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学校が休みにくいのが問題の本質ではないのか 「死にたい」は休息を求める証【母子心中事件】

石井志昂『不登校新聞』代表
登校中の小学生(イメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

 昨年11月、仙台市泉区で長女(8歳)と母親が2人で無理心中したとみられる事件について、1月21日、父親は第三者委員会の設置などを求める要望書を仙台市長と教育長に提出しました。

 報道など手元の資料によれば、長女は小学1年生からいじめを受け、両親がその事情を学校に伝えても対応がなされず「母子ともに精神的に追い詰められて起きた」と父親は訴えています。

 あまりに悲惨な事件であり、亡くなった親子と遺族を思うと胸が痛みます。長女が両親にあてた手紙も公開されました。手紙にはこう書かれてありました。

「いじめられてなにもいいことないよ しにたいよ しにたいよ」

 一連の報道を聞きながら、私は、家族が抱えていた苦痛は不登校の苦痛や葛藤そのものだと感じました。とくに長女からの手紙は、不登校になっている子どもの苦しい胸の内を物語っています。私もひとりの不登校経験者として、この手紙には深い共感を覚えました。

「死にたい」は休息を求める証

 学校へ行けない子どもは、くり返し周囲に「死にたい」「消えたい」と訴えます。私も不登校当時は「人生を終わりにしたい」と思っており、終わりにするならば母親に殺してもらいたいと思っていました。

 しかし「死にたい」という言葉の真意は死ぬことではありません。生きていたいんです。生きてはいたいけれども、学校へ行けないなんて許されない。そういう人間は許されない存在だから「死んでしまいたい」と思うのです。本音の「学校を休みたい」「行きたくない」という言葉ほど、当事者は訴えづらいです。

 「死にたい」という言葉は、安心して学校を休みたい気持ちの表れであり、休息を求めている証だと言われています。

 長女が「死にたい」と訴えていたこと、校長先生から教室へ登校を促されてから体調を崩したこと。不登校に関わる者であれば、長女は学校を休みたかったのではと思ったはずです。

当事者間ではよく知られているが

 一方、死にたいなんて言葉を聞いた周囲は心が痛みます。それがわが子であれば、気が動転し、責任を感じ苦しみます。

 「息子から『頼むから殺してくれ』と言われたときは頭が真っ白になった」(50代女性)という話や「死にたいとくり返す娘と死のうと思ったことは一度ではありません」(40代女性)という話を私は聞いてきました。

 私だけではありません。いじめを受け、学校へ行けなくなり、子どもが「死にたい」と言い始める。これは不登校に関わる人であれば、何度も聞いてきた話だろうと思います。

諦められている学校のいじめ対応

 今回の事件では「学校のいじめ対応」にも注目が集まっています。両親が対応を求めても「子どもどうしで握手させる」「もう少し待ってほしいとくり返す」など表面的で意味のない対応を学校はくり返していたそうです。

 この学校対応も「またか」という気持ちと憤りを感じました。

 先日も不登校の子を持つ親の方から「いじめがあったらしいので、すこし調べてもらいたい」と担任に訴えても、まったく調査はされなかったという話を聞きました。

 両親が学校にいじめを訴えたところ、いじめを受けた子どもの意向を無視して「いじめはなかった」と結論を出した小学校もありました。しかも、その小学校の校長先生は、いじめを受けた子どもに「友だちに濡れ衣を着せたのだから、謝りなさい」と促したそうです。

 まるでいじめを隠ぺいしているかのようですが、学校や大人の側からは「いじめが見えない」のではないかと私は思っています。文科省調査によると、2017年度は35万件のいじめがありました。このうち85%は「解消している」と報告されています。

 2017年度だけではありません。毎年のようにいじめは90%近い解消率を出しています。報告しているのは「学校」です。いじめを受けた子ども本人ではありません。

 不登校やいじめを受けた当事者は、この「いじめ解消率」について疑問を投げかけています。当事者からは「学校の先生がいじめを解消したことなんて見たことがない」「先生が介入していじめはよりひどくなった」という声を聞いてきました。

 学校によるいじめの解消能力については、ずっと疑問視がされていますが、これは専門的な話であり、ふつうの親からすれば許せない話です。もしもわが子がいじめを受けて不登校になったら「なぜ不利益を被らなければいけないんだ」という思いが募ります。そこで学校に対して改善を求める気持ちも理解できます。

 しかし、不登校の子どもに関わる現場では、どんな理由があるにせよ「学校へ行けない」という子どもの気持ちをまずは優先させます。つまり家やフリースクールなどを安心して休める場にすることを最優先するのです。

 いじめがまた起きるかもしれないという恐怖感を子どもが感じながら登校しても、勉強などできません。学校へ行こうと思えば、苦しくて不安で夜も眠れず疲弊します。年齢を問わず、神経症やパニック発作を伴うことがあります。

 そのため、多くの不登校の家庭では、親子ともども学校での理不尽さに傷つき、学校と距離をとるなかで兆しを見出してきました。

回復が早い小学生の不登校

小学生らがフリースクールで遊んでいるようす(フリースクールネモ撮影)
小学生らがフリースクールで遊んでいるようす(フリースクールネモ撮影)

 また、小学生が不登校になる場合は、心の回復が速いです。「死にたい」と訴えていたり、毎日のように泣いていたりしても、本人が安心できる場にいれば、みるみるうちに元気になっていきます。これは長く不登校に関わっている人からすれば、ほとんど常識です。そして小学生の不登校は増えており、フリースクールへの問い合わせも増えています。

 小学生の心の回復が早いこと。「死にたい」とまで追い詰められるケースが多いこと。学校によるいじめ対応が改善されないことも多いこと。こうした事情は、不登校に関わる者のなかではよく知られており、それだけに今回の事件が悔やまれます。

くり返されてきた悲劇

 今回の事件だけではありません。今年1月8日、群馬県で「娘の不登校に悩んでいた」という母親が中2の娘を殺害しようとして逮捕されています。私が編集長を務める『不登校新聞』の創刊号は、不登校に悩む父親が息子を金属バットで殺した事件への判決がトップニュースでした(1998年)。

 これらの事件は「学校が安心して休めない」から起きた問題ではないでしょうか。学校が安心して休めれば、学校以外の場も学校と同じように安心して通えれば、起きなかった事件ではないでしょうか。

 再発防止のためには、文科省、教育委員会、学校、そして民間で不登校に関わる団体も連携を深める必要があります。なにより、学校を休んだからと言って人生そのものが奪われるわけではないこと、それを一人でも多くの人に伝えていかなければいけない。そう思えてなりません。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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