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【福井中2自殺】異例ではないという問題点とその対応策は

石井志昂『不登校新聞』代表
校舎(イメージ)(写真:アフロ)

 福井県池田町立池田中学校に通う中学2年生の男子生徒(当時14歳)が今年3月に自殺した問題が、現在、クローズアップされています。

 注目を集めたのは、男子生徒が自殺したのは担任、副担任による「指導」が原因だったと調査報告書が指摘したからです。その「指導」とは、たいへん激しい叱責によるものでした。

 担任から、大会当日のあいさつの準備が遅れたことなどを理由に、校門の前で怒られていた。目撃していた生徒は(聞いている者が)身震いするくらい怒っていた、すごい怒鳴っていた、本生徒が可哀想と感じたなどと述べている。

出典:池田町学校事故等調査委員会 調査報告書(要約)

 また、自殺前日にも男子生徒が過呼吸になるほど叱責されたことも報告されています。男子生徒はこうした叱責によって孤立感や絶望感を深め、学校内での自殺という事態を招いた、と調査報告書では結論づけています。

 たいへん胸を痛めるニュースですが、より残念なのは、こうした「教師との関係」に苦しんで自殺するという事件がめずらしくないことです。

「教師との関係」 自殺者は毎年

 警察庁の統計によると、中学生の自殺のうち、「教師との人間関係」が動機・背景になった事件は、過去10年間で13人いました(2006年~2015年統計)。

 つまり、毎年1人以上の中学生が、教師とのあいだでなんらかの苦しみを抱え、自殺に至っているということです。

「教師との関係」を背景にした不登校は4人に1人

 また、今回の事件では、男子生徒が3度に渡り、登校をしぶりましたが、同じように「教師との関係」によって登校をしぶる人は大勢います。

 「不登校に関する実態調査」(2014年/文科省)によれば、不登校のきっかけに「先生との関係」を挙げた人は26.2%。約4人に1人が「先生との関係」を挙げました。不登校のきっかけを聞いた質問項目全体のなかでも4番目に多い理由です。

 しかし、不登校直後や学校に行っているときに、親が「先生との関係」にトラブルを確認するのは難しいでしょう。男子生徒の母親も「知っていたら学校に連れて行かなかった。登校の様子が思い出されてつらい」(毎日新聞)と話しており、現状は知らなかったそうです。

 学校は密閉性の高い空間です。親や第三者からは見えないかたちで、問題が深刻化するのが「学校」の特徴だとも言えます。

 付記しておきたいのは、教師の叱責は叱責を受けた本人だけでなく、他の生徒にも影響を与えるという点です。私が取材したケースでは、他の生徒が怒られるのを聞いて「心がブルブルする」と言って不登校をした小学2年生の女の子がいました。ほかにも教師からの叱責や体罰に心を痛めて自殺に至った生徒もいます。叱責や体罰は、それを受けた本人だけの問題ではありません。

わが子が困っていたら

 わが子が「激しい叱責や指導」を受けていたとき、あるいは「理由は不明瞭だが登校を渋っているとき」に、親はどう対応すればいいのでしょうか。

 多くの専門家の指摘を私なりにまとめると覚えておいてもらいたい「前提」が見えてきました。

 それは「SOSは本人のキャパシティを超えたときに発せられる」ということです。

 学校が苦しいと子どもが訴えたならば、それは「最終警告に近いSOSなんだ」と思っていただきたいのです。多くの親の場合は「学校がつらい」と子どもが言っても、最初はがんばらせてしまいます。

 しかし、子どもからすれば、もう十二分にがんばって、それでもどうにもならない、と親や周囲に訴えてくるのです。

 今回の事件では、生徒が3回、ハッキリと「学校に行きたくない」と口にしています。

 つまり「SOS」を3度、発しました。

 同じような状況は2011年の大津いじめ自殺でもありました。大津いじめ自殺では自殺する3日前、周囲に「学校へ行かない方法はないか」と相談しています。

 かならず本人は「SOS」を発信しているのですが、ほとんどの場合、周囲は「がんばって」と言ってしまいます。もちろん叱責やいじめがあったとは知らなかったでしょう。でも、心のどこかで、その声はSOSではなく「わがまま」「甘え」だと感じた可能性があります。

 親の方は、子どもが苦しいと言ったら、まずは「わがまま」や「甘え」だと捉えず、「もしかしたらSOSではないか」と考えてください。

 また、問題を考える際には、ぜひ一人で悩まず、各県の弁護士会の「子どもの人権110番」や、フリースクール全国ネットワークに加盟しているフリースクールなどに相談し、今後の方向性を探ってもらいたいと思います。

学校で苦しんでいる人へ

 もしも、いま教師によって苦しい思いを抱えられている方がいたら、信じてもらいたいことが二つだけあります。

 一つ目は自殺しても解決には結びつかないこと。もう一つは信頼できる人に相談してもらいたいという点です。

 私が学校へ行きたくなくて悩んでいた中学2年生のころ「死んで先生たちにわからせてやろう」と思っていたことがありました。先生の「生徒指導」や態度に心の底から怒りを覚えていたからです。

 それを止めてくれたのは友人でした。友人は先生からの生徒指導によってケガを負い、転校したことがあります。その転校先で、ある生徒の自殺が起きました。自殺した生徒は学校中からいじめられていた生徒でした。しかし、自殺した翌日、その学校の校長先生は「彼は進路の問題で悩んで自ら命を絶ちました。みなさんには命の重みを考えてほしい」という旨の話を全校生徒に話したそうです。

 学校中からいじめられ、先生たちもわかっていたはずなのに「進路の問題」にされ、さらには「命の重みを」と話す。友人は、このエピソードを私に電話してくれ、さらに「死んでも先生は変わらない」と伝えてくれました。

 その一言が私の自殺への思いを断たせてくれました。残念ながら、すべての大人が人の痛みがわかる人ではありません。あなたが死んでなお、まったく反省しない人もいます。彼らのために命をささげる必要ないと考えています。

 いま苦しさを抱えている人は、すでに何度か他人に相談し、傷つけられた経験を持っているのではないかと思います。それでもなお、思いつくかぎりの信頼できる大人に相談してもらいたいと思っています。

 人の痛みがわかる大人もいるからです。私自身は自分が不登校になってから、親やフリースクールのスタッフが、その痛みに共感してくれました。どうか理解してくれる人がいることを信じて、相談をしてもらいたいと思っています。

 最後になりましたが、あらためて、男子生徒のご冥福をお祈りいたします。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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