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【飛び降りろ発言問題】本質は子どもからの通報機能の未整備

石井志昂『不登校新聞』代表
(写真:アフロ)

今月12日、埼玉県所沢市立の小学校で男性教師が、小学校4年生の男子児童に対し「今すぐ窓から飛び降りろ」などと発言していたことがわかった。翌日から児童は登校しておらず、学校は「指導に値しない暴言であり体罰」だと事実を認め、謝罪した。

所沢市教委に取材したところ、市教委は「不適切な指導だったということは前提だが、指導の一環として会話のなかでそういう発言があった」と事実を認めている。

しかし問題の本質は教師の発言自体ではない。注目すべきは複数の調査データを見るかぎり「まれなケース」だとは言えないこと、そして子ども自身が現実的には通報しづらい状況にあることだろう。

4人に1人が「教師」を理由に不登校

今回の特徴は、教師の暴言によって子どもが不登校に追いつめられたこと。しかし、教師との関係が理由の一つになって不登校した者は多い。

文科省の「不登校に関する実態調査」によれば「先生との関係」を不登校のきっかけの一つに挙げた者は26.2%。つまり不登校のうち4人に1人が該当する(複数回答可/2014年公表)。理由別では4番目に多かった(調査対象者は中学校卒業後から5年が経過した者)

また今回のケースを「体罰」だと学校は謝罪しているが、体罰だけにかぎれば昨年度も1029件、起きている。

まれではないという深刻さ

調査データ以外でも、これまで似たような教師の「行き過ぎた指導」がたびたび報道されてきた。今回のような問題は起き続けていると言える。そうなれば問題を起こした教師の資質にだけ焦点を当てるべきではない。

本来なら学校で理不尽な目に合ったときに、周囲にSOSを出せればよいのだが、多くの子どもにとって現実的な相談先は学校か家庭ぐらいしか知られていない。

しかし、親や学校も、こと学校問題の通報先として適切かと言えば疑問が残る。

学校は当の加害者であり、被害者が加害者に助けを求めるような矛盾した構図は何の意味もない。親は子どもを学校に預けているため、本人の今後の学校生活を考えると「通報」をためらうであろう。

親も学校も学校との利害関係が発生していため、客観的な対応を求めるのはやはり酷である。そして残念ながら、親や学校の双方が、子どもの「壁」になってしまう場合もある。

第三者の相談先として「子供のSOSの相談窓口」など行政や自治体も相談窓口を設けている。しかし関係者によれば「行政の相談窓口への相談は、ほとんどが大人だ」と言う。なお長野県では子どもと大人向けに「学校生活相談センター」を開設しているが相談者の74%は大人だった(2015年度統計)。

当事者の子どもからの通報が相対的に低いということは「問題は起きているのに直接SOSを出せない」ことを意味する。さらに言えば、相談先が子どもから信頼されていないことを意味する。やはり子ども自身が安心して声を挙げられるような状況をつくらなければならない。

通報が機能するために

子ども自身が安心して声を挙げられるような状況をつくるには、通報という性質を考える必要がある。通報は通報者本人が「絶対に安全だ」という確信によって成立する。

自分をいじめている先生や同級生を通報した場合、先生や同級生から恨まれたまま学校生活を送らなければいけないと本人が少しでも思ったら、それは通報がまったく機能していないと言える。そう考えると子どもが通報するのは容易ではない。

子どもが通報の安全性を実感し、子どもたちの口コミレベルでも「それは通報したほうがいい」と言われる状況をつくっていくのには時間がかかるだろう。

それでも取り急ぎは、通報先がいたるところで明示されるべきだ。子どもちが望む、望まざるを超えて、「あなたが傷つけられたらここに連絡してください」と連絡先を開示する責務が大人にある。

一方、すぐには通報が機能しないことを見越して、「子供のSOSの相談窓口」の相談内容やNPO法人チャイルドラインが集計したデータが検討されていくべきであろう。チャイルドラインには年間4万件を超える子ども自身からの相談がある。子ども自身が、教師でも保護者でもない、まったく利害関係がない大人へ子どもたちが何を訴えてきたのか、ここに考えるべき客観的なデータの蓄積がある。

いつ、どこで、だれが、子どもを苦しめたのか、そこに踏み込んで施策を検討し実行していくなかでしか通報機関を有機的に機能させ、子ども自身の声から学校のあり方などを再組成していく。その道筋ならば子どもの現実とズレてはいかないだろう。

【2017年7月20日11時49分 加筆修正】

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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