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「まるで公開処刑」厳しい校則、違反して不登校になった男性 校則のあり方とは

石井志昂『不登校新聞』代表
(写真:アフロ)

 2021年2月16日、茶色い髪を黒く染めるようくり返し指導され、精神的苦痛を受けたとして、大阪府立高校の元女子生徒(21歳)が大阪府に慰謝料220万円などを求めた訴訟の判決が出されました。報道によれば大阪地裁は大阪府に33万円の賠償を命じていますが、「黒染めの強要はあったとは言えない」と頭髪指導の妥当性を認め、原告の訴えを一部退けています (参照:「黒染め指導」違法性なし)。

 原告の訴えが退けられたのは残念でなりません。多くの問題をはらんだ判決だったと思います。主な問題点は3点ありますので、それを本日はお伝えしたいと思います。

そもそも「黒染め強要訴訟」とは

 女子生徒が通っていた学校は髪の染色や脱色が校則で禁じられていました。女性は2015年の春に入学。事前に母親が「地毛が茶色いので」と学校に連絡をしていました。ところが学校は、「黒染めしないなら学校へ来る必要がない」と髪を黒く染めるよう再三、生徒に指導しました。女子生徒は、こうした指導などがきっかけで不登校になりました。大阪地裁は、校則は華美な頭髪を制限することで生徒に学習や運動に注力させ、「非行防止」につなげる目的だったとし、頭髪指導も妥当だと判断しました。

問題点1 子どもの意思を無視した判決

 裁判所が指摘した「非行防止」とは、つまり「子どものためを思っての判断だ」ということです。しかし、子どものためだと言いつつ、黒染めを強要するなど、子ども本人の意思や人権を無視しています。それではいくら子どものためだと言っても、子どもを傷つける行為です。

 私が取材したなかには、黒髪を強要される校則などが嫌で不登校になった男性(20歳)がいました。

 彼が通っていたのは兵庫県の公立中学校。校則を破った生徒は、全生徒の前で「校則をやぶってしまい、風紀を乱してしまってすみませんでした。明日から直してきます」と全校集会で謝罪し、その場で生徒指導の先生から怒鳴られるのが恒例だったそうです。彼の学校では、茶髪はもちろん、目や耳、襟に頭髪が1ミリでもかかると校則違反でした。校則違反者を見つけるのは「美化委員」と呼ばれる生徒たち。美化委員会は全校集会中にねり歩いて生徒を点検し、違反者を摘発するのだそうです。

 彼もまた全校生徒の前で立たされたこともありました。その際は彼らの前で先生から怒鳴られ、まわりからは笑われ「まるで公開処刑のようだった」と語っていました。彼はこうした学校対応に疑問を持ったことなどから不登校になっています。

 子どもに校則を守らせ、非行を未然に防止したいという願いは、子どもの未来を思ってのことだと思います。しかし、子ども自身の意思や尊厳を考慮しない「大人のよかれ」を押し付けるのは暴力です。全校生徒の前で謝罪させるような行為は教育でなく、見せしめです。こうした校則指導がまだまだあるなかで、今回の判決は子どもの意思を無視する校則指導を助長してしまうと危惧しています。

問題点2 いじめを誘発しかねない

 厳しい校則を求める保護者や教育関係者は多いです。「校則が厳しければ、いじめなどが起きず安心できる」「自由な校風だと荒れやすいので心配」という保護者の声も聞いてきました。しかし、「『ブラック校則をなくそう!』プロジェクト 」(以下・ブラック校則調査)が2018年 に、10代から50代までの男女2000人に実施した調査結果ではそんなイメージと反対の結果が出ました。つまり、校則や校則指導が厳しい学校のほうがいじめは起きやすかったのです。

 いまだに学校では信じられないような校則が多々あります。私が聞いたなかでは下記のような校則がありました。

「登校中の水分補給は夏でも冬でも禁止」(中2男子)

「女はお腹まで布がある下着しか駄目っていうの(?)が面倒」(中1女子)

「アイプチ禁止がつらい。一重がコンプレックスなのでほんとにいや」(中2女子)

「下校時刻が早いときには、4時まで家の外に出てはいけない」(中1女子)

 ある程度の規則は必要ですが、文科省も校則への行き過ぎた指導には警鐘を鳴らしています。さらに今回の判決が、行き過ぎた校則指導を助長し、いじめまで誘発してしまうのではと懸念しています。

問題点3 法律に対する誤解を助長

 教育研究者であり、法律にもくわしい山崎聡一郎さんは、多くの大人が校則から法律を連想するため「法律のイメージを誤解したままの人も多い」と話しています。山崎さんによれば、校則は教員が生徒管理するためのものです。生徒間でトラブルが起きると、すぐに「禁止ルール」がつくられます。具体的には、スマホ禁止、現金禁止、キャラ物の文具禁止などなどです。これらは管理を目的にしているからです。ところが、法律は無限にある自由を最大限に確保するために、やってはいけない最低限の制約を決めておくもの。「校則と法律は逆の発想から生まれている」と山崎さんは指摘します。

 校則指導がなければ「ルールを守れない子どもが育つ」という指摘もあります。しかし、現在の校則は社会で適用されている法律とはまったく別の発想から生まれたルールです。校則によって法律への誤解を生んでいる面もあり、今回の判決が行き過ぎた校則指導を呼び込み、法律に対する誤解を助長しないか危惧しています。

 問題点は以上です。まとめますと、判決は「子ども自身の意思を尊重していない」「いじめを誘発しかねない」「法律への誤解を助長しかねない」という3点が問題だと感じています。

提案・校則はもっとゆるくていいのでは

 最後に「校則のあり方」に関して提案をして終わりたいと思います。

 「学校の校則はもっとゆるくていい」と提案するのは教育学者・内田良さんです。内田さんがそう思ったきっかけは、新型コロナウイルス感染症でした。コロナ禍によって、ゆるい校則を運用した学校が多く見られたからです。

 最初にゆるくなったのは、マスクの色です。身に着ける物の色を指定する校則は多くあります。色が派手な場合は「華美なもの」であり、子どもの生活や学校の秩序が乱れることにつながっていくと懸念されています。コロナ禍以前は、マスクも白のみとする学校が多くありました。しかし昨年の2月ごろから全国各地でマスクの入手が困難になり、色柄を選んでいる場合ではありませんでした。

 そのためマスクの種類や色は多様化し、学校内でもさまざまな色柄を見ることができます。しかし、子どもの生活が乱れ、学校が荒れ放題になったという報道はありません。校則にはよい面があると認めつつも、内田さんは「あまりに細かい規制は学校生活を窮屈にしているのでは」と指摘しています。

 私自身も内田さんの意見に賛成です。私が中学2年生から育ったのは、不登校の子どもたちが通うフリースクールでした。フリースクールでは、子どもの自由・自治・個の尊重を重んじ、ルールは自分たちで決めます。定められた登校・下校時間も制服もありません。頭髪規制も下着の色の指定も、もちろんありません。しかし、荒れた場ではありませんでした。自分たちのルールを考えることは、とても大切な学びになったとも感じています。

 校則について議論をするならば、校則が緩くなったコロナ禍、そして校則がなくても機能しているフリースクールの実践などを議論していく必要があると考えています。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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