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子どもの「ゲームの時間」、親はルールをどう決めればよい?

石井志昂『不登校新聞』代表
児童精神科医・関正樹さん(撮影・不登校新聞)

 多くの学校では冬休みに入りました。子どもにとっては休みがうれしいのはもちろんのこと、この時期はクリスマスプレゼントやお年玉など楽しみが多い時期です。そして多くの子どもたちがプレゼントやお年玉で欲しがるものといえば「ゲーム」です。ところが親にとってはそれが心配のタネ。冬休み期間中にゲームの時間が増えてしまうのではないか。新型コロナウイルスの影響で家にいる時間も長くなることも予想され、その不安は大きくなっています。

 なかでも具体的な悩みどころがゲームの時間などを決める「ルールづくり」です。1日のうちでゲーム解禁の時間は何分ぐらいが適切なのか。どういう条件下でゲームを禁止するべきなのか。これらをルールとして決めて、子どもにどう守ってもらうのか。長年の悩みだった親も多いはずです。そこで今回は児童精神科医など専門家の話をもとに「おすすめのルールづくりの方法」「大人がやってはいけない3つのNG」「注意が必要なほどハマりすぎる場合」「親としてのゲームの捉え方」を紹介したいと思います。

〇ルールづくりのおすすめ方法

児童精神科医・関正樹さん(撮影・不登校新聞)
児童精神科医・関正樹さん(撮影・不登校新聞)

 1日のうちにどれくらいの時間なら子どもにゲームを許してよいのか。児童精神科医・関正樹さんは、各家庭でゲームに関する約束事を親子間で決めておくことが大切だとしたうえで、「ゲームのルールづくりは子ども主体で考えることが望ましい」と説いています。なぜ子ども主体で考える必要があるのか。幼い子どもの場合は親が決めることも多いのですが、8歳ごろから訪れる思春期の子どもに対しては、親が一方的に決めた約束事を守らせようとしても、ほとんどうまくいかないからです。

 子ども主体でのルールづくりは、まず「これなら守れそうだ」という約束事を子ども自身が考えることから始めます。親はそれを追認し、「こうしてみたら?」とアドバイスする程度の関わりにとどめます。子どもが約束を守れたらきちんと評価する。こうしたプロセスを経て約束事を取り決めていくことが望ましいのです。つまり、親が守らせたいことを約束事にするのではなく、子ども発で考え、それが実現可能かどうかをいっしょに考えるアドバイザーに親はなってほしいです。

〇大人がやってはいけない3つのNG

 関正樹さんは親がゲームに熱中する子どもに対してやってはいけないNGがあると言います。それが以下の3つの行為です。

(1)「ゲームの約束事を大人主体で決める」

(2)「学習成績とゲームを結びつけて語る」

(3)「ゲーム機本体やコントローラーを隠す」

 すでにこれらを実施している家庭もあるかもしれませんが、今後、気をつけるためにもその理由も付記します。まずは親が主体となってゲームの約束事を決めても、約束は大切にされず、子どもの主体性も育ちません。

 また、「ゲームをやめないと成績が下がるわよ」などと学習成績とゲームを結びつけて語っても、たいていの子どもは勉強ぎらいになるだけで、親が望むかたちにはならないことが多いです。さらに言えば、ゲームをやめさせたからといっても、その子が代わりに勉強をするとはかぎらないのです。

 そして最後の「ゲーム機本体やコントローラーを隠す」。これらの感情的な行動に対しては、子どもも感情的になってしまうので、たいていはうまくいきません。むしろ親の目を盗んで約束が破られがちになってしまいます。

 以上が関さんが提唱したNGのおおまかな理由です。子どもとは言え主体性を無視されれば反発が大きくなり、親子の溝が深まってしまうのです。

〇注意が必要なほどハマりすぎる場合

心理カウンセラー・内田良子さん(撮影・不登校新聞)
心理カウンセラー・内田良子さん(撮影・不登校新聞)

 私が子どもに取材してきたなかで、ゲームに熱中した理由は2つに大別できました。

 ひとつは「本当におもしろいから」という場合、もうひとつは「つらさをやりすごすため」という場合です。おもしろくてやっている場合は、ある程度の時間があれば、徐々にゲームから「卒業」していきます。後者の「つらさをやりすごすため」という場合には注意が必要です。

 というのも私がよく取材してきたのは不登校の子どもたちです。いじめや先生との関係で深く傷つき、不登校になった子は家にいても、つねに学校のことを考えてしまいます。考えれば考えるほど苦しくなるのでゲームに没頭します。そのあいだだけ、煩わしさから離れられるからです。心理カウンセラー・内田良子さんは「ゲームは命を守る浮き輪」と表現しました。不安の海のなかで必死に漂っているときに、唯一支えてくれるのがゲームだという意味です。周囲から見れば「ゲームにハマりすぎ」だと感じるでしょうけど、頭ごなしにゲームを取り上げてはなりません。

 このようにハマりすぎている場合は「親には言えないつらいこと」があるかもしれないのです。ゲームのしすぎを心配するよりも、その背景を注視する必要があります。

〇親としてのゲームの捉え方

臨床心理士・緒方広海さん(撮影・不登校新聞)
臨床心理士・緒方広海さん(撮影・不登校新聞)

 ゲームが子どもに与える影響を親や教員などは、どう捉えればいいいのでしょうか。臨床心理士であり、発達障がいなどさまざまな子どもを支えてきた緒方広海さんは「ゲームだからといって子どもの興味を否定するのはもったいない」と言います。

 親や周囲の大人が工夫することで、ゲームからでもたくさんの学びが得られます。ゲーム内のチームプレイからコミュニケーション術を、課金の仕方次第ではお金の使い方なども学べます。また、ゲームに関連したイベントに誘うなど、興味関心を広げることもできます。

 私が取材した例としては、中学3年生の女の子がゲームをきっかけにして、幕末と刀剣にハマり、親から誘われて博物館へ行っていました。彼女は不登校で、ほとんど外出はしませんが、その日だけは楽しく外出ができたそうです。

 ゲームだからといって子どもの興味を否定してしまうと、学びの機会を失うことになります。さらに緒方さんは「子どもが興味を持っていることを『大人が教わるという姿勢』で関わると、子どもは人に教える段階に進むので学びが深くなります。それはゲームでも同様です」とも語っていました。いずれにしても、子どもの側に立って周囲は考える必要があるようでうす。

〇言いなりではなく主体性の尊重を

 最後に私見を述べます。冬休みに手に入ったゲームは、子どもにとって待ちに待ったゲームです。親としては心配だとは思いますが「子ども主体」でのルールづくりをお願いしたいと思います。

 ただし、子ども主体というのは「子どもの言いなりになる」ことではありません。年齢制限があるゲームも幼少期に認めてほしいとか、家計を圧迫するまでの商品やゲーム内課金を子どもが言うままに買ってほしい、ということではありません。守るべきところは子どもに求めても大丈夫です。親は子どもの言いなりになる必要はないのです。

 同様に親も、子どもを自分の言いなりにしてもいけません。違いがあるとすれば、子どもは親よりも弱い立場にいますから、親のほうが言い方に気をつける必要があります。一緒に生活していると難しいですが、言いっぱなしではなく「対話」になるよう心がけてください。思い切ってルールづくりを子ども本人に任せてみると、子どもは驚くほど真剣に考えてくれるはずです。その過程とゲームから子どもは多くのことを学んでくれると思っています。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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