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コロナ余波の休校にも動揺しない家庭の過ごし方

石井志昂『不登校新聞』代表
教室(イメージ)(写真:アフロ)

 新型コロナウィルスの感染予防に向けて、全国の小中高・特別支援学校への臨時休校の要請が出されました。その影響で多くの家庭が混乱しています。

 貧困世帯の場合、学校給食やフリースクールでの昼飯が支えになっている子どももいます。代替案もなく、いきなりの休校要請は強引すぎると批判せざるを得ません。

 また、本質的に考えておくべきことは「学校依存の教育体質」です。学校に通わなければ、子どもは行く場を失い、親も働きに行けない。この状況が当たり前だとされてきましたが、本当は脆弱な体制だったのではないでしょうか。

 不登校を取材してきた私としては、代替案として、学校へ通わず家で育つ「ホームエデュケーション」や訪問型支援のフリースクールが支援・整備されていくべきだったと考えています。つまり、「学校に通う」だけではない教育のかたちは再考されるべきだったのです。

 というのも、「ホームエデュケーション」の家庭に話を聞くと、現時点で「ふだんと変わらない」「いつもどおり」と答えるなど、混乱や動揺が見られない家庭もありました。

 そもそも、学校へ行ってない不登校の子にとって臨時休校は関係ないからです。

 共働きの家庭でも、子どもに留守番を頼む、祖父母に来てもらうなど、「学校に頼らない育ち方」を実践してきたからです。

ホームデュケーション家庭では

 小学3年生の息子と、幼稚園生の娘がいる母親(42歳)も、その一人です。息子は小学校1年生から不登校。発達の特性もあり、小学校は入学後1カ月ほどで不登校。

 不登校後、子どもを預けられる場がなかなか見当たらず、「居場所探し」に苦労されてきました。

 しかし、預けるフリースクールが見つかるまでは、親子で博物館に出かけたり、家で本を読んだり、自分たちで学ぶやり方に切り替えました。そうすると、息子自身もイキイキとし始め、学校では失われていた「学ぶ意欲」も芽生えてきたそうです。

留守番はどうするのか

 一方、母親の頭を悩ませたのは「留守番」でした。

 小さい子を家に一人、置いておくわけにはいきません。とはいえ生活のためには、夫も母親も働く必要があり、どうしても家を空ける時間があります。

 それでも「なるべく」と留守番は避けていたそうですが、ある日、どうにもならず、小学校2年生のときに朝から夕方まで、留守番をお願いしました。実践してみたら意外なことがわかりました。

 それは「息子は留守番を好きになった」ということです。

 母親がとった留守番対策は三つ。

 一つは、電話を子どもに持たせて「なにかあったら必ず電話をして」と伝えておくこと。

 もう一つは、お金を渡して「好きなご飯を買って食べて」と伝えておくこと。

 最後に、ふだんは制限しているテレビやゲームの時間を解放しました。

 「非常時なので子どもが楽しめる状況を最優先する」というのが方針でした。ストレスをためておくと「防犯」以上に怖い、子どもの「暴走」を警戒しなければいけません。むしろ好きなことをさせたほうがいいと判断したそうです。そして、その考えは見事にハマって息子は一人で楽しくすごせました。

 一点、気になったことがあったのは、お昼ごはんのお金を渡したのに、それは使わずに菓子を食べていたこと。それも「お昼を抜いたぐらいで死にはしない。夕ご飯でいっぱい野菜を食べればよい、と思えたら思い切って留守番させられました」と思ったそうです。

 いまでは、ちょくちょくと留守番をお願いし、息子もそれを楽しんでいます。やはり四六時中、親子で一緒にいると疲れてしまいます。親にとっても子どもにとっても「離れる時間」はとても大切です。

不安な日常をすごすために

 最後に私見を書いておきます。今回の騒動を受けて、私は、2011年の東日本大震災を思い出しています。

 震災時、「いつどうなるのかわからない」という不安を抱え、さらに多くの学校が休校となりました。こうした状況に対して、ある被災地のフリースクールは「あまりふだんとは変わらない」と話してくれました。

 行く当てもなく、不安を抱えながら、日常をどう過ごすのか。それが不登校の日常だからです。

 私も中学2年生で不登校をし、近いような心境がありました。そこで得た結論がありました。

 「不安は解決できないので、いま楽しめることを見つけるしかない」ということです。

 不安はどこまでいっても「予想」の範囲を超えません。さきほどの母親の例で考えれば「留守番は心配」だと予想していましたが、その予想は外れました。現実になった困りごとは「お昼を食べなかった」ことぐらいです。

 新型コロナウィルスの影響で不安を感じる方も多いかと思います。その不安は、けっして否定されるものではありません。ただ、もし時間があれば、不登校やひきこもりの経験談が、『不登校新聞』やネットにはたくさん載っています。不安を抱えながら生きてきた人が何を得たのか。この機会に知ってもらえたら幸いです。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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