「新型コロナ」は「似た症状の他疾患」と区分けを:感染症専門家の提言

(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)は、依然として感染発生を抑えこめていない状況だ。この病気は、症状が風邪によく似ているが、そうした症状が出ても様々な事情から病院に行けないと考える人も多い。どうすればいいのか、マイコプラズマ感染症の専門家に電話とメールで話を聞いた(この記事は2020/03/18段階の情報に基づいています)。

新型コロナ感染症の現状

 新型コロナ感染症はPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査の陽性者が増え続け、2020年3月17日(火)18時の時点で国内総計1540人になっている(クルーズ船事例含む)。うち、死亡者36人、退院者718人だ。

 クルーズ船では、最終的に3711人の乗客・乗員(乗客2666人、乗員1045人)が新型コロナウイルスのPCR検査を受け、696 人(18.8%)で新型コロナウイルス感染が確認され、うち無症状病原体保有者は410人(58.9%)だった。

 クルーズ船内の多くの症例では当初PCR陽性が継続し、その後2回連続してPCR陰性が確認されたが、20%(90名中18名)で、1回陰性を確認した後に再度陽性となる現象がみられた。また12%(90名中11名)で2回連続陰性確認までに15日以上かかっている。

 新型コロナ感染症に感染しているかしていないのかは現在、主にPCR検査で行われている。すでに広く認識されているように、この検査法で感度を高めようとするとかなり厳密な検体管理が必要となり、陽性なのに陰性と出てしまったり、陰性なのに実は陽性だったという検査結果になる危険性がある。

 発症の初期症状と考えられる患者には、自宅療養を促し、早期の受診を避け、不要不急の外出などを避けるよう推奨されている。だが、初期症状から急激に重篤化する危険性もあり、早く医療機関で診療してもらいたいという患者も多い。

 また、発熱、咳、倦怠感という症状は、風邪、インフルエンザ、そしてマイコプラズマ感染症などと共通し、自宅療養しているうちにこれらの病気が進行し、新型コロナではなく別の病気が重症化する危険性がある。

 病院では現状、新型コロナ感染症の感染疑いのある患者に対し、受付の段階で空間・時間の分離をし、症状に応じたトリアージ(治療の優先度による選別)を行っている。だが、中小の病院や診療所では物理的になかなかこうしたことができないようだ。また、医療インフラが脆弱な地域に感染が局所的に広がると、いわゆる医療崩壊につながる危険性もある。

 新型コロナ感染症は原因の実態が未解明で感染の経路も不確かであり、まだワクチンもなければ明確な治療法もない。対処法が分らない対応策のない疾患だ。

他の風邪症状との区分け

 そのため、まず新型コロナ感染症と似たような症状を示す他の疾患を区別することで、医療崩壊を防ぎ、感染検査をより正確かつ容易にできるようにすべきと主張するのがマイコプラズマ感染症を長く研究してきた医師の松田和洋氏だ。医療現場の現状を少しでも改善するためにも、まずマイコプラズマ感染症を区別できるような体制を整えたほうがいいという。

──まず最初に、国内における現在の新型コロナ感染症をどう捉えていますか。

松田「新型コロナ感染症にばかり目を奪われ、風邪症状をともなう他の病気との区分けがしっかりなされていないのが最も大きな問題と考えています。風邪の症状という大きな流れを、新型コロナウイルスに感染しているか感染の可能性があるグループと、それ以外の病気のグループに分ける必要性がありますが、その方法をPCR検査にのみ頼っているため、しっかり区分けることができなくなっています」

──新型コロナ感染症の検査法についてはどうでしょう。

松田「横浜のダイヤモンドプリンセス号のケースでも問題になったように、病原体の遺伝子を増幅して検出するPCR検査法は、感度は高いものの、誤った陰性判定、すなわち『隠れ陽性』を出しているのではないかという懸念が生じています。例えるなら、目隠しをしながら、恐る恐る棒で藪の中をつついている状態になっているのです」

──しっかり区分けをすれば、どんな問題点が解決するのでしょうか。

松田「発熱・長引く咳・倦怠感、そして間質性肺炎(すりガラス状陰影)が、今回の新型コロナ感染症の特徴ですが、これらは例えばインフルエンザなどのウイルス感染症でもマイコプラズマ感染症の症状でも全く共通しています。風邪症状の患者さんが100人いた場合、インフルエンザにはインフルエンザウイルス抗原検出迅速診断キットや高感度インフルエンザ迅速検査システム、採血して血清の抗体価の上昇による測定などが開発されているので、インフルエンザの患者さんが40人いたとすれば40人をまず分けることができます。さらに、マイコプラズマ感染症の患者さんが40人いたとして、マイコプラズマ感染症を区分けることができれば、その40人をさらに分けることで、風邪の症状を示している残りの20人に対して新型コロナウイルスのPCR検査を行ったり、隔離したり自宅療養で出歩かないように指示することができるようになるでしょう。しかし、これに重複感染状態が重なりますから、実はそう簡単ではないのです。ここで重要なことは、検査により診断のできた患者に適切な治療が行われることです」

PCR法の限界とは

──PCR法はなぜ感度が高いのに誤った判定を出してしまうのですか。

松田「病原体をPCR法によって判定する場合、検体の採取時期や場所などにより、感染者でも陽性とならないことがかなり多くあります。新型コロナ感染症の検体採取マニュアルによれば、できるだけ早い時期に下気道由来検体(喀痰もしくは気管吸引液)、あるいは上気道由来検体(咽頭拭い液)を採取することとされています。今回、症状があるのに陰性、症状がないのに陽性というケースがいくつか報道されていますが、潜伏期や症状が顕著でない時期は病原体が咽頭や喀痰にいないこともあるのです」

──検査で新型コロナウイルスを採取しにくいということでしょうか。

松田「PCR検査法は、喉の粘液や痰を検体として採取しますが、潜伏期や症状が顕著でない時期には病原体が咽頭や喀痰に出てこない可能性があります。また、長期になるとコロナウイルスが消化管や排せつ物に出てくる可能性がある一方、この時期にはすでに咽頭や喀痰では検出されない可能性が高いというように、検体の採取時期と場所との兼ね合いで、感染者であるにもかかわらず陽性とならないことがあります。また、医療従事者側も感染リスクにさらされながら行っています。一方、血清診断法であれば、より安全性が担保されている採血による検体の採取と測定ができます。検体も冷凍することにより安全で活性も安定した運搬が可能です」

──なぜ隠れ陽性が出てしまうのでしょう。

松田「新型コロナウイルスのRNAが5個以上存在しないと検出感度には到達しません。そうなれば、保有はしていても『陰性』という結果になります。しかし、その後、新型コロナウイルスが体内で増えていくこともあり、その場合は『隠れ陽性』として感染の拡大につながる危険性が高いのです。現に、今回の新型コロナ感染症の半分は『症状が出なくても、ウイルスを保有している可能性がある』無症状のキャリアーから感染したという結果が出ており、以上に述べた経過による『隠れ陽性』の存在が、感染経路を特定できない事例を生み出しているとも言えます。では、なぜPCR法にこだわっているのかといえば、新型コロナウイルスの場合、今のところ、血清疫学的手法による精度の高い抗体測定がまだ確立されていないからです」

──新型コロナ感染症は、風邪の症状を示す他の病気と区別がしにくいということでしょうか。

松田「そうです。症状からは新型コロナ感染症とインフルエンザ、私の専門であるマイコプラズマ感染症との区別は困難です。新型コロナ感染症は、発熱・長引く咳・倦怠感、そして間質性肺炎(すりガラス状陰影)が特徴ですが、マイコプラズマ感染症も同じ症状を引き起こします。また、注意すべきこととして、風邪症状から始まる感染症に喫煙や受動喫煙症状が加わるとノイズとなってしまい、臨床診断が極めて難しくなります」

血清による検査法の重要性

──では、新型コロナ感染症と他の病気をどう区分けすればいいのでしょう。

松田「感染症のサーベイランスや制御には、質の高い抗原による血清学的方法が必要になります。血清学的方法であれば、感染していないか感染したことがあるかという感染既往歴がわかります。『医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版』には『肺炎と診断された場合は肺炎球菌やレジオネラ属菌の尿中抗原検出、マイコプラズマ遺伝子検出、呼吸器検体の培養、血液培養など他の原因病原体の検索を併せて行ってください』となっていますが、問題はこれらの診断薬や方法の性能への理解と有効な使い方(プロトコール)です」

──診断薬や方法の性能への理解と有効な使い方の問題とは何でしょうか。

松田「区分けるためには、精度の高い検査測定法を確立する必要があります。例えば、抗原による血清測定法では、全身のどこかに原因微生物が感染していれば抗体が上昇します。血液中の抗体の変化を調べることによって、全身の部位によらない感染状態が把握でき、回復傾向なのか増悪傾向かも判断できます。感染者を見逃すことが少ない検査法と言え、正確な診断のためには、PCR法などの抗原測定だけでなく、精度の高い抗体測定など、血清疫学的手法を併用する必要があると思います。血清による検査法では、抗体を測定するために使う抗原の性質、特異性や感度が極めて重要です。医師などの専門家でも、このことを理解して検査結果を的確に判断している人はそう多くないかもしれません。そのため、血清による検査法の重要性が理解されず、なかなか政治の判断に繋がっていないという深刻な状態になっているのです」

──血清による検査法は、新型コロナ感染症にも有効なのでしょうか。

松田「残念ながら新型コロナ感染症については、まだ血清中の抗体測定検査はできていません。病原微生物の抗原物質の特定による血清中の抗体測定の確立が待たれている状況ですが、先日、横浜市立大学が患者の血清から新型コロナウイルス抗体を検出したと報道され、最近では新しい血清抗体測定法が中国から輸入されたという報道もありました。今後はこうした臨床の現場で扱える試薬キットが実現してくるでしょう。これらの技術が確立されれば、現場の医療従事者が厳重な感染防護が手薄な中で、患者の咽頭ぬぐい液の検体採取をするときの感染リスクも減らせると思います」

マイコプラズマ感染症の区分け

──PCR検査法しかない現状では、新型コロナ感染症を区分けることは難しいということでしょうか。

松田「いえ、冒頭で述べたように、風邪の症状を示す患者さんからインフルエンザとマイコプラズマ感染症の患者さんを区分け、その後の患者さんに対して検査することができれば可能です。症状を示さない隠れ陽性の患者さんは抜け落ちますが、少なくともインフルエンザとマイコプラズマ感染症の患者さんに対して早期診断と治療を行うことができますし、重複感染による重症化、さらには医療崩壊を防ぐことにつながります」

──マイコプラズマ感染症の検査法は確立されているのでしょうか。

松田「マイコプラズマ感染症の確定診断には、患者さんの咽頭拭い液、喀痰からマイコプラズマを分離することで検査します。適切な培地と経験があれば難しい検査法ではありませんが、早くても1 週間程度かかるので通常の診断としては有用ではありません。近年、迅速診断としてLAMP法(PCR法と同じ遺伝子検査)や抗原測定法が開発されています。しかし、マイコプラズマ感染症でも、新型コロナ感染症で行われているPCR法のように『隠れ陽性』が存在する危険性がありますし、現状の血清抗体測定法には感度に限界があります」

──では、マイコプラズマ感染症の区分けは難しいのではないですか。

松田「その通りです。マイコプラズマ感染症に関しては、現状の検査は残念ながら十分とは言えません。私は、研究検査が実施可能になっている合成糖脂質抗原に対する精密な抗体測定法が有用と考えています。幸い最近になって高感度でマイコプラズマの持つ特異的な糖脂質抗原の構造と完全におなじ合成抗原を用いた、新しい抗マイコプラズマ脂質抗原抗体の精密抗体測定法が開発されています。これを使えば症状のない状態からでも感染を知ることができ、定量的なことから特異抗体量の変化で感染状態を知ることができます。これを用いたクラスターなどの調査研究などが可能と考えています」

──マイコプラズマ感染症に関する認識に問題があるのでしょうか。

松田「新型コロナウイルスの検査が、他の感染の可能性との関連付けなしに行われているのが問題なのです。現状の診断法では、マイコプラズマやインフルエンザ感染を見逃し、臨床現場で抗菌剤や抗インフルエンザ薬による治療ができないという懸念もあります。これにより複合感染による、より重篤な症状を見落とす恐れもあります。したがって、新型コロナ感染症とマイコプラズマ感染症については、精度の高い抗体測定法診断法の確立が必須です」

長引く咳はマイコプラズマ肺炎を疑うのが常識

──マイコプラズマというのはどういう細菌ですか。

松田「新型コロナ感染症もマイコプラズマ感染症も、間質性肺炎の原因になりますが、こうした肺炎は、『異型肺炎』とも呼ばれ、細菌性の定型肺炎に対応する名称です。病原体としては、マイコプラズマによるものも多いですが、これ以外にアデノウイルスをはじめ種々のウイルス、クラミジアなどによっても起きます。マイコプラズマはウイルスではなく細菌ですが細菌の中でも最小で、ウイルスと同じように粘膜などから血液中に容易に侵入し、肺線維症や肺胞膜の炎症である間質性肺炎を引き起こします。通常は、咳が長引く場合、マイコプラズマ肺炎を疑うのが臨床の常識だと思います」

──では、マイコプラズマ感染症というのはどういう病気ですか。

松田「昔から『異型肺炎』として、肺炎にしては元気で一般状態も悪くないことが特徴とされてきましたが重症肺炎になることもあります。また、胸膜の間に水が貯まる胸水貯留という症状が起きることも多く、他の合併症としては、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群など多彩なものが含まれます。また、マイコプラズマ感染症は、間質性肺炎だけでなく、喘息やCOPDなどの呼吸器疾患の原因にもなります。さらに無菌性髄膜炎、脳炎から神経・精神神経疾患との区別、リウマチ性疾患などの慢性炎症性疾患や免疫難病などとの区別が困難なことが少なからずあります」

──新型コロナ感染症とマイコプラズマ感染症の治療に違いがありますか。

松田「新型コロナ感染症には現在、治療薬がなく対症療法になっています。一方、マイコプラズマ感染症の初期症状には、抗菌剤の投与により重症化しないような治療が一般的です。つまり、マイコプラズマ感染症が見逃される場合、抗菌剤による有効な治療が行われない懸念があり、風邪症状に関連する感染症や疾患を含めてこの要のところに診断と治療に対して、初期から一貫した総合的な危機管理体制が必要です。区分けが機能しないと現在のような状況に対応できなくなりますし、逆により効率的で信頼のおける仕組みを構築していくことで医療崩壊のリスクを軽減することに繋がります」

──マイコプラズマ感染症を血清学的手法で特異的に検査できる効果はどんなものですか。

松田「血液中の抗体の変化を調べることによって、部位によらない全身の感染状態が把握でき、経過を追うことで、回復傾向なのか増悪傾向かも判断できます。また、血清学的手法は、血液採取という健康診断でも一般的に行われている方法ですから、患者さんや被検査者には多少の侵襲性はあるものの、医療従事者の負担がかなり軽減されると思います。医療関係者の感染リスク軽減のためにも、血清中抗体で評価できる、新しい診断システムを調査研究用として使うべきです」

──では、新型コロナ感染症についてどう対応していけばいいのでしょうか。

松田「新型コロナウイルスの性質や広がりを見極めつつ、診断システムやサーベイランスシステムなどの要となるところに対し、その重要性をしっかりと認識して取り組んでいく必要があります。例えば、クラスターなどから100~200人単位のサンプリング調査を行い、信頼のできる行政検査データを収集して、クラスター全体の中での発症者率、陽性者率、重症化率、死亡率を出して、現状把握と対応を考えていく必要があると思います」

 松田氏は、新型コロナ感染症は髄膜炎の患者が報告されたように髄膜炎や脳炎症状を引き起こす危険性もあるという。そして、新型コロナ感染症と風邪のような症状のある他の疾患を区別し、脳炎症状に関連する感染症を含めた総合的な危機管理体制の構築が必要と訴えている。

 そのためにも米国のCDC(疾病予防管理センター)のような感染症への警戒態勢を常に保ち、責任をもって対応する組織を日本でも早く作るべきという。

 いわゆる医療崩壊、つまり「専門医療機関に患者が殺到してしまうと本当に治療を必要とする重症な方への手が回らなくなること」を回避するためにも、そして将来的に同じような未知の感染症が出現した時のことを考える上でも重要な提言ではないだろうか。

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松田 和洋(まつだ かずひろ)

山口大学医学部卒業、医学博士。東京医科歯科大学医学部微生物学教室助手、国立がんセンター研究所主任研究官などを経て、2005年にエムバイオテック株式会社を設立。代表取締役。マイコプラズマ感染症研究センター長。専門は、マイコプラズマ感染症、微生物学、臨床免疫学、生化学、臨床血液学、内科学。