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「女は腹まで布がある下着を」ブラック校則はなぜ生き残るのか

石井志昂『不登校新聞』代表
教室(イメージ)(写真:アフロ)

 生徒を理不尽に縛りつける「ブラック校則」がまた話題となっています。

 岐阜県では「4時禁ルール」という決まりがあることがわかったからです(『岐阜新聞Web』1月21日)。報道によれば、4時禁ルールとは、午前中に授業などが終わったため早く帰宅した生徒に、午後4時までは自宅からの外出を禁じる決まりのこと。岐阜県内各地の学校で同様のルールがあったようです。

 この「4時禁ルール」、愛知県にもありました。NHKのアンケート調査(以下、NHK調査※1)によると、愛知県に住む中学1年生の女子生徒はアンケートに以下のように答えていました。

 「4時禁という、下校時刻が早いときには、4時までは外に出てはいけないルールは、私は嫌です。私たちの学校は部活動が盛んで、週に5日間~7日間は部活がかならずあるので、早く授業が終わって帰れる日には遊びたいというのが私たちの住む地域の中学生の大半の希望だと思います」(筆者一部編集)

 学校によってそもそも自由時間が削られているので4時禁ルールがイヤだという気持ち、たいへん共感するものでした。また、「外へ出てはいけない」というルールは、ゆるやかな軟禁とも言え、理不尽な校則です。

話題になったブラック校則

 4時禁ルールだけでなく、この数年、ブラック校則は、たびたび話題になってきました。

 最初に話題となったのは2017年7月末、「うなじが男子の欲情を煽る可能性があるため」、ポニーテールが校則違反になったというツイートからでした。ツイートは瞬く間に拡散される一方、全国的にポニーテール禁止の学校が多いこともわかりました。

 次に話題となったのは、2017年10月の「黒染め強要裁判」。生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう教員から何度も指導されたため、大阪府の高3女子が府に対し損害賠償を求めた裁判です。

 さらには2018年「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」の調査(以下、ブラック校則調査※2)によって、「下着の色は白のみ」など、下着の色にまで規制を設ける校則が多数の学校で存在していることがわかり話題となりました。

 このように、たびたび「ブラック校則」は話題となり、ドラマのタイトルにも使用されるほどにもなりました。こうしたなか文科省や教育委員会も行き過ぎた指導を注意しているのですが、まだまだ「隠されたブラック校則」は多いようです。

隠れたブラック校則「腹まで布パン」

 NHK調査では、全国の中学生約2千人が「おかしい」と思う校則やルールをあげてくれました。なかでも私が驚いたのが「腹まで布パンルール」です。愛媛県在住の中1女子生徒は、NHK調査に下記のような回答をしてくれました。

「女はお腹まで布がある下着しか駄目っていうのが面倒」

 この調査は、本人に連絡を取ることができず、私は何度も読んで、やっと意味がわかってきました。ようするに「女子生徒は、お腹まであるパンツ以外禁止」というルールなのでしょう。

 だとすれば問題は2点です。下着の色を規制しているのと同様、学校がプライバシーの領域に介入していること。もう一点は「セクハラ指導」を誘発しかねないという点です。ブラック校則調査によれば「下着の色をチェックされた」と答えた10代は、2.53%いました。生徒指導の目的であっても、チェックするのが同性でも、他人の下着をチェックするというのはセクハラです。下着の形状を事細かに指摘するのは、セクハラを誘発しかねません。

なぜブラック校則は生き残ってしまうのか

 企業や芸能の世界でも、年々コンプライアンスが注目を集めるようになっています。どうして学校だけは、憲法や法律違反とも思えるような「ブラック校則」が次々と報告されているのでしょうか。そこには「ブラック校則を支える2つの背景」があると思っています。

 一点目、ブラック校則は「見つけづらいもの」だからです。生徒手帳などに書かれている「校則」には「生徒らしい服装・髪型を」「華美なものは避ける」など抽象的に書かれており、細かな基準は学校ごとに決めています。そして、その基準を教育委員会や文科省は把握していません。極端に言えば密室(学校だけ)で決められてしまいます。多くの人の眼に触れないことが、行きすぎたブラック校則を生む土壌となっているのです。

 二点目、「一部の保護者は厳しい校則を求めている」というもの。30代~40代の母親から「校則が厳しければ、いじめなどが起きず、安心して子どもを任せられる」「自由な校風だと荒れやすいので心配」という声を聞いてきました。自由な校風よりも「厳しいほうが安心」というイメージがあるそうです。

 ブラック校則調査によれば、校則が厳しい学校のほうがいじめは起きやすいという傾向も明らかになっており、母親の声は誤解によるものです。しかし、学校よりも保護者のほうが厳しい校則を学校に求めているケースは多いのだそうです。

 このように、ブラック校則は「見えづらい」、「一部の保護者から求められている」という背景に支えられ、管理をしやすくしたいという学校現場のニーズと相まって生まれています。

校則なしでも機能する学校

 一方、校則がないと子どもたちが集まる場はどうなってしまうのでしょうか。

 

 不登校の子どもたちが集まるフリースクールでは、いわゆる校則がありません。「人を傷つけるような行為をしない」などの口頭での約束はしますが、服装や髪形を規制するフリースクールはありません。

 そうなると、どんな状態になってしまうのか。実際のフリースクールの子たちは、こちらです。

「フリースクール合同ゲーム大会」のようす(撮影:千葉県フリースクール等ネットワーク)
「フリースクール合同ゲーム大会」のようす(撮影:千葉県フリースクール等ネットワーク)

 髪の色はだいたい黒ですし、髪の長い子もいますが、私からは問題が見当たりません。フリースクールから生まれた私立中学校「東京シューレ葛飾中学校」も校則はなく、入学の際に「スタンガンなど危険な物は持ち込まないでもらいたい」と校長がお願いするだけです。東京都世田谷区の桜丘中学校も校則がないことで有名です。

 校則がなくとも運営している学校があり、私は現在ほど校則で子どもたちを縛りあげなくても大丈夫だと思っています。

ブラック校則から考えること

 私は6年間、不登校によりフリースクールに通っていました(94年~00年)。「下着の色は白」「前髪は眉にかからない程度」など細かな校則が定められた中学校から、「校則なし」のフリースクールに入ったときに衝撃を受けました。それは校則がなくとも場が機能していることでした。それまでの私は、校則で縛られているからこそ「破ってやりたい」「抜け穴を見つけてやりたい」という気持ちがありました。しかし、校則がない場では、自分たちで必要最低限のルールを考え、決め、実行していました。あきらかに公立中学校よりは、自主性や規範意識が高い場だったと思っています。

 校則の議論のなかで、いつも抜け落ちている視点は、「校則なし」でやっている場や学校がどうなっているのかという視点です。フリースクールや「校則なし」の学校の実践を見て、子どもたちがそこで平穏に暮らしている現状をどう考えるのか。校則なしの場にいる子どもたちはどう感じているのか。そこから具体的な議論がなされていくべきではないでしょうか。

※1NHK調査……調査期間2019年5月3日~5月9日/調査主体・NHKスペシャル「学校へ行きたくない中学生43万人の心の声(仮)」取材班/調査協力LINEリサーチ)。

※2ブラック校則調査……「問題校則(いわゆるブラック校則)および不適切指導に関する調査」。2018年3月発表、10代から50代までの男女4000人が回答。(調査主体 ブラック校則 "をなくそう!プロジェクト)

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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