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子どもにも「雑談」が必要 親子の会話で「武勇伝」を語っていませんか?

石井志昂『不登校新聞』代表
親子の雑談 イメージ画像(写真:アフロ)

 多くの学校で冬休みが始まります。冬休みは子どもも大人も少し余裕ができますので「親子の雑談」を意識してみるのはいかがでしょうか。子どもにとって親との雑談時間は、かけがえのないものです。「どんな習い事よりも雑談は子どもの成長の助けになる」と指摘する専門家もいます。一方で雑談ができずに苦しんでいる子どもも少なくありません。親子の会話は「手は洗ったの?」「うがいはしたの?」「宿題はすんだの?」という会話になりがちです。しかし、これは会話ではなく「注意」です。注意ばかりの会話では親子の関係も自然とギスギスしてしまいます。もちろんコロナ禍の影響もあったと思います。しかし「雑談が大事」だとわかれば、積極的にその時間をとってみたいと思う人も多いはずです。そこで今日はなぜそんなにも「雑談」が大事なのか、専門家の指摘や保護者の声をもとに解説したいと思います。

「雑談」を求める電話が年5000件

 昨年度、子どもの電話相談「チャイルドライン」には、約5000件も「雑談」を求める電話がかかってきました。相談内容の主訴としては上位にランクインしています。子どもたちは、いったいどんな雑談を求めているのでしょうか。ひろしまチャイルドライン理事長の上野和子さんにお話をうかがいました。

ひろしまチャイルドラインのPRカード(ひろしまチャイルドライン提供)
ひろしまチャイルドラインのPRカード(ひろしまチャイルドライン提供)

 「私が受けてきて多かったのは『一方的に話す会話』でした。小学生ぐらいだと、とくにその傾向は強いですね。朝は何時に起きて、学校ではどんな授業があって、今、家に帰ってきたところなんだと言って電話を切る。1日の出来事を一気に話す感じです。ほとんどの会話は数分間、長くても5分ぐらいでしょうか。年齢が上がると、もうすこし時間がかかりますが、それでもさほど時間はかかりません。ただ、私たちは雑談が多いことに、そんなに驚いてもいないんです。なぜなら人は誰でも自分の話を聞いてほしいものだからです。聞いてもらうことで気持ちが整理できたり、落ち着いたりします。雑談を求める子たちも、本当は親などに話を聞いてもらいたいはずなんです。ただ一日の出来事なんて話していたら『そんな話は、今忙しいから後にして!』と親に言われてしまうんでしょうね。親の忙しさもよくわかります。子どもはそういう親の顔色もよく見ているんです。子どもが話しかけてきたときにこそ、話を聞いてあげてほしいと思いますね」(上野和子)

 「人は誰でも自分の話を聞いてほしい」という指摘は調査結果としても表れていました。チャイルドラインの調査(※1)によれば、電話相談をした動機として「答えがほしい」と思っていた子どもは全体の1割程度。一方で答えよりも「話を聞いてほしい」と思っていた子が8割を占めていました(※2)。相談というとアドバイスを求めていると思いがちですが、じつは話を聞いてほしい人が圧倒的に多いのです。

話すことで経験が根付いていく

 なぜ人は自分の話を聞いてほしいのでしょうか。雑談をすると子どもは何を得るのでしょうか。臨床心理士・掛井一徳さんに心理学の観点から話をうかがいました。

臨床心理士・掛井一徳さん(本人提供)
臨床心理士・掛井一徳さん(本人提供)

 「雑談や対話の時間はどんな子どもにとっても必要です。人は自分の身に起きたことを誰かと共有することで初めて『体験』が記憶に根づいていくからです。今日一日、起きたことを親や友人に話す。話すなかで事実や気持ちが整理され、よいことも悪いことも『心の栄養』に変わっていく。大人も子どもも誰かと経験を共有することで次のステップへと進んでいくのです。ところが誰にも自分の経験を共有できなければ、頭のなかはいつもごちゃごちゃ。人によっては不安すら感じる人もいるでしょう」(掛井一徳)

 雑談の役割は「経験を根付かせる」ためでした。塾や習い事などの「インプット」も大事ですが、会話によって「アウトプット」することで根付かせることも必要なんだそうです。

楽しい雑談を生むポイント

 親子の雑談が多ければ、子どもにとっては「心のセーフティネット」にもなります。ふだんから雑談を言える人には相談もしやすいからです。残念ながら、いじめなどは大人が完全に防ぐことはできません。子どもの世界で起きることだからです。しかし、いじめを受けても相談がしやすい子は、大人が早めに対処し救出することができます。

 このように雑談は大事な役割を持っていますが、楽しい雑談をするには4つのポイントもあります。ポイントごとに解説していきますが、すべて守るべきというものでもありません。通して読んで感触をつかんでもらえれば幸いです。

■ポイント1「将来の話に繋げない」

 ゲームや漫画について子どもが楽しそうに話していると、つい大人は「それだけ好きならゲームの仕事に就けるかもね」などと、将来の話を持ち出してしまいます。あるいは「それぐらい楽しそうに勉強も学べたらきっと成績も上がるよ」などとも。奮起を期待してのセリフかもしれませんが、嫌な気持ちになる子も多いです。子どもは今、楽しいことや感動したことを誰かに共有したいのです。将来のことを持ち出されたら気持ちに冷水をかけられるのと同じ。気持ちの整理もできません。

■ポイント2「武勇伝を語らない」

 子どもが不安や挫折を覚えて気持ちを吐露する際、「自分の場合は」と大人が解決したエピソードを語ることも多いです。大人からすれば具体策を示したつもりかもしれませんが、「武勇伝を自慢されただけ」と受け取る子も多いです。もちろん「お母さんはどうしていたの?」などとハッキリ聞かれた場合は答えても大丈夫です。しかし聞かれてもいないのに解決策を提示され、「私は乗り越えた」と言われても、悩んでいる人にとってはつらいものです。子どもが落ち込んだ時ほど「聞く」に徹してみてください。きっと子どもは、自分から解決策を言い始めます。

■ポイント3「子どもに横づけする」

 臨床心理士・掛井さんがおすすめしたのは「横づけ」です。まずは子どもが笑顔でいる時間を思い出します。子どもが笑顔のときは何をしているのか。もし動画を見ているときならば、動画を見ているときに大人が横に座っていっしょに動画を見てみる。動画の共有は『ずっと』でなくても可能なかぎりでOK。動画を見ていっしょに笑うだけ。子どもは自分が好きなものに「関心を持ってくれた」と思うものです。これも自然と会話が生まれる方法の1つです。

■ポイント4「聞くふりでもよい」

 毎日、いろんな話をしてくる子に、どう対応するのかは課題です。向き合う時間もないし、邪険にすれば子どもは寂しいと思う。あるお母さんは「聞くふり」に徹したそうです。「私は女優だ」と自分に言い聞かせて、深くうなずいているようなふりをしていた。もちろん本当は心を砕いたほうがいいのですが、こういう「できる範囲の努力」も大事なポイントだと思います。

 以上が楽しい雑談を生むポイントでした。やってみると「子どもの笑顔がぐっと増えた」という声も聞きました。コロナ禍で不登校も増えています。きっと不安な子も多いのだと思いますので、この冬は少しだけ、雑談の時間を意識してみるのはいかがでしょうか。(了)

※1・2021チャイルドライン年次報告

※2・受け手が会話の内容で分類

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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