冬休み明けは受験シーズンでもあり子どもは無理をしがちです。受験を控えていなくても、新年を迎えて「今年はもっとがんばりたい」と思う子も多いでしょう。その一方で、がんばりすぎて「心まですり減らす子」も多くなっています。周囲からの期待などから、自分の限界を超えて過度にがんばってしまう状態を「過剰適応」と言います。2020年には小中高生の自殺が499人、不登校は19万6127人と、どちらも過去最多となりました。その背景として「過剰適応になっている子たち」の存在を指摘する専門家もいます。

 努力自体はよいことなのですが、休息が必要になっても心を奮い立たせるのは危険なことです。自殺にまでつながってしまう可能性もあるからです。この時期、まわりの大人は何に気をつけるべきなのか。大人の「よかれ」で子どもを追い詰めないためにどうすべきかを事例から考えていきます。

◎合唱コンクールがきっかけに

 過剰適応とは具体的にどんな状態なのか。過剰適応から不登校になったケースを紹介します。

 ある女子生徒は、中学校の合唱コンクールでピアノ伴奏を引き受けたことをきっかけに不登校が始まりました。「練習時間が持てない」と最初は断りましたが、ほかに候補者がおらず、引き受けざるをえませんでした。はじめての練習では伴奏が止まってしまい、同級生たちからは「ダメじゃん」と笑い声が飛んだそうです。

ピアノ(イメージ写真/写真AC)
ピアノ(イメージ写真/写真AC)

 この日を境に女子生徒は登校直前に頭痛や腹痛を感じるようになりました。学校を休む日が増えましたが、ピアノ伴奏に重圧を感じていることを親に相談したのは合唱コンクールの直前でした。母親は話を聞いて「大丈夫」「がんばろう」と励ましたそうです。苦しくても乗り越えたら「娘の自信につながる」と思ったからです。

 「登校直前に頭痛や腹痛が起きる」のは不登校の前兆で、「体から発せられるSOS」とも言われています。しかし、多くの親や教員は、SOSに気がつかず、よけいにがんばらせてしまいます。本人も期待に応えたいため、自分の限界を超えてがんばります。女子生徒の場合も過剰適応により苦しむことになりました。

◎動けなくなった女子生徒

 合唱コンクール当日、女子生徒は大きなミスもなく無事に弾き終え、明るい笑顔も見せていました。ところが翌朝から女子生徒は登校時間に起きられません。母親は「疲れたのだろう」とその日は休ませましたが、次の日も動けない。母親が布団から無理やり出して、服や靴を着替えさせ、車に押し込みなんとか学校へ届ける。しかし昼ごろには学校から「娘さんが体調不良なので迎えに来てほしい」と連絡がある。そんな生活を続けること半年、ある朝、女子生徒は突然泣き叫び、自分の部屋に駆け込んで家具でドアの前にバリケードを築いたのです。その日以来、家の外に出ることも困難になりました。

 以上が、女子生徒の母親から聞いた話です。女子生徒に笑顔が戻り、犬の散歩や花への水やりなどかんたんな外出が可能になるのは2年後だったそうです。この2年間も女子生徒はひきこもって自己否定感と戦いました。母親も娘を追い詰めてしまったことに気がつき、講演会や親の会に出向いて一から対応を学びなおしました。親子で回復に専念してようやく外出までたどり着いたのです。過剰適応がいかに苦しいかをよく表しているのではないでしょうか。

◎いじめを受けた子の過剰適応

 いじめを受けたことで深刻な過剰適応になる子もいます。

上履き(イメージ写真/写真AC)
上履き(イメージ写真/写真AC)

 ある女性は中学生のころ、いじめを受けていました。悪口を言われる、仲間外れなどもありましたが、本人が一番傷ついたのは、自分の靴に残飯や嫌がらせのメモを入れられること。その状態に担任が気づき、親に伝えたところ、親は彼女にこう言ったそうです。

「そんなのに負けてどうする」

 彼女の過剰適応がここから始まります。彼女は3年間、いじめのやまない学校に通い続けました。みんなの前で悪口を受け、靴には毎日のように残飯が入るようになりました。こうした日常のなかで彼女は「なんのために生きているんだろう」と思ったそうです。しだいにリストカットやオーバードーズなどの自傷行為をくり返し、「明日の朝は死んでいたらいいのに」と思いながら寝るようになっていきました。

 彼女がこのように追い詰められてしまったのも、自然なことだと思うのです。屈辱や攻撃を受けても、避難を許されなければ、誰だって生きる意味を見失ってしまいます。

 また、いじめを受けた子の過剰適応は学校を卒業してからも続くことが多いです。長期にわたっていじめを受けると深刻な人間不信になります。その人間不信は進学先や職場でも影響することがあります。「本当の自分でいては嫌われる」と思い、人間関係に神経質になってしまい、疲れはてて、ひきこもる人もいました。

 もちろん誰しもが一度は人間関係に傷つけられるものですが、肝心なのは「早めに離れる」ことです。屈辱を受けて、傷つけられる場には行く必要がありません。その場でどんなに大事なことが学べても、自分が壊れてしまうからです。さきほど挙げたいじめによって過剰適応になった人も、結局は、いじめを受けた場や人から離れることで回復に向かっていきました。

◎周囲はどうすればよいのか

 苦しくつらいことがあっても「休みたい」という言葉を子どもはなかなか言いません。45年以上、不登校の相談を受けてきた心理カウンセラー・内田良子さんは「よい子を求められ、よい子として育てられてきたからだ」とその理由を語ります。親や教員の意図をくみ取り、忠実に意見を聞くこと。それが進学や就職などでプラスになることであり、学校で成功しなければ見捨てられる。こうした恐怖心を無意識に抱えているのが、いまの子どもたちです。

心理カウンセラー・内田良子さん(取材者提供)
心理カウンセラー・内田良子さん(取材者提供)

 もしも「休みたい」と子どもが言ったのなら、無理をせずに休ませてほしいと多くの専門家は言います。また「休みたい」という言葉が出なくても身体症状が出てきた場合は、子どもが心から休める環境を整えることも必要です。身体症状とは、腹痛や頭痛、学校がある日の朝は起きられないなどです。「心から休める環境」とは、ひとまず、カゼを引いたときと同じ対応だと考えて大丈夫です。多いパターンとしては、学校や塾などは、とりあえずお休み。宿題は親から連絡して取り下げてもらう。気持ちが晴れるようゲームや動画が楽しめたり、お昼ごろまで寝ていたりすることも許す。思いっきり羽を伸ばさないと心は休まりません。

◎休みが長引く場合は

 ほとんどの子は少し休めば日常へ戻っていきます。しかし休みが長引いても学校へ戻れない場合は、本格的なケアが必要です。親や教員は「早期の学校復帰」を目標にするのはおやめください。不登校の解決で目標にするのは、学校で傷ついた心を回復していくことです。内田さんは、子どもが不登校になった場合、大人ができることは「3つある」と言います。

1.子どもの休む権利を保障する

2.子ども本人の味方になる

3.不登校でも大丈夫だよと伝える

 子どもの休む権利を保障すること。周囲がどう言おうとも親や教員は子ども本人の味方になってあげること。「いまは安心して休んでも大丈夫だよ」と伝えることが重要です。子どもに「大丈夫だよ」と大人が言えない場合は、近くのフリースクールや不登校にくわしい医師やカウンセラーにご相談ください。専門家の意見を聞いて不登校への理解を深めれば自然と「大丈夫だよ」と言えるようになります。まちがっても学校で傷ついた子どもに、大人の不安な気持ちをぶつけないようにしてください。

 今お伝えした3つの対応は不登校対応の原則です。ただし「休む権利を保障する」「味方になる」「大丈夫だよと伝える」という3つは、不登校にかぎらず、苦しむ子どもを支える原則にもなると私は思っています。受験シーズンは子どもが無理をしやすい時期です。受験を機に不登校になった例もあります。私もそうですし、芸人の山田ルイ53世さんもそうでした。また、年明けは「新しい目標」を立てる時期です。目標を立てること自体は悪いことではありませんが、過剰適応になっては心身がもちません。

◎学校を休んでも大人になれる

 現在、学校が苦しかったり、どうしても朝、起きられなかったりすることで悩む人がいれば、一つ信じてもらいたいことがあります。学校は休んでも大丈夫です。私は中学2年生から不登校をしていました。以来、ずっと学校へは行っていません。私の友人には幼稚園から不登園をしていた人もいれば、大学生から不登校になった人もいます。学校を休んでも不登校でも大丈夫です。皆、それぞれのルートで大人になっています。

◎電話相談/「#いのちSOS」 0120-061-338

◎電話相談/チャイルドライン 0120-99-7777

◎SNS相談/生きづらびっと https://yorisoi-chat.jp

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画です】