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12人に1人は地毛が茶色 学校で「浮いた子」だった21歳が校則を減らしたいと思った理由

石井志昂『不登校新聞』代表
糸井明日香さん。髪は染めておらず完全な地毛。(撮影:矢部朱希子)

 「茶髪禁止」は、多くの学校で決められている校則です。ところが「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」(※1)の調査によれば「地毛が茶色」という人は8%程度いるそうです。割合にすれば12人に1人。今回、私が取材をした糸井明日香さん(21歳)もそのひとり。糸井さんは軽度のアルビノ(先天性白皮症)で、栗色の髪を持っていました。「茶髪禁止」の学生時代はどんな思いをしていたのでしょうか。

糸井明日香さん(撮影:矢部朱希子)
糸井明日香さん(撮影:矢部朱希子)

――髪の毛は地毛ですか? 染めたっぽい感じの色合いですが。

 そうですね。ちょっとパーマをしていますが地毛です。小さいころのほうが「もっと明るかったよ」とも言われていましたが。

――髪色が明るいことで苦労をしてきたことはありますか?

 小さいころは肌も白く、日焼け止めをしないと火傷をしたみたいになってしまうので「人とちがうな」とは思っていました。ただ、両親が「アルビノをネガティブに思わないように」という思いで育ててくれたので、変わっていることをマイナスに感じることはありませんでした。

 もちろん、人とちがうことでイヤな思いもしましたが、一晩寝れば忘れてしまうというようなものでした。

――小さいころはまだしも、中学校に入ると『茶髪禁止』の校則がありますよね。

 そうですね。私が入った中学校はふつうの公立中学校なので、制服はもちろん、髪型にも細かな指定がありましたし、髪留めのゴムの色にも指定がありました。もちろん髪を茶色く染めるなどの『染髪』も禁止です。

 それでも、両親が事前に私の事情を伝えていたため、髪を「黒く染めるように」などとは言われませんでした。髪のことや校則のことを考えたのは高校生に入ってからです。私が入学した都立高校は、すごく自由な校風の学校で、髪型、髪色などは自由だったんです。義務づけられた制服もなく、ふだんの服装は自由でした。

――そんな学校もあるんですね。

 私も高校に入ってから驚きました。先輩の髪は、茶髪や金髪どころか、赤もピンクも緑もいる。ある先輩は、レインボーカラーに髪を染めていましたし、片目だけカラーコンタクトの人も大きなピアスをしている人もいました。制服も自由なので、毎日、制服を着ている人もいれば、なんちゃって制服の人もいるし、私服の人もいました。

 そのなかにいると、私、すごく居心地がよかったんです。いままでは「特例」として浮いていた存在でした。それが高校では「ふつうの子」にも多様性が許されているため、私が当たり前の存在に変わっていたんです。

 私だけではなくLGBTの先輩も、居心地のよさを感じていたようです。LGBTの人の場合、制服でもスカートにするか、ズボンにするかを学校によっては選べます。ただし、選べたとしても「浮いた存在」にはなってしまうんですね。まわりが全員、同じ格好をしている均一な場だからです。でも、うちの高校なら、みんなちがう。どんな格好をしていても気にはされません。

 それと多様性がある場に入って初めて、私は自分が偏見を持っていることにも気づかされました。その経験も大きなものでした。

――不登校の子が集まるフリースクールも校則がありません。なので、いろんな髪型の人もいますが、だんだんと落ち着いてくる傾向がありますよね。

 たしかにうちの高校でもそうでした。高校1年生のときは、みんな気合を入れて、いろんな髪型にしていますが、だんだんと黒髪が流行ってくるんですよね(笑)。そういうことを考えると校則の縛りが少ない学校がもっとあったほうがいいのにな、とは思うんです。

――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂)

教室(イメージ/提供・写真AC)
教室(イメージ/提供・写真AC)

特例ではなく多様性を認めることが

 糸井さんの高校は、その後、校則が変わり、染髪禁止や制服着用が義務づけられるようになりました。校則が変わる際、臨時生徒総会で校則変更に反対の意向を議決するなど、糸井さんたちは運動を起こしたそうですが、結果的には変わってしまったそうです。

 糸井さんの話を強引にまとめると「特例を認めるよりも多様性がある場を認めるほうが大切」ということでしょう。一方、現在の学校はあまりにも画一的です。2019年、NHKが中学生2000人に調査をし、「おかしい」と思う校則をあげてもらいました(※2)。こうした子どもの声から校則のあり方を考えられないかと思い、調査結果をここに抜粋します。

●あったなあ~、と思う定番の校則

「他学年の階や他クラスの教室に入ってはいけない」中3男子

「靴下は白色で、くるぶしより上でワンポイントのものかマークがないもの」中1男子

「キャラ物の文房具禁止」中1女子

「スマホの持ち込みは禁止」中2男子

「財布の持ち込み禁止」中3男子

「眉毛を剃ったり整えるなどいじってはいけない」中1女子

「前髪を眉上で揃えなければならない」中1女子

「炭酸飲料を学校で飲んではいけない」中1男子

●女子生徒の髪型は、なにがOKなのかわからなくなる校則

以下は、別々の生徒が答えているので、ひとつの学校の校則ではありません。

「三つ編みはいいが編み込みは禁止」中1女子

「三つ編みや変わった結び方が禁止のため、事実上はポニーテール一択」中1女子

「ポニーテールなど耳より上の位置で髪を結ぶのは禁止」中2女子

「一つ結びはいいが、ハーフアップは禁止」中2女子

「ハーフアップはOKだがツインテールは禁止」中3女子

「髪は下ろさなければならない」中2女子

「髪を下ろしてはいけない」中3女子

「女子は坊主禁止」中3女子

●学生のころは寒かったと思い出させる校則

「セーター禁止」中1男子

「ヒートテック禁止」中3男子

「カーディガン登校禁止」中2女子

「スカートなのにストッキング禁止」中1女子

「体育の時間は真冬でも半袖半ズボン」中2女子

●細かすぎないかと思う校則

「靴は中敷きも含めてすべて白でないといけない」中1男子

「靴下の長さはくるぶしより指三本分の長さ」中2男子

「キーホルダーは生徒手帳の大きさまで」中2男子

「メモ帳禁止(ふせんは〇)」中3女子

「ドライヤー禁止」中3女子

「制服の腕まくり禁止」中2女子

●これはかわいそうだなと思う校則

「アイプチをしてはいけないこと。一重がコンプレックスなのでほんとにいや」中2女子

「親が同伴でも友だちどうしでの宿泊が許されていない」中1女子

「忘れ物を週3個以上すると、反省文を全校生徒の前で読まなければならない」中2女子

「給食を絶対に完食しなければいけないこと。急いで食べたら嘔吐しました。毎日が苦痛です」中3女子

以上です。中学生の子どもたちが「変えてほしい」と思った校則でした。みなさんはどんな校則が不要だと思っていたでしょうか。

※1「問題校則(いわゆるブラック校則)および不適切指導に関する調査」。2018年3月発表、10代から50代までの男女4000人が回答。(調査主体 “ブラック校則”をなくそう!プロジェクト)

※2 調査期間2019年5月3日~5月9日/調査主体・NHKスペシャル「学校へ行きたくない中学生43万人の心の声(仮)」(取材班/調査協力LINEリサーチ)。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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