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夏休み明けは不登校増 子どもを休ませるべきかの判断基準と親がすべき3つのこと

石井志昂『不登校新聞』代表
学校休んだほうがいいよチェックリスト専用ホームページ

子どものSOSを見分けるチェックリスト開発

 夏休み明け前後は不登校が急増する時期です。子どもから学校へ行きたくないと突然に言われたとき、休ませるべきか否か、その判断基準がほしいと思う親は多いはずです。「苦しいのならば仕方がないが、わがままで休みたいのなら受けいれられない」という相談を私も受けてきました。そこで私たち不登校に関わる3団体(キズキ共育塾、フリースクール「ブランチ」、全国不登校新聞社)は、子どものSOSを見分ける「学校休んだほういいよチェックリスト」を共同で開発しました。監修は松本俊彦精神科医にお願いし、発起人の一人として私も作成に関わってきました。子どもに「適切な休み」を示唆することで学校がつらい子を減らしたいというのが私たちの願いです。

 今日は、(1)新しく開発したチェックリストについて、(2)休みが必要だとわかったら親がすべき3つのこと、(3)学校が苦しい本人に伝えたいこと、以上の3点をお伝えしたいと思います

夏休み明けのSOS 休む基準提示

 「学校休んだほうがいいよチェックリスト」は保護者を対象にしたチェックリストです。専用のホームページから、LINEで友だち登録をすると、20項目の質問が出され、「はい」「いいえ」が選べるようになっています。これらの質問は「不登校の予兆」としてよく見聞きする例で、具体的には「登校時間が近づくと頭痛や腹痛などを訴える」「夜中に何度も目が覚めたりする」「朝食や身支度などに時間がかかりすぎて遅刻する」などです。回答内容によって「休みましょう」「対話の機会を作りましょう」「問題ないです」などの結果が得られますが、回答数の多さでは結果は決まらない仕組みとなっています。一点、注意いただきたいのですが、回答結果は診断ではありませんので、参考意見のひとつとして受け止めてください。

「学校休んだほうがいいよチェックリスト」の実際の画面
「学校休んだほうがいいよチェックリスト」の実際の画面

 チェックリストは8月23日に公開され、6日間の利用者は1万6000人を超え、29本の取材依頼がありました(8/28時点)。クラウドファンディングなどで資金を集めるなどボランティアで運営している私たちとしても想定以上の反響に驚いています。

回答者の88%が「参考になった」(284件中250件)と答えており、下記のよう声が集まりました

子どもを休ませたことで不登校になってしまったと親として後悔していました。休ませたほうがよいとの回答が出て少し気が楽になりました(14歳の不登校の子の親)

背中を押してあげたほうがいいのか、休ませたほうがいいのか迷うことが多いので、とてもありがたいリスト(8歳の不登校の子の親)

問題は不登校ではなく過剰適応

 なぜ、こうしたチェックリストが必要なのかといえば、不登校よりも深刻なのは「過剰適応」だと考えているからです。監修者・松本俊彦精神科医は、チェックリストの必要性を以下のように語っています。

 「10代~20代の自殺者を調査(※)したところ、多くの人に不登校歴が認められました。しかし、それ以上に驚いたのは、自殺者のうち75%の人がわりと速やかに学校復帰をしていたことです。もしかしたら、彼らは学校を休んだほうがいい状態、つまり苦しさが解決されない状態で学校へと戻り、深刻な心の傷を負ったのかもしれません。学校に無理して適応しようとすること、これらを過剰適応と言いますが、過剰適応は放っておけば自殺やうつといったリスクにも発展するものです。過剰適応になる前に休むほうがはるかにリスクは低いこと、それが周知されたらと思っています」(※2010年調査)

休ませた「その先」が心配で

 チェックリストなどで「子どもの休みが必要だ」と思っても、不登校のその先が心配で休ませられない親も多いかと思います。なんの策もなく子どもを休ませることはたしかに心配です。しかし、子どもの心の傷は待ったなしです。子どもを休ませつつも「休みが必要だとわかったら親がすべき3つのこと」がありますので、ぜひ、ご参考になさってください。

休みが必要だとわかったら親がすべき3つのこと

①焦らないこと

焦りや不安はイライラのもとに(イベ―ジ画像)
焦りや不安はイライラのもとに(イベ―ジ画像)

 不登校や行きしぶりに至った子は休息が必要です。その時間は数日や1週間ではありません。もっと長い時間が必要です。大人としては、学力、社会性、協調性の成長が遅れてしまうと焦りますが、心の傷が深い状態では、スキルを学ぶことが容易ではありません。焦りから学校復帰や勉強を迫るより、きちんと回復をすることがなによりも必要です。また、不登校になった子のほとんどが、自分の心境や不登校要因を親に語りません。自分自身でも気持ちの整理がついてなかったり、親を心配させたくないという思いがあったりするからです。要因がわからないことで、よけいに焦りを駆り立てますが、それでも焦りは禁物なのです。

②相談先を見つける

 子どもが不登校になった際、不安や焦りを感じない親はいません。しかし、その思いは子どもにぶつけるのではなく、相談機関で吐き出して整理するのが得策です。相談先として注意したいのは、学校や担任教員が不登校にくわしいとはかぎらないことです。下記のような学校外の相談機関を頼ったほうが有効なアドバイスをもらえる傾向があります。

◎不登校の主な相談先

  • 子ども向けのメンタルクリニック
  • 自治体の教育相談センター
  • 不登校の親の会

 このほか児童相談所なども相談先となっていますが、まずは「親だけ」で相談してください。改善したいのは「子どもの状況」なのですから、子どもを連れていきたいところですが動けない子も多いです。また、親がケアされることも大事であり、親が安心できるような相手や情報を手に入れてください。

「親コミュ」では定期的に親の集まりをオンライン上で開催
「親コミュ」では定期的に親の集まりをオンライン上で開催

 不登校新聞では、オンラインで不登校の親専用コミュニティ『親コミュ』という親の会をやっています。全国から350人の方が登録しており、日常的に、チャットやZoom面談で悩み相談や意見交換をしています。私もコミュニティにいますし、自由に話しかけていただくことができます。もしよければ、もうひとつの選択肢として覚えておいてください。

③受けいれ先を調べておく

フリースクール「ネモ」(千葉県)の日常のようす
フリースクール「ネモ」(千葉県)の日常のようす

 不登校の「受けいれ先」は少ないです。しかし「ない」というわけではありません。子どもがこの先も学校へ行かなかったらどこに行くのか。最終的には本人の意思が重要なのですが、親として「知っておく」と心の余裕が違います。不登校の受けいれ先としては下記の機関・団体が一般的です。

◎不登校の子の主な受けいれ先

  • フリースクール
  • 個別対応の塾
  • 教育支援センター
  • 通信制高校など

 年齢が高校年齢以上ならば、不登校の子を受けいれる通信制高校や定時制高校などが数多く見つかるでしょう。ポイントは小学生と中学生です。フリースクールはよく知られていますが、オンラインで学べる「ブランチ」「ルームK」なども知っておくと「身近にない」という悩みは解消されるでしょう。また個別対応をしている塾(キズキ共育塾など)も見落としがちですが、不登校の受けいれ先としては有名です。こうした場は不登校の子の心理をよく理解しているスタッフが多く、親子の安心を得られやすいです。教育支援センターも公的な学校外の場なので活用できますが、どこにあるのか学校も知らなかったりします。自治体の運営する教育相談センターなどに問い合わせてください。このほか「どこにも行きたくない」と子どもが希望すれば、家で育つ「ホームスクール」という選択肢もあります。

今夏、私たち『不登校新聞』とTikTokは「不登校生動画選手権」というイベントを開催しました。不登校の10代に限った動画選手権で、不登校当事者から当事者メッセージを送ることを大会趣旨としています。最優秀作品賞を撮った子たちは、新潟県長岡市のフリースクール「あうるの森」の子たちでした。動画を中心的に作成したひなたさん(13 歳)は「学校の外にも居場所があることを知ってほしい」という思いなどから、下記のような作品を作っていました(動画リンクはこちら「TikTok」へ)。

フリースクール「あうるの森」の子らが制作した動画(TikTokより/※13歳未満はTiktokは使用できません)
フリースクール「あうるの森」の子らが制作した動画(TikTokより/※13歳未満はTiktokは使用できません)

 この作品は不登校の子たちが作った作品です。学校外でも多くのことを学ぶことができます。親や周囲の大人が学校にこだわらず、子どもに選択肢を提示できることが大事だと思っています。

いま、学校に行きたくない君へ

 最後に、いま学校へ行きたくないと思って悩んでいる人向けに、お伝えしたいことがあります。

 私は中学2年生のとき、不登校になりました。不登校当時は「人生が終わった」と絶望し、この先に明るい未来はないと固く信じていました。25年後の今、たくさんの不登校当事者、経験者を取材してきました。たくさんの人と事例を見るなかで、ひとつの結論に至りました。不登校をした後、多くの人は「ふつうのおじさんやおばさんになる」というのが結論です。

左・不登校当時の筆者・石井(16歳)、右・本厄を迎えておじさんになった現在の石井(41歳)
左・不登校当時の筆者・石井(16歳)、右・本厄を迎えておじさんになった現在の石井(41歳)

 私が不登校当時は「大人になれない」と思っていましたが、苦労しながらも仕事もしています。人にめぐり合えて、結婚をしてもらえる相手も見つかりました。ただ、結婚相手とはお皿の洗い方などの非常にささいなことで定期的に言い合ったり、仲直りをしたりをくり返しています。私が出会った大勢の人たちも同じような人生をたどっていました。みんな一生懸命にがんばって、捨てたもんじゃない人生を生きています。学校へ行っている人も、それはおおむね同じでした。だからどうか、不登校をしても人生が終わらないことを信じてもらい、今日を生き延びていってもらえたら幸いです。

◎電話相談/「#いのちSOS」 0120-061-338

◎電話相談/チャイルドライン 0120-99-7777

◎SNS相談/生きづらびっと https://yorisoi-chat.jp

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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