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いじめアンケートの結果は、なぜいつも「いじめがあったか確認できていない」のか

石井志昂『不登校新聞』代表
ロッカーに入れられたランドセル(イメージ)(写真:アフロ)

 3月12日、愛知県豊田市で小学校6年生の女児2名が亡くなりました。女児2人は15階建てのマンションから飛び降りたものとみられています。また、2人の所持品から複数の遺書などが見つかっており、いじめられていることを訴える内容もあったそうです。

 一方、市教委や学校は「いじめがあったか確認できていない」と説明しています。学校では毎年、3回から4回のいじめアンケートを実施しており、女児2名へのいじめは確認できなかったからです。

アンケートが発見方法の主流

 事件の問題点などは、今後より深く解ってくると思いますが、現時点で私が一番、注目したいのは「いじめアンケートの手法」でした。

 ほとんどの学校では、いじめアンケートが実施されています。文科省調査によれば2017年度にいじめアンケートを実施した小中学校は98.0%。年間40万件のいじめのうち52%がアンケートで発見されていました。

 いじめ対策の第一歩である「発見方法」の主流は、アンケート調査なのです。

 今回の事件では、数カ月に1度、つまり頻繁にアンケートをとりました。大きな会社でも、これほど頻繁に意識調査やパワハラ調査をする会社はほとんどありません。それでもなお、いじめが見当たらなかったため、「陰湿ないじめほどアンケートなどでは見つからないのでは」という声も聞きました。

 しかし、このいじめアンケートは「記名式」、つまり自分の名前を書いて回答する方式で行なわれています。いじめ対策を研究している「国立教育政策研究所」は「無記名式」で実施することを強く訴えています。

7割の学校で記名式を採用

 当然記名式より無記名式のほうが真実を書きやすそうに感じます。しかし、現場を見れば7割の小中学校でいじめアンケートは記名式で実施されていました。

 公立小学校の教員(30代女性)にその理由を聞くと「そもそも上司に渡されて実施するので選択権はないが」と前置きをしたうえで、「無記名式だと解決できない」と話してくれました。

 教員によれば、小学校の低学年だと「いじめられている」と訴える子は多くなります。小学1年生や2年生の場合「クラスの半数ほどがいじめを訴えますが、そのほとんどがケンカやからかいの類です」とのこと。担任は「からかい」などを精査して学校に報告するそうです。

 誰が言ったのか、誰がいじめられたのか明らかにならないと「解決できない」というのが教員の主張でした。

深刻ないじめほど見落とされがち

 一方、国立教育政策研究所は、記名式だと「深刻ないじめほど見落としかねない」と指摘しています。

 現在進行形で、なおかつ第三者に相談できない深刻な事例ほど、記名式のアンケートには回答しづらいものです。記名式のアンケートへの回答は「過去に起きたイヤだったこと」が書かれる傾向があり、そのケースに対応しようとしても「手遅れ」だと指摘されています(生徒指導リーフ「いじめアンケート」参照)。

 また、私見を言えば、実態がそのまま報告されるのがアンケート調査です。いじめの訴えを精査するのは教員の仕事ではありません。クラスの半数がいじめを訴える事態をどう考えるのか。これは学校全体の仕事ではないでしょうか。国立教育政策研究所の調査でも、1回の調査でいじめを訴える子は半数程度を推移していました(小学4年生~中学3年生対象)。

 国立教育政策研究所は「いじめの被害者や加害者が誰なのかを知るためにアンケートを実施するという安易な発想を教職員全員が捨てることからいじめの取り組みが始まる」とも指摘しています。

まずはモデルケースの参照を

 国立教育政策研究所が指摘するいじめアンケートなどを取り入れるためには、今までの手法を変えていくこと、その労力が必要になります。それをするには先生の働き方も考えていく必要があります。いくら「国立」の指摘でも、浸透していないのは、現場の負担感がネックなのかもしれません。

 しかし、そうは言っても、深刻な事態ほど見落としがちな記名式アンケートは辞めてみてはどうでしょうか。

 現場の担任先生は「選択権がない」とも言っていました。そこで学校の管理職の方にお願いがあります。国立教育政策研究所のHPには、『生徒指導支援資料6「いじめに取り組む」』という資料があり、そこにはアンケートの質問案やいじめを減らしていく手法の実践例が掲載されています。そこには記名式のデメリットにはじまり、有効な指針が示されています。こちらを参照いただき、どうか事件が起きる前に、いまできることの改善を検討いただきたいと思っています。

実態が判明して解決の糸口が見える

 私は、国立教育政策研究所の調査方式が全国に広がってほしいと思っています。そうなると、いじめの認知件数は今より何倍もの数になるでしょう。「解決できない」と学校が報告するケースも増えるはずです。しかし、それは不幸なことではありません。私が不登校の子やいじめを受けてきた子に取材してきた実態に近いからです。

 いじめ自殺が起きてから「確認できない」と問題になるのではなく、いまの実態と問題点、それが子どもの命が失われる前にあきらかになってほしいのです。そうなれば解決の糸口が見えてくるはずだと思えてなりません。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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