Yahoo!ニュース

最新研究から見る「加熱式タバコ」喫煙者の傾向とは

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 加熱式タバコの喫煙者が増えている。これは世界でも日本特有の現象だが、新たな疫学調査研究が発表され、加熱式タバコの問題点が浮き彫りになった。

加熱式タバコのデュアルユーザーとは

 紙巻きタバコの喫煙者が新型タバコに手を伸ばすというのは米国で問題になっている電子タバコと同じような現象で、健康への悪影響が懸念される。米国では電子タバコによる呼吸器疾患が急増し、死者まで出ているからだ。

 加熱式タバコ製品(Heated Tobacco Products)は約30年前から市場に現れた新型タバコだ。日本ではフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)のアイコス(IQOS)が先鞭をつけ、日本たばこ産業(JT)のプルーム・テック(Ploom TECH)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のグロー(glo)、インペリアル・タバコのパルズ(PULZE)といった製品が出回っている。

 PMIの2019年第3四半期の資料によれば、アイコス・シリーズは世界の51市場で売られ、全タバコ製品における同期の日本市場でのシェアは17%で前年同期に比べて1.5ポイント増加しているという。アイコスは他の加熱式タバコ製品より多くのシェアを獲得しているようだが、加熱式タバコの喫煙者の喫煙行動パターンはタバコ会社によるもの以外ではこれまであまりよくわかっていなかった。

 最近、米国ニューヨーク州にあるロズウェルパーク総合がんセンター(Roswell Park Comprehensive Cancer Center)などの研究グループから、日本でのインターネット調査から加熱式タバコの使用状況を分析した論文(※1)が出された。研究グループには日本人研究者も含まれ、新型タバコの特異的な市場としての日本人喫煙者の動向がわかってきた。

 この調査はインターネットを利用したもので、適格性スクリーニング後、タバコを吸わない人も含めた20歳以上の日本人4684人を対象にし、2018年2〜3月にかけてオンラインで行われた。この中から加熱式タバコの喫煙者を選別(※2)し、少なくとも月に1回以上、紙巻きタバコと併用する喫煙者をデュアルユーザー(Dual User)とした。

 結果は、タバコを吸わない、あるいは元喫煙者を含む全対象者のうち、加熱式タバコの喫煙率は2.7%、紙巻きタバコと加熱式タバコのデュアルユーザーは67.8%(元喫煙者25%)で、さすがに加熱式タバコをタバコ製品ではないと勘違いする人は少なく、タバコを吸わない人で加熱式タバコを吸っていると回答したのは1%しかいなかった。

 ブランド別の喫煙状況では、アイコスが64.5%と最も多く、味付けではメンソールが最も多かった。また、アイコスは若年層で喫煙者が多く、プルーム・テックは日常的な喫煙には使われない傾向があったという。

画像

ブランド別の喫煙状況を年代別でみたグラフ。20代でのアイコス喫煙者が多く、年代が上がるごとにプルーム・テックの喫煙者が増えていくことがわかったという。Via:Edward Sutanto, et al., "Prevalence, Use Behaviors, and Preferences among Users of Heated Tobacco Products: Finding from the 2018 ITC Japan Survey." International Journal of Environmental Research and Public Health, 2019

 以前から日本の喫煙者はメンソールなどの味付けタバコを好む傾向があり、加熱式タバコのタバコ部分もそうした製品が圧倒的に多い。こうした味付けタバコは、若年層が手を伸ばしやすく、喫煙習慣へのゲートウェイになっている。

画像

2019年11月現在の加熱式タバコのタバコ部分のラインナップ。青い網掛けが何らかの味付け製品。メンソールの他、ミントやフルーツ味などがある。表作成筆者

タバコ会社に騙される喫煙者

 今回の研究グループには、タバコ問題や加熱式タバコの研究を続けている田淵貴大氏(大阪国際がん対策センター疫学統計部副部長)も加わっている。調査結果から日本における加熱式タバコの問題点がわかってきたという。

──今回の研究で明らかになったことで特に懸念するような現象はありましたか?

田淵「重要な観点は、加熱式タバコユーザーに占めるデュアルユーザー(Dual User)が多いことです。加熱式タバコを使用した理由が『Perceived reduction in health risk compared to smoking(紙巻きタバコに比べて健康リスクが少ない)』であり、タバコ産業の(有害物質)90%減という歪められた広告戦略によって騙されていることがわかります」

──この研究により加熱式タバコに対するより効果的な規制方法は何か提案できますか?

田淵「タバコ産業の90%減の広告は、都合の良い物質だけを選んだことによる虚偽広告の側面が強いのです。例えば、9種のなかにはニコチンは含まれていません。WHO-9というカテゴリーは、確かにWHOがある時に選んだ9種の有害成分ですが、世の中に沢山あるカテゴリーの一つに過ぎません。ニコチンを含めていない9種であり、それが今回の加熱式タバコの有害性をごまかすために都合の良いカテゴリーだったから、そのカテゴリーが利用されたに過ぎないのです。ニコチンを含まないカテゴリーによる広告はやりすぎですから、禁止する必要があると思っています」

 今回の調査研究で日本の加熱式タバコ喫煙者が、タバコ会社が主張する有害性成分低減を健康への害の低減と錯覚し、シチュエーション別に紙巻きタバコと吸い分けるデュアルユーザーになっていることがわかった。田淵氏が述べているように、実は加熱式タバコの有害性成分は少なくなっているとは限らないのだ。

※1-1:Edward Sutanto, et al., "Prevalence, Use Behaviors, and Preferences among Users of Heated Tobacco Products: Finding from the 2018 ITC Japan Survey." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.16, Issue23, 2019

※1-2:itc(International Tobacco Control)による日本調査1回目(2018年2月3日〜3月2日)。

※2:アイコス、プルーム・テック、グロー、3種類の加熱式タバコの喫煙状況を「毎日」「毎日より少ないが少なくとも週に1回」「毎週より少ないが少なくとも月に1回」と回答した者。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事