

 現役NHL選手抜きで戦うため、ヨーロッパの強豪国によるメダル争いが予想され、アメリカの前評判は総じて高くないようです。

 そんな前評判を覆し、大学生中心のアマチュアチームで、無敵と呼ばれていたソビエトを倒し金メダルを勝ち取った1980年の「レイクプラシッド オリンピック」に続く、ミラクル・オン・アイス・第2章を、演じることができるでしょうか? 

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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